購入価格 ¥77320(Wiggle)
12月のとある日曜日、こんな箱が届いた。
とある日曜日と言っても今日の日付を考えればまだ1回しか日曜日は来てなかったのだが。
箱から出てきたそれはとても美しいホイールだった。
それは11月の最終週の話だ。RACING ZEROが破格でWiggleにて販売されていたのだ。
100000を切る処の話ではない。消費税入れても80000ちょっとで、
ねんがんの アイスソードを てにいれたぞ
じゃない、
ねんがんの レーゼロを てにいれたぞ
となってしまうのだ。
ただ、安すぎるのも若干不安だが。
「こいつ、スペックの高い悪女なんですよ」
なんでも、一部の選ばれし者以外、レーゼロに乗ると、脚力を延々と吸われ続けてしまうらしい。
しかしこちらは貧脚だ。吸えるほどの脚力なんかもとより持ち合わせちゃいない。
吸えるものなら吸って見やがれという勢いで購入に至ったのだ。
箱から出してその美しさに惚れ惚れしているところに、突然声が聞こえてきた。
「やっぱり、独り身の寂しい男の自転車のホイールになる運命なのね」
斎◯千和というか戦場ヶ◯ひたぎの声だ。
出処はわからなかったが、自分の脳内で再生された声なのか、ホイールが語りかけているように感じた。
それにしても一言目からひどい言葉だが。
「こんな年末の押し迫った時期に、いくら安いからといって私を安々と身請けするってことは、しかもギフトラッピングもなくということは間違いなく自分用、それも家族や恋人の目を気にする必要が無い独り身と相場が決まっていたわ」
ああ…全く反論の余地もない。こんなことならZONDAにすればよかった。
ZONDAだったら千◯撫子(初期)の様に、
「貧脚お兄ちゃんは、今日は自転車でどこに行くのかな?」
「貧脚お兄ちゃんには功夫(クンフー)…脚力が足りないよ」
と言ってくれ…これもなんだかだめだな。
「でも、独り身なら、クリスマスだって走るんでしょ?正月だって当然走るわよね?」
ところで、レイ(レーゼロなのでそう命名)さん?
「何?」
ステッカーの位置が前後でずれているんですが?
「あなたが独り身の理由がわかったわ」
はい?
「今まで付き合ってきた人も、そう重箱の隅をつつくように欠点を見つけ出してきたんじゃないかしら?」
これはレビュアーの性といいますか…
「あなたはステッカーがホイールの性能を決めると思っているの?」
そうではないですけど。
「例えば私にもし、RACING3のステッカーが付いていても、私はRACING ZEROだわ。そんなあたりまえの事位理解できないの?」
いえ、それ以前にタイヤの位置決めが前後で変わっちゃうといいますか。
「そんな簡単なこと、少しは自分で考えたら?」
見た目も大切じゃないか…
「バルブホールがステッカーに対してずれているのなら、こうするだけだわ」
「そもそもバルブホールにタイヤのラベルを合わせるのなんて、あなたの都合でしか無いじゃない。見た目と都合のどちらを優先させたいの?」
そりゃあ見た目だけど。
「なら、コレで問題わないわ。RACING ZEROを始めとしたカンパ、フルクラム系はステッカーが天地を確定させているの。ステッカーに合わせればバルブに合わせなくても自ずとラベルの位置が決まるわ」
それはそうだ。
「押し出しの強さだけで私を身請けしたIYHerなら最後まで押し出しで勝負しなさい」
それはそうと、ステッカーの位置、左右でもずれてるんだけど…
「右側の面にタイヤのラベルはないわよね?問題無いわ」
それもそうですね。
「ふ~ん。少しでも私の性格をマイルドにしようとOPEN PAVE付けるのね。悪くない選択肢だわ」
そうなのか?
「少なくともZAFFIROに比べればの話よ」
それ、全国数万のZAFFIRO乗りを敵に回してるぞ。
「でも、もっと大切なのは本体の貴方よ。誰かが自転車はフレームで決まるって言ってたけど、私は言いたいわ。『だったら貴方、そのフレームで内装3段のママチャリにのったフルームに勝てるの?』って」
かてましぇん…
「自転車で最も大切なのは、『乗り手が自転車に乗りたいと思う気持ち』だわ。その気持ちが自転車をどこまでも前に進めてくれる。私はその気持ちを一番理想的な形で前に進む力に変化させるだけ」
ホイールを装着して、前輪を手で回してみる。
どこまでもなめらかに回転する。
スタンドに載せたまま、ペダルに手でトルクを掛ける。
殆ど無音に近いラチェット音が聞こえてくる。
ママチャリ然としたRS-010とも、ギターの弦の様なキシリウムとも違う、静かな音。
「みんな勘違いしているんだわ。確かに私も、昔は『ハイエンドホイールとしての矜持』が明後日のベクトルを描いていた時代も有ったけど、大切なのは見た目ではないの」
「赤スポークの時代も、爆音ラチェットの時代も有ったけど、大切なのは『見た目で目立つこと』ではなく、『性能で目立つこと』よ。むしろ見た目は地味で良いの。どんなフレームでも着こなせてこそ優れたホイールだもの」
実際に乗ってみた。
結論から言えば「思ったほど悪女ではない」。
いつものコースで最大心拍はゾーン4、流しているだけなのに、平均速度は2km/h上がっていた。
何より初速の良さ。一切溜めずに前に進む力に変化してくれる。ストップ&ゴーの多い街中で止まることに苦痛を感じない。
そして35km/h位まで一気に上がっていく。
そしてスピードコントロールの良さも抜群だ。シューを当てたらその分だけ減速、引きずるような感じもなく、効きにむらも感じない。
上りはキシリウムと大きな違いは感じなかったが、気づけば28tに一回も入れずに走ってきていた。勿論フロントは全てアウター50tだ。
特定のトルクとケイデンスの「美味しいゾーン」がある感じで、そこにハマるとずっと回し続けたくなるような、すこぶる楽に速度が維持できる。
乗り心地も決して悪く無い。タイヤがタイヤだからという感じもするが、疲労を感じずに回し続けられる。ヒルクライムだけなら更に考えて見る必要もあるだろうが、高低差があるロングなら平地と下りの楽さ加減でこのアセンブリは自分の中ではかなり高ポイント。
「ふ~ん。思ったより普通の感想なのね」
いや、十分褒めてるだろ。
「まぁいいわ。これでクリスマスもお正月も独り身の寂しさを抑えこんでライドに集中できるわね」
いあそれは何と言いますか。
「不服なの?」
いいえ。そんなことは一切ありません。
価格評価→★★★★★(安すぎるレベル)
評 価→★★★★★(自分の乗り方にぴったりだったようだ)
<オプション>
年 式→2015
カタログ重量→ 1437g