ハブそのものに対する評価は、mk-2さんのレビューでほぼ全て網羅されてしまっていますので、私からはこのハブを11速対応にアップデートさせるためのレトロフィットキット、Chris King PHB764 Rear R45 11 speed Conversion Kit (Shimano/SRAM)についてレビューしたいと思います。
$258 @ Aspire Velo Tech(送料別)
ロード用9/10速対応のR45リアハブを11速カセットに対応させるためのレトロフィットキットです。
R45の11速コンバージョンはDTのようにフリーボディとエンドキャップだけスポンと入れ替えれば完了!というわけにいかず、中身をほぼごっそり対応品に交換した上でホイールセンターも調整し直さなければなりません。これは10速カセットで限界まで最適化したフランジ配置だったために右フランジの移動やフリーボディを移動できる余裕は全くなく、長くなったフリーボディを収めるためにはハブシェルごとNDS側へずらしてスペースを稼ぐしかなかったことが原因のようです。さらにDS側ベアリングへのプリロードは、アクスルに個々設けたテーパーをあてがって受け持つという無駄を一切省いた設計を採用しており、それが仇となってベアリング位置関係の変更に対応するためにはアクスルそのものを新設計で作り直さなければならなくなってしまったようです。R45用カンパ11速コンバージョンキットが出た時も状況は同じだったので概ね予想は出来たことなのですが、手間と費用(キットだけで新品リアハブの6割という価格)を考えるとそう簡単には決断できない内容ですね。ちなみにShimano/SRAM10速からカンパ11速へのコンバージョンも可能ですが、そちらは定価$350(実売$300前後)という、さらに無茶な価格になっています。
・コンバージョンの具体的な内容と必要な道具
コンバージョンキットに含まれるのは、フリーボディ(CKはドライブシェルと呼んでいます)、ボディ内のベアリングx2ヶ(ドライブシェルベアリングB・Cと呼ばれていて大きさが異なります)、ベアリングB・Cの間に入るドライブシェルスプリングとシールリング、ベアリングBの内側に入るダストシール、11速専用アクスル、アクスルにベアリングCを保定するOリング、10速以下カセットを使う際ローギア側に挿むスペーサー(カンパ11速用キットは上記の内容から10速用スペーサーを省いて専用ロックリングとドライブシェルベアリングCのリテーナーを加わえ、アクスル・スプリング・ドライブシェルを専用設計品に差し替えたものとなります)。付属するベアリングは全てスチールで、セラミックは選択できません。いずれも必要となるパーツのすべてが含まれており、組付に専用ツールを用いなければならない箇所(ドライブシェルベアリングBとダストシールのドライブシェルへの圧入)は出荷前に処置されていますから、高価なサービスツールを別途購入する必要はありません。2.5mmのヘックスレンチとカセットロックリング回し、チェーンウィップ、専用シリコンルブだけ用意すれば交換できます。さらにホイールのセンター出しを自分で行う場合は、それに応じて振取台(もしくはそれに代わるフレーム)とニップル回し、センターゲージが必要になります。スポークテンションメーターはあった方が効率いいでしょう。コンバージョンの結果ホイールセンターが2mm近く左へ移動するので、残念ながらゴマカシは効きません。ハブシェルから左側のパーツはすべて使い回しですので、破損してない限りは新たに買う必要はありません。
別途R45専用サービスツールもレビューするのでそちらで詳述しますが、パーツはすべてバラ売りされており、一部10速ハブで使っているもの(ベアリング・スプリングなど)を専用ツールで外して使いまわすことも可能なので、思い切ってツールに先行投資してしまってロングランで節約を図るのもアリかな、と思います。ただ、とっつきやすい工具ではないのでそう気軽にお勧めできるものでもないのですが・・・
さて実際の作業ですが、アクスルとドライブシェル交換だけなら10分もかからない簡単作業! なのですが、ホイールのセンター出しが余計な手間となってのしかかります。私の場合は内蔵ニップル+チューブラータイアのリムだったのでタイアを剥がしてスポーク張り直して…とごそごそやっていたら2時間程かかってしまいました。必要な道具さえ揃っていれば別段難しくないのですが、ひたすら手間の嵐。ホイール組みの経験や道具がない方は、この部分だけショップに投げてしまったほうがいいかもしれません。
まず最初に10速用アクスルをドライブシェルごと引っこ抜きます。フリーボディからカセットを外す必要がある場合は、まず最初に外しておきます(装着したままでもアクスルとドライブシェルは抜けます)。用意できたら、まずNDS側のアクスルエンド(ドロップアウトに接しているQRシャフトの入り口)を手で引き抜きます。初めてだと外せなくて戸惑うこと必至でしょう。このパーツはネジ込みでも圧入でもなくアクスルにただ差し込んであるだけなのですが、引っ張るところを間違えるといくら引っ張ってもネジ回しても外れません。引っ張るべきところはドロップエンド接触面のすぐ内側のテーパー面で、ここに親指・人差し指・中指をかけて思い切り引っ張りましょう。テーパー部分のすぐ横、シャフト状の部分はもうアクスルの一部ですので、引きちぎらない限りは絶対に抜けません。エンドの先にはOリングが差し込まれていて、アクスル内の溝にリングが嵌まり簡単には脱落しないようになっていますから、最初はとても外しにくくなっています。どうしても抜けない場合は、アクスル反対側のQRシャフト穴からノズル付のスプレーシリコンルブを軽く吹いてやれば簡単に抜けるようになるでしょう。
