購入価格 送料や消費税込みでおおよそ¥240,000
Neutron Ultra位頑丈で使い勝手がよく、Zipp404並に巡航で楽が出来るホイールが作りたい。
そう思って組みました。
仕様を決める際最初に頭に浮かんだのは、Smart ENVE System 3.4(以下SES 3.4)というリム。前後別で専用設計された異型リムなのですが、TTやトライアスロンにも通用するドラッグの低さを持ちながら横風にあおられても急激に操舵フィールが悪化しない空力特性も併せもち、それなりに軽量でもあるというのがうたい文句。スポークカウントもF:20/R:24Hなので、Zipp404よりも駆動トルクに対して強いホイールが期待できます。
リムを単体で購入すると、穴数分のPillar製内蔵ニップルと純正ブレーキパッド(Shimano/SRAM用のみ。カンパ用も販売はされているがリム購入時に選択は出来ない)が付いてきます。リムにはシリアルナンバーが入っており、製造に携わったスタッフやら出荷前の状態やらがトレースできるようになっているそうです。また正規代理店を通じての購入と登録が必須になるようですが、購入後2年間の保証とクラッシュで破損した場合の新品割引プログラム(定価の50%off、1回のみ有効)もあるそう。ブレーキトラックには80番位のサンドペーパーのグリットのような特殊なコーティングが施されていて(カーボンハンドルのクランプ部に施されているものと似た感触)、専用パッドと併用することで過剰な発熱を抑えるようになっているそうです。ただし他社パッドを使用してリムを破損した場合保証は適用されないそうなので、注意が必要。
実測重量は…
フロント 359g(公称重量340g)、
リア 376g(公称重量380g)でした。
(純正パッド、左Shimano/SRAM用、右カンパ11速対応)
ENVEのディープリムに組み合わせるハブは、慎重に選定する必要がありそうです。というのも、ENVEリムは最近では珍しい、スポーク穴が左右フランジに向けて振られず垂直に空けられているタイプで、ニップルも内蔵タイプなのでスポーク穴径がかなり小さくなっているからです。このタイプのリムではNDS側フランジが大きかったりドロップエンド側へ大きく寄せられたハブと組み合わせるとスポークに角度がつきすぎて、スポーク穴に干渉してしまう可能性があります。リムハイト45mmともなるとNDS側スポークに割と大きな角度がつくので、ワイドフランジを持つハブでラジアルパターンを併用するような場合はspocalc.xls等を用いてリムへのスポークの進入角度=bracing angleを確認しておくか、または他のビルダーなどによって組み立てられた実績があるかあらかじめリサーチしておいたほうが良いでしょう。ENVE Compositesからも手組みされたホイールセットが販売されていますが、使われているハブはDT SwissやChris Kingといった左右フランジ幅50~55mm程度の比較的控えめなものとなっています。結局組み合わせる事にしたのはDT Swiss 180 Carbon Ceramicというモデル。これは190 Ceramicの後継で、細かい改良点が幾つかありますが基本的に同じディメンションとメカニズムを引き継ぐハブです。
フロント(20H)実測100g
リア(24H、Shimano/SRAM用)実測183g。
例によってDT Swissの公称重量には寸分の狂いもありませんでした。
レーシングパターンはいろいろ考え、メーカーのサポートにも意見をもらって考えました。フロントはラジアルで即決ですが、リアのNDS側をどうするか…パーツの要件としてはリムもハブもラジアル組みを許容します。ハブのディメンションからラジアルと2クロスのテンションバランスを計算・比較すると、スポーク長がクロスにする場合10mm長くなるのでラジアルのほうが約3%テンションを高くできます。仮にDS側をハブの許容いっぱい1200Nで張ると、640N(2クロスでは610N)。まあほとんど変わらないというか、Park Tools TM-1でもDT Tensioでも正確には計測できないほど小さな差です。同じようなリムハイト・スポークカウントで240sを使うReynolds DV46TもNDSはラジアルですからまあ問題はないでしょう…でもDT Swissのカーボン完組RRCはすべて2クロスだったな…と数日悩み、結局ENVE Compositesに直接アドバイスを求めてみました。マーケティング部長のJake Pantoneが答えてくれたのですが、彼が個人的に使っているSES3.4のNDS側はラジアルにしているが何の問題もないとのことでした。ということで、私もラジアルにすることにしました。目標テンションはF:900~950N、R-DS:1,200N以下、R-L:600~650N。いずれもハブフランジが許容している上限に収まる設定です。リム側の上限は135kgf(≒1,350N)らしいので、まだ余裕があります。前述のブレーシングアングルですが、スポークの頭を外にしたラジアルだとspocalc.xlsでの計算では5.5°になるようです。実際にはギリギリという感じで、6.0°を超えると問題が生じるかもしれません
