購入価格 送料や消費税込み邦貨換算 約¥230,000
過去にレビューしたSES 3.4のハイト違い、SES 6.7を用いた手組みホイールです。
3.4に関するレビューは下記でどうぞ。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=9205&forum=30構造や製法などは3.4と全く同じで、リムハイトだけノッポになっています。F:60mm R70mm。もうこのあたりが公道で履きこなせる限界ではないでしょうか。ENVE自身のレーティングでは、ロード/TT/トライアスロン向けとなってます。
3.4はなにかと制約の多いCervelo S3で使うことを考慮し、スポーク/チェーンステイ間のクリアランスを稼ぐ為フランジ幅の狭いDT Swissハブを用いましたが、今回はリムハイトが高くなるので多少広げても大丈夫だろうと判断し、Chris King R45を組み合わせてみました。なお、組んだ当初はShimano/SRAM11速もカンパ11速も対応していなかったので必然的に9/10速フリーボディとなりました。現在はどちらへもコンバートできるキットが発売されています。R45の11速コンバージョンについてはすでにレビューしたとおり。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=8848&forum=26&post_id=20130#forumpost20130まずは手組みに必要な情報からいきましょう。
フロント
スポーク穴数:20H
リムハイト:60mm
ブレーキトラック部の幅:26mm
Pillar製内蔵ニップル専用
ERD:535mm(ニップル分含む)
公称重量:440g (実測459g)
リア
スポーク穴数:24H
リムハイト:70mm
ブレーキトラック部の幅:24mm
Pillar製内蔵ニップル専用
ERD:517mm(ニップル分含む)
公称重量:480g (実測479g)
・組んでみた感想
3.4より頑丈で縦振れが出にくいので真円に近づけるのは割と簡単ですが、リム穴から内蔵ニップルまでが遠い上ニップルに角度がついて寝ているため、工具のアクセスが良くないです。スポーク自体が短いのもあってスポークテンションを綺麗に揃えるにはちょっと根気が必要。注意しなければならないのはその位で、あとは3.4となんら変わるところはありません。ニップル回しはPillar純正のものが一番使い勝手がいいように思います。長さが足りないかと心配しましたが、杞憂でした。Park ToolのSW-16.3も用意しておきましたが、最終的なテンション調整には便利なものの早回しがしにくいグリップ形状な上、ニップルを回した回数をカウントするのも面倒なので、あまり積極的に使いたくなりませんでした。
そしてChris King R45 Ceramic(Shimano・SRAM 9/10速用)。
参考までに、ハブ単体での実測重量はF:101g、R:217g(11速にコンバートしても重量は変わりませんでした)。詳細についてはすでにハブ単体のレビューがありますので、詳しく知りたい方はそちらをお読み下さい。DT Swissハブと比較した個人的感想は後ほど詳述します。カタログや取説にはフランジ側のスポークテンション許容値に関する記載がありませんでした。念のため購入したwheelbuilder.comのRichに聞いてみたところ、DS側をクロスさせて130kgf位なら全く問題ないけれど、ラジアルパターンなら100kgfは超えないようにとアドバイスしてくれました。また、リム側も公称許容値が135kgfになっているけれどもDS側で110~120kgf位に留めておいたほうが良い、と教えてくれました。かなり数を組んでいるビルダーからのアドバイスなので、ここは素直に従っておくことにしました。