エンドを抜いたら2.5mmのヘックスレンチでアクスルクランプナットのシンチボルトを緩め、クランプナットを反時計回りに回してアクスルから完全に抜き取ります。次にホイールを左右反転させ、カセットが付いたままの場合はローギアに両手をかけて引き抜くか、カセットを外してある場合はフリーボディ部を掴んで引っ張ればドライブシェルごとアクスルが抜けます。コクン、とドライブリングのスナップが外れる音と感触が伝わったらゆっくり引き抜いて下さい。ついでにシールの状態チェックやリングドライブ・ハブシェルベアリングの掃除と再注油もやっておくといいでしょう。これ以上の分解は必要ありません。
次にコンバージョンキットを仮組みしておきます。アクスルに傷がないかを確認し、"DRIVE SHELL-C"とレーザーエッチングで描かれたベアリングを、アクスルに差し込みます。向きに指定がありますので注意。インナーレースにテーパーがあり、スナップリングが付いている面をDSエンド側に向けます。アクスル右端のあたりにゴムのOリングが付いているので、ベアリングをこのリングの外側へ押し込みます。指でゆっくり強めに押し込めば入ります。次にドライブシェルにドライブスプリングとシールリングを入れます。アルミの筒状で肉抜きされたパーツがスプリングです。両端とも同じ形なので、向きは気にしなくても大丈夫です。シェルの中にしっかり収まったら、スプリングの端に彫られた溝に合わせて黒いゴムのシールリングを嵌めていきます。指の爪の先で優しく押さえながら、浮いている箇所が無いように押さえておきます。組みあがったら、先ほどベアリングを差し込んだアクスルをドライブシェルの中に差し込みます。ドライブシェルがハブシェル側のリングドライブに接触する面には専用シリコンルブを差しておきます。
出来上がったドライブシェルとアクスルのアッセンブリをハブシェルと合体させます。アクスルはドライブシェル内で固定されていないので、差し込むときにすっぽ抜けないよう支えておきましょう。外したときと同じように、ドライブシェル側の溝とハブシェル側リングドライブの溝を合わせ、グッと押し込むとスナップが嵌ります。ドライブシェルを握ったままホイールを何回転か回して、リングドライブが馴染むのを確認したらアクスルのNDS側にクランプナットをねじ込み、プリロードを調整します。アクスルエンドを再び差し込めば交換作業は終了。後はホイールのセンター出しをすればコンバージョン完了です。
・お・ま・け・その1
本来、R45にはカセットメーカー純正ではなくCK製のロックリングを使わなければならない、という話を聞きつけました。カンパ用R45やカンパコンバージョンキットには最初からロックリングが付いているのは知っていたのですが、Shimano/SRAMも専用ロックリングを使わなければならないそう。私はR45を使い始めた時からずっとCKのロックリングを使っているので意識しなかったのですが、たしかにR45のフリーボディはロックリング用スレッドが長く深く彫られているようで、カセット付属のロックリングを使うと組み付け時にはっきり緩いと感じられます。そのまま指定トルクで締めこめば固定は出来るし、ちょっと使用しただけでは何か問題あるのか分かりません。ですが逆にCKのロックリングを他社ハブのフリーボディに使ってみると、スレッドの合わせが(不良品かと思うほど)非常にきつくて驚かされます。それに、スレッドも長いのでカセット付属ロックリングより深くフリーボディ側にかかります。CKロックリングを他社ハブに使うのは問題ないようですが、どうやら逆は固定力不足でコグがシェルに食い込んで外れなくなることがあるから使うな、というのが王様の御意のようで。じゃ11速カセットではどうなんだろう?と思って情報を探ってみましたがどこにも見つからなかったので、直接CKのカスタマーサービスに聞いてみました。返ってきたのは、いかなる場合もR45にはCK製ロックリングを使うべし、アルミ・チタン製共に8/9/10/11速すべてのカセットに対応しているので対応トップギアの歯数だけ合わせればよい、ただしカンパ対応フリーボディ用とShimano/SRAM対応フリーボディ用には互換性がないから各々対応品を使うようにな、カセットについているロックリングは緩いから努々使うでない、とのご託宣でした。ドライブシェルはベアリング抜きで買っても決して安くは無いので、黙って御意に従っておいたほうがよさそうです。
・お・ま・け・その2
本レビューで登場したコンバージョンキットのパーツは全てバラ売りもされています。10→11速ドライブシェルに買い換えても古いドライブシェルベアリングB・Cとドライブスプリングはそのまま使うことが出来るので、空のドライブシェル($89)、11速用アクスル($79)、R45リアハブ用シール&スナップリングリビルドキット($12、必ずしも交換する必要はないですが)の計$180の出費でコンバートを行うこともできます。ただしその場合にはR45専用サービスツールという、やはり$180もする専用工具が必要となります。どちらを取るかは際どい判断になりますが、何度もベアリングを打ち換えて使う位王様ハブと添い遂げる覚悟があるならば、長い目で見て有意義な先行投資と言えるでしょう。まあ、CKのベアリング自体全てアンギュラーコンタクトなので耐久性が高く、メンテ抜きで余程の酷使を強いるか長年使い続けなければ音をあげる事はないと思いますが…ツールそのものが無駄にカッコいいのですが、ちゃんと使いこなすには当然カッコつけだけでは済まされず、難解なマニュアル(英語的にも、整備手順的にも)にも根気よく付き合わねばならない等、なかなかにハードルが高いです。詳しくはツールのレビューをご覧下さい。
価格評価→★★☆☆☆(コンバージョンキットだけなら。この価格はちょっとさすがに・・・ハブ本体は★x4でもいいと思います)
評 価→★★★★☆(性能には文句なし。手間はかかるが難しい作業でもない)