スポークには全てCX-Rayを用いました。全部真っ黒だと味気ないので、一部はハブフランジにあわせてホワイトにパウダー塗装されたものに。長さはF:274mm、R-NDS:262mm、R-DS:272mm。ちなみにNDSを2クロスにすると273mmで、実際は274mmでもOKですから274mmx32本+272mmx12本、または44本全て273mmで統一してしまうことも可能かと思われます。実測重量の写真は割愛しますが、F20本が88g、R24本が51(NDSx12本)+53(DSx12本)=104gでした。パウダー塗装されたスポークは同じCX-Rayでも塗膜分(0.2mm程)厚さが増すので、テンションメーター上で無塗装のスポークよりテンションが高く表示されることに注意しなければなりません(Park Tools TM-1上で2~3目盛ズレがありました)。ニップルはPillar製六角タイプのものがリムに付属するのですが、私は別途Nylocが内蔵されているものを手配して使うことにしました。これは付属のものより1.5mm程全長が短く、わずかながら軽くなっています(純正9.5mm、Nyloc入り8mm。44個で13gと付属のものより5g軽い)。これを使うことにしたのは軽量化目的ではなく、内蔵であるがゆえのテンション調整や振取の面倒(タイア剥がさなきゃなりませんから)を少しでも減らしたかったから。詳細は後述しますが、結構効果あったんじゃないかと思います。
これでパーツが揃いました。
とにかく入手に難儀して、最初にリムを発注してから完成まで4ヶ月かかってしまいました…
仮組み前、スポークのスレッドは脱脂してスポークプレップで下準備しておきます。一応ニップルとリムの過度な摩擦を防ぐためシリコングリスをつけた綿棒で軽くリム内のニップルが当たる部分を拭い、仮組みには例の自作Nipplerを使いました。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=7035&forum=33#forumpost15330カーボンリムを組む場合、アルミとは少し異なる注意が必要です。組み立てが難しいからではなく、リム内に残っている細かな切子やダスト、ファイバーの切れ端(指先に刺さったりすると結構厄介)が少なからず出るからです。作業環境には注意しましょう。組む前に屋外でリム内部に軽くエアを吹くなどしておけば減らせますが、カーペットなど掃除が困難な場所や、小さなお子さんが出入りするような部屋で組むのはやめておいたほうが無難かと思われます。ENVEのリムはドリルなどによる切削工程が少なく、成型圧縮に用いるブラダーとよばれる空気袋も出荷前にほぼ完全に取り出しているらしく、切子やカスがかなり少ない部類だと聞いていますが、それでもサンディングなどを経て出たダストが残っており、2本組み上がる頃には振取台はうっすら埃がかぶったように汚れ、鋭利なファイバーの切れ端も見られました。
リムの精度が非常に良かった為、縦振れも横振れも特に苦労せず±0.15mm内に収まりました。タイアに8barまでエアを入れてみたところ、スポークテンションの落ちは100N未満だったので相当に硬いのだと思われます。気になるホイールの横方向剛性ですが、無負荷状態でリアのリムを横から押してみた感触では404と同じくらいのレベルに収まっています。リムハイトが13mm低く、ハブフランジ間隔も5mm近く狭くなっていることを考えると悪くないでしょう。フロントは404よりも明らかに固く仕上がっていました。完成状態での重量はフロント556g、リア672gで合計1,228gでした(タイア・スキュアー・カセットを含まず)。250km走行して一度タイアを剥がしテンション調整と振れ取りを行いましたが振れ幅は左右に0.3mm程、スポークテンションはフロント・リア共に100N程度落ちていました。
さて250km程乗ってみた感想ですが、第一印象はとにかく硬い…と感じました。今現在私の手元にあるホイールの中では、間違いなく一番乗り心地が硬いホイールです。これはおそらくリムが相当に硬い為で、Zipp404やNemesisで使用しているのと同じタイア・エア圧でセッティングすると跳ね気味になる程でした。乗り心地はイヤになる程ではありませんが路面の不整や振動を伝えてくるので、タイアとエア圧のセッティングで対処してやる必要がありそうです。NeutronやNemesisで感じられるバネ感のようなものはほとんどなく、ロングライドやスローペースでの走行では硬さばかり目立って感じられるかと思います。極端に硬いフレームに組み合わせると、ちょっと辛いかも…ペダル入力に対する反応はリニアで、踏み出しから定速巡航に入るまでもたつくような感じは一切ありません。ペダリングで撓まない物体を回している感覚といいますか、このリアホイールは32HのNemesis並みとまでは行かなくともNeutronよりもスポークカウントの多いホイールのように感じられます。軽さも十分以上ですしヒルクライムにはもってこいですね。空力性能について断言めいたことは言えませんが、下りでのスピードの伸びや巡航速度を比べても404に大きく劣るようなことはなさそう。