レーシングパターンはフロントラジアル、リアは両面とも2クロス(イタリアン)。スポークはSapim CX-Rayでそれぞれ長さはフロント250mm、リアNDS249mm、DS247mmです。リアNDS側をラジアルにするかクロスにするかは、使用するハブが決まった時点でスポーク長とテンションバランスを試算し判断すればいいでしょう(ハブによってはラジアルNGの場合もあります)。計算は省きますが、R45の場合DS側・NDS側共に2クロスにするとテンションバランスは1:0.55。仮に110kgfまで張ればNDSは2クロスでも60kgf程度と十分なテンションが得られるので、フランジへの負担がより大きくなるラジアルパターンをあえて採用するメリットはない、と判断しました。実際に組んだところ、DS側110~120kgfに対しNDSは65kgf前後で張れました。組みあがりの実測重量はフロント650g、リア803g(タイア・スキュアー・ロックリング等含まず)。覚悟はしていましたが、フロントが結構重いですね…
・実際の走行インプレッション
まず空力アドバンテージについて。
はっきりと現れるのは40km/h+の高速域。条件さえ揃えばバケモノじみた不気味な伸びを発揮し、対SES 3.4で3~4km/h+トップスピード差をつけることもあります。3.4のように低速から加速力が炸裂して徐々に頭打ち感が出てくる感じではなく、ほぼ一定ペースで延々と伸び続ける感覚。高回転まで回るエンジン積んだ2リッターホットハッチと、大トルク粛々とスピードを積み上げる大排気量車の違いのような。ですが毎回それを無条件で味わうわけに行かないのがこのホイールの難しいところで、同一コースを走っても路面コンディションや風向き次第で優劣があっさり逆転します。端的に言って風が凪いでいて35km/h以上をキープできるようなコースでない限り、6.7は3.4よりも扱いにくくロスが大きいように感じられます(パワーメーターを持っていないので、あくまでライド後の疲労感やアベレージスピード、コース上のスプリットタイムなどから導いた類推ですが)。たしかに3.4は6.7にトップスピードで及びません。ですが加速の鋭さやヒルクライム性能、ハンドリングの鋭さなどはほぼ無条件で3.4の圧勝なのです。外周部の重さがそのまま差となって出ている印象です。6.7もけっして重いホイールではありませんが、3.4と比べると差は歴然です。余裕をもって平地を40km/h+巡航を長時間維持できる脚力があればもっと6.7の空力性能を引き出せるのでしょうが、そこまでの脚力がない私は35km/h位までで加減速を繰り返す走行パターンが多く、そうなるとピークの空力性能で勝る6.7よりも常用域での加速力と速度維持性能のバランスが優れている3.4の方がより多くメリットを享受できると感じます。気象条件にかなり大きく揺さぶられるのもあって、今では6.7はほとんどCervelo S3に入れっぱなしで、たまに天気と体調が良い時に引っ張り出して気分だけカンチェラーラになりきるためのコスプレアイテム、といった感じになっています…
乗り心地には期待しないで下さい。
微細な振動はリムでかなりカットされるので割と静かなのですが…路面が荒れてきた時の乗り心地はあまり褒められたものではありません。3.4よりもハンドリング特性が穏やかなのもあって路面が良ければ静かで落ち着いた印象を受けるのですが…タイアが拾いきれない振動や衝撃はほぼそのままスポークに伝えているかのようで、スポークが短いことも手伝いしなやかさとか軽快感といったものはほとんど感じられません。乗るのがイヤになる程トゲトゲしくはありませんが、決して優しい乗り心地ではありません。CX-Rayでこの有様なのでもしプレーンスポークを使って組んでいたら、(私の体重とパワーでは)剛性が行き過ぎたものになっていたかもしれません。
ハンドリングはちょっとモッサリしています。
リム重量と空力特性(ハンドル操作時リムサイドを流れる風の影響?)双方が原因になっているようですが、荷重移動への反応は緩やか。もちろん、私の体重とパワーではいくらもがいてもブレーキシューとリムが擦る事はないので剛性不足によるものではありません。上半身を使った荷重移動をサボると走行ラインが膨みがちになり、修正は3.4のように容易ではありません。特性に慣れてしまえば特に問題はないですが、3.4の全速度域にわたって手首や視線の移動にまで反応してグイグイ曲がる感覚を体験してしまうと、ちょっとダルいなぁと考えることがあります。
