SHIMANO DEORE XT PD-T780
購入価格: ¥6,100くらい
標準価格: ¥8,260 (税込)
『3年間以上快適に使用。ユーザー自身でグリスアップ可能だが、ペダル軸の外し方が難しい』
■ PD-T780を長期間使用してみて…
私はGIANT SEEK R3というクロスバイクに乗っている。SEEKはトレッキングバイクコンポーネントに統一し、DEORE XT T780シリーズとDEORE T610シリーズをミックスして使っている。ペダルもトレッキング用にこだわり、DEORE XT PD-T780を3年間以上使っている。
このペダルは片面SPD/片面フラットのマルチパーパスペダルで、毎日の通勤からツーリングまで多用途に使えるように作られている。このペダルのレビューは以前も投稿したが、今回は耐久性やメンテナンス性、長期間の使用で感じたことを新たに書こうと思う。
SHIMANO DEORE XT PD-T780
■ クロスバイクの見た目を高める洗練されたデザイン
DEORE XT T780シリーズは、ブラックとシルバーが混在する色使いやキャップレスデザインではないクランクなど、個人的には好きなデザインではない。だが、PD-T780は近未来的に洗練されたデザインが好印象で、下位のトレッキングバイクコンポーネントに合わせても全く違和感がない。角の取れたケージのデザインはペダルを小ぶりに見せ、内蔵のリフレクターと8mmアーレンキーで取り付けるペダル軸がすっきりした印象を与えている。
カラーはブラックのみでアルマイト仕上げ。DEORE XTのVブレーキやハブと同じような質感だ。ただ、PD-T780に限ったことではないが、クリートが接触するとアルマイトが剥がれて傷が目立つのが残念だ。傷は自動車用の補修ペイントを使えば、ある程度目立たなくすることは可能。この点が救いといえば救いだ。
トレッキングバイクコンポーネントで統一したGIANT SEEK R3 (左)
最近のシマノのコンポに共通する近未来的なデザイン。クリートの接触でアルマイトが剥がれるのが残念 (右)
■ 片面SPDペダルと同様にスムーズな着脱
PD-T780はビンディングが後ろを向くようになっており、つま先で回転させて向きを変えなくてもスムーズにステップインできる。ステップイン時に間違ってフラット面を捉えてしまうようなことはあまりない。ステップイン・アウトの容易さは、PD-A600とほぼ同様。慣れれば見ないでもステップイン可能だ。
最弱のスプリングテンションはちょうど良く、SPDペダル経験者でも物足りなさを感じず、初心者でも強すぎることはないといった感じだ。PD-A600のようにスプリングテンションが強すぎて、ステップイン・アウトが負担になることもない。付属するのは多方向に解除できるマルチモードクリートだが、私は引き足を重視してシングルモードクリートを使用。今でも快適にステップイン・アウトを楽しんでいる。
現在はスプリングテンションが低いCLICK’Rも選べる。ショップで試着した限りでは、SPDペダル経験者には物足りなさそうだが、初心者には選択肢のひとつになるはず。DEORE XTレベルを求めるなら、PD-T700を考えてみてもいいかもしれない。
足を斜め上から滑り込ませれば、容易にステップインできる。ケージも大きくてSPD面を捉えやすい (左)
シングルモードクリートなら物足りなさを感じない (右)
■ フラット面は中途半端だが、チョイ乗りには便利
このペダルのフラット面は使いやすいとは言い難い。足を離したときのペダルの向きはSPD面をスムーズに捉えるように最適化されており、フラット面を捉える際にペダルの後部を回転させてフラット面を後ろに向けたり、ペダルを見てから足を乗せる必要がある。SPD面のスムーズなステップインに慣れると、フラット面に足を乗せるまでの予備動作が煩わしく感じる。
また、ケージの突起はVANSのスニーカーのような凹凸のあるソールには食い付きやすいが、革底のシューズには滑りやすくて全く不向きだ。ビンディングシューズでフラット面を踏むような使い方にも向いていない。DZRのようなクリート取付面の窪みが大きいシューズなら問題ないが、シマノのシューズではクリートがペダルに干渉して滑りやすい。
また、交差点などでは、ステップアウトしてからフラット面に踏み替えるよりも、ステップアウトした状態でSPD面を踏んだ方が実用的。SPD面の踏面が広いので、これでもある程度はペダルのコントロールが可能だ。
フラット面の捉えにくさとケージの食い付きの悪さを考えた場合、PD-T780にはフラットペダルと同等の使い勝手を期待しない方が良い。フラットペダルの使用頻度が高いなら、思い切ってフラットペダルにした方が快適だと思う。
私はPD-T780をほぼ片面SPDペダルとして使っているが、フラット面はスニーカーで近所のコンビニに行くような場合には役に立つ。PD-T780は片面SPDペダルと同様の使い勝手のまま、フラット面がオマケに付いてくるペダルといった感じ。フラット面にどの程度期待するかによって、このペダルへの評価は大きく変わってくるはずだ。