ハンドリングについては特にフロントホイールがこれまで使ってきたものよりも横方向に硬くなったため、CAAD10のハンドリングがシャープに感じられるようになりました。これまではZipp404ではどうも物足りないと感じていたのでNeutron+Open Paveの組み合わせでタフで大らかな走行感を楽しんできましたが、このホイールでフロント周辺が硬く締め上げられたように感じられました。リアは路面からの突き上げが増え、どうやら縦方向の剛性は404やNeutronよりも高くなっていそうですが、横方向については正直なところ良く分かりません。スプリントや激坂登坂もしてみましたが不安や不満は感じなかったですし、先述の跳ねるような挙動もエア圧を落としたところ落ち着いたのですが、リアにラジアルパターンを用いたのが正解だったのかはこの先スポークやフランジに問題がでないか観察しながら結論を出したいと思います。
ハンドリング特性と加速性能についてはほぼ目論見通りで、乗り心地の悪化が想像より大きかったものの、目的の半分は達成しました。
残るは強風下での安定性ですが…これには本当に驚きました。意図的に風の強い日に荒川沿いを走ってみたのですが、期待以上の安定性を示してくれました。橋などのオープンスペースで強風が横方向から吹きつけると、リムハイトが高いホイールではハンドルを強く引っ張られたり、逆に弱まった瞬間反対方向へ押し返されるような感じがするのですが、このリムはそういった急激な変化をほとんど示しません。風が吹き付けるのを全く感じないわけではありませんが、風向や風力が変わってもハンドルが急激に揺さぶられる感じはなく、曲率一定のカーブを曲がり続けるような感覚とでもいいましょうか。404なら下ハンドルにしがみついて押さえ込んでいるような状況下でも、ブラケットを握ったままでいられます。これならば、風が強いからといって使用を避ける必要はないでしょう。逆に風が弱い時や路面が荒れている時の直進安定性は、404の方が衝撃吸収の良さも手伝って優れていると感じました。
ブレーキ能力についてはまだドライでしか試せていませんが、純正パッドとの組み合わせではアルミリムに近い自然な制動特性を示します。パッドがブレーキトラックに当たると、かすかにザーッと音が出ますがレバーを握りこめば音は消え、漸進的に制動力が増していきます。パッドがギュルギュルと悲鳴を上げることも、唐突にリムがロックするようなこともありませんでした。404+SwissStopでも利きそのものに不安を感じることはまずないのですが、時折行く平均斜度10%近い峠では急な切り返しが続くため、リムやパッドが熱を持ってくるとスキール音が出たり制動力の立ち上がり方が不自然になることがあります。今回同じ場所にこのホイールを持ち込んだところ、そういった現象はでませんでした。ブレーキトラックの滑り止めのようなコーティングは摩擦で溶けるのか、凹凸が徐々になくなっていきます。コーティング自体が擦れて落ちてしまった様子は今のところないのですが…パッドやリムの磨耗が進むと変わってくるかもしれないので、これも今後注視していくつもりです。獲得標高900m程度コース走行後にパッドを見たところ、削れたパッドのカスが繊維質の綿埃のようになってグルーブに溜まっていました。どうもこのパッド、消耗は結構速そうです。リムが攻撃されるよりはマシですが、4個で$50と決して安くはないのであまりに速いのはカンベンして欲しいところ…手元に同じコンパウンドを用いていて売値はENVEのほぼ半額というReynolds Cyro Blueというパッドがあります。
(左がReynolds Cryo Blue)
リムを購入したショップの好意でおまけしてもらったのですが。しばらく純正の減り具合を観察してから交換・比較評価してみます。なお、フロントリムのブレーキトラックは26mmと相当に太くリアも24mmあるため、Zero Gravityのようなシングルピボットでパッド/リム間のクリアランス調整幅が狭いキャリパーはワイドリム対応のカムやパッドホルダーに交換するなどの対策を施さないときちんと動作しない場合があります(Shimanoやカンパのようにブレーキアームが長く、かつパッド/リム間のクリアランス調整幅も広いキャリパーでは問題ないと思いますが)。
まとめると、硬派で何でもこなせるオールラウンドホイールです。カーボンディープの弱点である気象条件の変化はほとんど意識しなくて良いし、長期的な耐久性については未知数ですがNeutronと比べてもデリケートな感じはしません。チューブラーリムであること・パッドなどの消耗品にかかるコストがちょっと高いこと・乗り心地が硬いことなどが気にならなければ普段使いも十分できそうですが、のんびり走るのが目的なら快適性や直進安定性の高さも持っているZipp 404や303の方が良いでしょう。気象を選ばない特性やヒルクライムでの性能などを考慮すると汎用性は404よりも高そうで性能差も大きくはなさそうなことから、もしホイールを1セットだけ残して後は全て処分することにでもなったら、このホイールを手元に残そうかと思います。
価格評価→★★★☆☆(後悔はしていませんが、今なら240sを使って組めば200,000円切るでしょう)
評 価→★★★★★(素晴らしいオールラウンドホイール)
年 式→ 2011
カタログ重量→ DT Swiss 190 Ceramicモデル1,223g (実測重量 DT Swiss 180で1,228g)