購入価格: 完成車付属品
標準価格: 不明
『TRP SPYREのOEMモデル。引きはあまり軽くないが、制動力・コントロール性・メンテナンス性に優れた傑作』
■ GIANT DEFY1 DISCに搭載される”TRP SPYRE-C”
私の3台目の自転車「GIANT DEFY1 DISC」は、その名のとおりディスクブレーキを採用したロードバイク、いわゆるディスクロードだ。この自転車には「TRP SYRE-C」というメカニカルディスクブレーキが付属する。
完成車にありがちなシマノ以外のブレーキによるコストダウンかと思いきや、制動力とメンテナンス性に優れると評判のディスクブレーキこのこと。実際に使ってみても大変素晴らしいブレーキで、SPYRE-Cが搭載されたDEFY1 DISCを手にれたのは大正解だった。
TRP SPYRE-C (左)、TRP SPYRE-Cを搭載したGIANT DEFY1 DISC (右)
■ デュアルピストン式が特長のロード用メカニカルディスクブレーキ
「TRP SPYRE-C」はロード用のブレーキレバーに対応したメカニカルディスクブレーキだ。取り付け方式はポストマウントで、アダプターを介して160mmのディスクローターに対応する。完成車に付属するOEMモデルで、ショップやネット通販では販売されていない。GIANTでは15〜16万円くらいの完成車に搭載される。TRPはTektroのレーシングラインであるらしく、完成車メーカーによっては、スペックに「Tektro SPYRE」と表記されることもある。
材質はアルミで、SPYREとは表面仕上げ以外に違いは感じられない。SPYREは本体がブラックの光沢仕上げで、アームがシルバーの鏡面仕上げになっている。一方、SPYRE-Cは本体もアームも梨地のブラックで、仕上げを簡略化することでコストダウンしたと思われる。また、DEFY1 DISCにはSPYREとSPYRE SLの説明書が付属することから、基本的な仕様は同じと考えてよさそうだ。
最大の特徴は、「デュアルピストン式(対向ピストン式)」を採用したことだ。一般的なメカニカルディスクブレーキに用いられる「シングルピストン式」は、ディスクブレーキキャリパー(以下、キャリパー)に固定されたパッドに、もう片方のパッドでディスクローターをたわませて挟む方式だ。これではパッドが片減りしやすく、タッチもよくないという。SPYRE-Cは油圧式と同様に両側のパッドが動き、制動力とメンテナンス性に優れるとのことだ。
SPYRE-Cの仕上げは梨地 (左)、アダプターを介して160mmのディスクローターに対応 (右)
■ 性能を発揮するには慣らし運転が必要
実際に走ってみると、最初は特にいいブレーキだとは感じなかった。リアのフィーリングは良好だが、フロントからはパッドを当てるとカサカサと擦れる音がするし、強くブレーキをかけるとキュルキュルとやや大きめの鳴きが発生する。キャリパーが耳から遠い位置にあるから気になりにくいが、この音が続いたら正直困ると思った。
これはディスクブレーキの「慣らし運転」が終わっていなかったからであって、パッドとディスクローターにあたりが出ると、このブレーキの評判のよさも納得。擦れる音も小さくなり、鳴きも発生しにくくなり、制動力の高さも発揮するようになった。ちなみに、DEFY1 DISCのディスクローター(おそらくTektro TR140-2と同一品)との組み合わせでは、慣らし運転にはそれなりの走行距離と走行回数が必要だ。
■ キャリパーブレーキに近いタッチのよさ
ローターの両側をパッドが挟む構造をしているからか、キャリパーブレーキであるBR-5800でアルミリムを挟んだような感触に似ている。R55C4のようなパッドの若干の硬さを残したまま、パッドがローターをギュッと挟む感じだ。また、パッドにローターを当てても、カサカサしたフィーリングが伝わりにくく、微妙なスピードコントロールでもストレスを感じさせない。
だが、ケーブルのフルアウターが影響して、ケーブルの繊維のザラザラした感じがレバーにも伝わってくる。これはVブレーキやキャリパーブレーキでも経験済みで、テフロンコーティングケーブルに交換し、潤滑剤にシリコングリスを用いたら、ケーブルのざらついた感じは消え、タッチの良さはかなり改善された。
TRPの"セミメタルパッド"が挟む感覚はBR-5800にも通じるものがある
■ 静粛性は良好だが、ドライ用のシューをつけたリムブレーキには劣る
DEFY1 DISCに付属するディスクローターとの組み合わせでは、リアの静粛性は非常に高い。だが、フロントではシューッとやや大きめにパッドと擦る音がすることがあった。キャリパーの角度やパッドの当たり方によっては、リムがキュルキュルと音鳴りすることもあった。尚、ブレーキ操作していないときに、ローターがパッドに擦れてシャラシャラ音を立てたことはない。