靴底に優しい突起だが食い付きは良くない。シマノのSPDシューズではクリートが中央部に干渉して滑る (左)
ペダルを回転させてからフラット面を捉えるのが手間だ (右)
■ 十分に高効率なSPD面のパワー伝達
SPD面の踏面は、PD-A600ほどではないが十分に広く、PD-A530よりもずっと広い。広い踏み面は加重の際の安定感を生み、効率の良いパワー伝達に貢献してくれる。PD-A600の方が力が伝わりやすいが、PD-T780の方が反力というかダイレクト感が若干小さい。この辺はマルチパーパスペダルらしいバランスに仕上がっていると感じた。尚、展開図を見る限りでは、ペダル軸(Pedal Axle Assembly)はPD-A600と同じだが、ペダルの形状によって味付けが変わるのは興味深い。
PD-A600ほどではないが十分広い踏面。少なくとも安定感やパワー伝達に物足りなさは感じない
■ DEORE XTらしさを感じる上質な回転
私が最もDEORE XTらしい上質さを感じたのが回転の滑らかさだ。PD-A600は開始直後からULTEGRAグレードらしい回転の軽さが特長的だったが、PD-T780はグリスの粘度が効いた滑らかさが上品だ。決して軽くはないが、私はこの滑らかさが好きだ。
前述の通りペダル軸はPD-A600と同じだが、回転のフィーリングは随分違う。PD-T780は耐久性を重視して強めに玉当たり調整されたり、グリスを多めに封入されたりしているのかもしれない。ベアリングなどの摩耗が進んで当たりが出ると、回転はますます軽くなり、PD-A600と同様に軽く回転するようになる。
■ 3年間以上快適に使用
PD-T780はクロスバイクに乗り始めて間もない頃に購入したこともあり、ペダルの側面に傷が多く付いてしまった。他にも小傷が多数あるが、先に述べた通り、自動車用のペイントで補修しながら使っている。ビンディングも塗装が剥がれて、洗車や雨天走行で錆びやすくなったが、これはオイルスプレーで防錆可能だ。動作は快適そのもので、ゴムシールからグリスが漏れることもない。1回の走行距離は短めだが、耐久性は高いといえると思う。
■ ペダル軸は外しにくいが、グリスアップ可能
ずっと快適に使えていることもあって、私はPD-T780を一度もグリスアップしたことがない。だが、回転の軽さは気になるところで、これ以上摩耗が進むとガタが出るのではないかと考えていた。そこでPD-A600と同時にグリスアップすることにした。
だが、PD-T780のペダル軸の外し方が分からない。PD-A600はモンキースパナで簡単に外れたが、PD-T780はロックボルトの側面にケージが張り出しており、モンキースパナがかからないのだ。17mmのロングソケットが使えないか考えたが、ペダルのネジの皿の径の方が大きい。専用工具がなければ無理ではないかと思ったが、17mmのコンビネーションスパナであっけなく外れた。
17mmのコンビネーションスパナなら、工具の先が細くのでロックボルトにかかる。大きく回すとケージの張り出しに干渉するので、タオルでケージを保護しながらロックボルトを緩める。それほど大きな力は必要ないが、ロックボルトにねじ緩み止め剤が塗ってあるので、PD-A600よりは硬い。緩んだらケージに干渉しないように少しずつ回すだけだ。ただ、ペダル軸を取り付ける際は注意。スパナの先端がケージとロックボルトの接触面に干渉し、アルマイトが剥がれることがあるからだ。
尚、玉当たり調整などの方法は、PD-A600と全く同じだ。使用頻度を考えて少しゴリゴリした感じが残るように、PD-A600よりもやや渋めに調整した。グリスアップ後のPD-T780は、購入直後のようなグリスの粘度が効いた滑らかな回転が実に気持ちが良い。最近ではグリスが馴染んだ分、回転の軽さと滑らかさが両立するようになった。
(参考) SHIMANO PD-A600 290g:
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=6305&forum=44&post_id=23024#forumpost23024 17mmのコンビネーションスパナでケージに接触しないように少しずつ回す (左)
ペダル軸を外したPD-T780。外し方を思いつくまでに数日を要した (中央)
グリスは汚れていたが、軸やベアリングに虫喰いはなくひと安心 (右)
■ SPD面をメインに使うなら高評価のペダル
PD-T780はDEORE XTの名に恥じない素晴らしいSPDペダルだった。デザイン、回転の良さ、耐久性、メンテナンス性はさすが上位グレードといったところだ。フラット面は中途半端な感じが否めないが、マルチパーパスペダルらしさがあり、クロスバイクのような多用途に使う自転車にはぴったりだと思う。フラット面をどう捉えるかで評価が変わると思うが、個人的には大好きなペダルだ。
グリスアップを終えたPD-T780。今後もこのペダルを楽しんでいきたい
価格評価→★★★★☆ (良いペダルをリーズナブルに購入できた)
評 価→★★★★★ (DEORE XTらしさを感じるペダル。フラット面はチョイ乗りに便利)
<オプション>
年 式→2012年モデル
カタログ重量→319g (1ペア)