強風時は当然ハンドルにかなり強い力がかかります。
ハイトが近いZipp404と比べると力そのものは強く感じますが、風向が急に変わってもハンドルがいきなり揺さぶられる感覚は少ないので、多少扱いやすく感じます。とはいえ、先述のようにハンドリングに若干の癖もありますし、悪天候下で使いたいホイールではありません。
ブレーキの効きは3.4を上回ります。
特に初期制動が強く感じられるのは、ホイール全体の剛性が3.4よりも高いからでしょう。フルウェット時だけはアルミリムより制動距離が大きく伸びてしまいますが、3.4、6.7ともにドライコンディションでのブレーキ性能はケチのつけようがありません。耐衝撃性能も全く問題なし。抜重せずに深い段差に乗り入れる、高速走行中にうっかり路面の穴にホイールを落とす、鋭利なものを踏んづける、長い下り坂でスピードを絞るためリアブレーキを引きずりっぱなしにする、砂埃が噛んだままの状態でブレーキをかけ続ける、などカーボンホイールにおける基本的なタブーさえ避けておけばOK、特に気難しいことはありません。何度となく手加減なしで峠を下りまくりましたが、跳ねた小石でクリアやデカールが欠けている場所が数箇所、ブレーキトラックの耐熱レジン層が熱を受けて少し斑に変色しているだけで、特にくたびれた感じはありません。
・総括
好天時は3.4と比べると全般的に挙動が穏やかで大人しく感じられるのですが、それは仮面で乗り心地はかなり硬いです。ハンドリングには結構癖があり、荒れた路面や悪天候下ではそれなりにテクニックが求められます。40km/h以下での総合性能は軽量な3.4のほうが高く、6.7の本領を引き出すにはやはり脚力が求められます。長時間の高速巡航が可能なパワーがある人、あるいはレースやTT専用で中低速域の性能をある程度切り捨ててでもピークパフォーマンスを優先したい人は、6.7がいいでしょう。逆に40km/h以下では3.4のほうが扱いやすく軽快なので、ほとんどのホビーライダーは3.4のほうが好ましく感じられると思います。
・おまけ ー ハブの違いによる性能差について
メンテナンス性や耐久性について差異が見られます。DTハブは汎用ラジアルカートリッジベアリングを採用しているので、ベアリングに関しては基本的にルブ再注油もプリロード調整も不要。腐食や虫食いなどを起こしてトラブったら新品ベアリングに打ち換えるだけです(要専用工具)。スターラチェットは高価な専用グリスを使った定期メンテが必要ですが、経験的には普通のライディングコンディションだと1年又は10,000km位放っておいても大丈夫ではないかと思います。グリスアップのタイミングは、空走時のラチェット作動音で判断できます。肉抜きされたSLラチェットリングは新品でグリスをちゃんと塗ってあってもジャージャーとけたたましく、音量だけでは判断しづらいですから音質も含めて判断します。しっかり潤滑されている状態ではくぐもった低い音が出ますが、シャーとピッチの高い乾いた金属的な反響音が混じりだしたらグリスが干上がってきているサイン。一方R45は最初の100km以内で各部の馴染みが出て落ち着くまで、頻繁なガタやルブ流出のチェックが必要になります。一度馴染みが出ればそう頻繁にいじる必要はありませんが、内部のカートリッジベアリングはアンギュラーコンタクト形式なので、カップアンドコーン同様に調整によるプリロードの維持やグリス量管理が必要になります。きちんとメンテすればDTハブよりもずっと高い耐久性を発揮するでしょう(そのためにはある程度メカニックスキルとスモールパーツなどの費用を要します)。ドライブシェルのアッセンブリ交換やルブ再注入程度のメンテなら専用工具不要なのはDTハブ同様ですが、カンパ⇔Shimano/SRAMの駆動系を行ったり来たりするような使い方にはR45は向いていません。
価格評価→★★★★☆ (円高ピークのうちに組んでおいて良かった)
評 価→★★★★☆ (純粋にレース機材としてみると状況次第で3.4を大きく突き放しますが、個人的には3.4の方が好き)
年 式→2012
カタログ重量→ 1,534g (実測重量 F:650g+R:803g=1,453g、あれ、何ででしょうね?)