静粛性はドライコンディション用のブレーキシューを装着したリムブレーキには劣るが、キャリパーの位置が地面に近いため(耳の位置から遠いため)、擦る音はほとんど気にならない。パッドとローターが擦れる音は、高速走行中はほぼ生じることはなく、急減速や停止する直前に気になる程度だ。つまり、走行中のほとんどの局面で、音が気になることは少ない。マルチコンディション用のブレーキシューを装着したVブレーキよりは、よっぽどSPYRE-Cのほうがずっと静かで快適だ。
マルチコンディション用のブレーキシューを装着したBR-T780よりもずっと静粛性が高い
■ キャリパーブレーキと同等のコントロール性
ST-5800との組み合わせでは、シマノのキャリパーブレーキとほぼ同様のフィーリング。パッドがディスクローターに当たっても、急激にブレーキ力が立ち上がることもなく、ブレーキレバーを引いただけリニアに反応し、繊細なスピードコントロールが可能だ。コントロール性はキャリパーブレーキと同等で、やや強めに握りこんだ場合には、Vブレーキよりもはるかにコントロールしやすい。個人的には、キャリパーブレーキよりもリアブレーキのみでのスピードコントロールがたやすくなったとも感じている。
■ 非常に高い制動力
SPYRE-Cが最も真価を発揮するのが下り坂だ。長く続く急勾配の下り坂であっても、上ハンのリアブレーキを軽く握るだけで、しっかり減速してくれる。私の行動範囲の下り坂程度なら、下ハンでのブレーキは一切不要だ。
平地で走行する分には、SPYRE-Cはキャリパーブレーキとほぼ同様の使用感だが、SPYRE-Cのほうが高いスピードから急減速がたやすく行える。SPYRE-Cは、Vブレーキのようにレバーを握った途中から急激にブレーキ力が立ち上がるわけではない。だから、SPYRE-Cは制動力が高くないと錯覚してしまいがちだが、これは制動力が高くなるまでリニアに効いていくからであって、実際には非常に高い制動力を有している。
制動力の高さではキャリパーブレーキに圧勝。これならディスクブレーキがダウンヒルで重宝されるのも理解できる。しかも、これだけコントローラブルなのに、高い制動力を発揮できるのが凄い。SPYRE-Cはキャリパーブレーキと同等のコントロール性と非常に高い制動力を持ったディスクブレーキといえる。
SPYRE-Cはディスクローターの両側からパッドがギュッと挟み込む
■ 引きはあまり軽くないが、実用上は問題ないレベル
キャリパーブレーキやVブレーキと比べると、SPYRE-Cはレバーの引きが重く感じる。私の握力では、上ハンで指1本でブレーキをかけることはできず、スピードコントロールも静止も、常に指2本でレバーを操作している。
救いは軽く握っただけで高い制動力を発揮することで、ブレーキ操作が苦痛になるほどではなく、むしろ下り坂では楽にブレーキをかけられる。もちろん、下ハンなら常に楽にレバーを引ける。私の弱い握力でも、実用上は全く問題なくブレーキ操作でき、長距離・長時間の走行でも疲れると感じたことはない。
前述したように、SPYRE-Cの引きには、フルアウターのせいでケーブルのフリクションが大きいことも影響している。テフロンコーティングケーブルとシリコングリスを用いたことで、引きの滑らかさは改善されたが、引きの軽さは少しマシになったという程度だった。
引きが劇的に軽くならない根本的な原因は、どうやらリターンスプリングの強さにあるようだ。ディスクブレーキはパッドとローターのクリアランスが小さく、リターンスプリングを強めにしてパッドを引き離さないと、パッドがローターに擦れてしまうのだろう。
Vブレーキやキャリパーブレーキ並みに軽い方が快適なのは確実だが、SPYRE-Cの様々なメリットを捨てたくなるほど重い操作というわけではない。平地はともかく坂はSPYRE-Cの方が楽だ。軽さも求めるなら油圧式ディスクブレーキも視野に入ってくるといったところだろう。SPYRE-Cは軽く引いただけでも効くブレーキなので、室内でレバーを引いたときと実際の走行ではずいぶん印象が異なる。
フルアウターであることよりも、リターンスプリングの強さの方が引きに大きく影響している (左)
これでもBL-R400とBR-5700の組み合わせよりは引きが軽い。BL-R400はリターンスプリングが強く、ブレーキ操作が疲れる (右)
■ 調整がとても簡単
【ケーブルアジャスターと調整ボルトによる調整】
SPYRE-Cはメンテナンスや調整がとても簡単だ。ケーブルアジャスターを回すだけで、両側のパッドのクリアランスを調整できる。しかも、3mmアーレンキーで左右の調整ボルトを回すことにより、左右のパッドのクリアランスを別々に微調整可能だ。この構造のおかげでシビアなセッティングを強いられることなく、好みのフィーリングを求めることができるし、パッドが片効きしてシャラシャラと音を立てるようなこともない。尚、内側の調整ボルトは、最初は硬く締まっているので注意。
アジャスターと左右の調整ボルトで簡単に調整可能
【ケーブルの交換とケーブルを固定する位置】
クリアランス調整が楽なので、当然ケーブルの交換も簡単。ただし、アジャスターの調整範囲は広いとはいえず、アジャスターを締め切って調整を始めても、回し切ってしまうことがある。アームを少し縮めた状態でケーブルを固定すれば対処できるが、固定する位置によっては、スプリングが縮まった位置でアームが固定されて引きが重くなる。
だから、ケーブルを固定する際にアームを縮める量をやや小さくし、アジャスターを締めすぎないようにしつつ、左右の調整ボルトでクリアランスを小さくして対応した。ただし、主に調整ボルトでクリアランスを小さくして、レバーの引きが軽くなるようにすると、ケーブルがたるんでレバーの遊びが大きくなり、レスポンスが低下する。無理に引きを軽くするよりは、ちゃんとケーブルを張った方が断然使いやすい。
【キャリパーの再取り付け】
ディスクローターがパッドの中央にちゃんとあるかどうかを確認することも大事だ。パッドのクリアランスが左右均等でないと、ブレーキ時にパッドが当たって、ディスクローターが片側に寄ってしまう。このときにも左右の調整ボルトが役に立つ。また、ディスクローターに対して、パッドが左右均等かつ平行になるようにするためには、キャリパーの取り付け角度もチェックする必要がある。キャリパーの角度の調整も簡単で、キャリパーの固定ボルトを緩めた状態でブレーキレバーを握り、固定ボルトを締め直せばOKだ。
"birzman CLAM Disc Brake Gap Measurer"というツールを使えば、キャリパーの取り付けや調整がもっと楽になる
【ホイールの着脱に伴う調整】
ホイールをクイックリリースレバーで締め付けて固定する際に、ホイールのセンターがわずかにズレたり、ホイールが斜めに傾いたりすることがある。リムブレーキなら問題にならないレベルでも、ディスクブレーキだとパッドクリアランスが小さいため、ホイールの着脱によるわずかなローターの角度や位置のズレが、左右のパッドクリアランスの不均一を招きやすい。
ローターの左右のズレは、左右の調整ボルトですぐに解決できる。まれにキャリパーに対してローターが斜めになることもあるが、ホイールを取り付け直すか、前述のようにキャリパーの取り付け角度を直せば解決する。ホイールの着脱のたびに、パッドクリアランスの確認には神経質にならざるをえないが、SPYRE-Cは調整の作業が楽なので助かる。
■ パッドはシマノのB01Sと互換、アイステクノロジーローターのアームとの干渉もなし
SPYRE-Cのパッドは、シマノの「B01S」と互換性がある。B01Sは1ペア743円と安く手に入るのがありがたい。SPYRE-Cのセミメタルパッドは、DEFY1 DISC付属のローターとの組み合わせでは、B01Sよりもやや制動力が高く、静粛性で劣るといった印象。無理に交換することはないが、B01Sの方が鳴きにくくて快適だ(特にフロント)。
現在は、ディスクローターをシマノの「SM-RT86」に交換しているが、アイステクノロジーローターの厚みのあるスパイダーアームでも、キャリパーとのクリアランスには余裕があり、全く干渉の心配をする必要はない。また、SM-RT86との組み合わせでは、走行中の性能の全てにおいてDEFY1 DISC付属のローターを上回り、SPYRE-Cはますます使いやすいブレーキになる。個人的には、SPYRE-C、B01S、SM-RT86の組み合わせは、105のキャリパーブレーキBR-5800を総合評価では上回ると感じている。
シマノのレジンパッドB01Sと互換性がある (左)、アイステクノロジーローターのスパイダーアームとの干渉は全く心配しなくてもいい (右)
■ 今後も長く使っていけるブレーキ
TRP SPYRE-Cに採用されたデュアルピストン式のよさは、ディスクブレーキが初めての私でもしっかりと感じることができた。高い制動力は下り坂や高いスピードでも安心できるし、スピードコントロールしやすくて走るのが楽しくなる。あたりが出れば、タッチや静粛性も申し分ない。調整やメンテナンスが簡単なことも高評価だ。
敢えてデメリットを挙げるなら、引きがあまり軽くないことだが、軽く引いてもよく効くブレーキなので、個人的には全然問題ない。おそらく、油圧式ディスクブレーキの方が軽くて快適なはずだが、今はアップグレードするほどではないといったところ。もちろん、シマノの105相当のロード用油圧式ディスクブレーキやTRP HY/RDも、私にとって気になる存在ではあるのは間違いないのだが。
SPYREは前後で2万円以上もするブレーキだ。SPYRE-CはOEMモデルとはいえ性能が高く、今後も長く使っていけるブレーキだと感じた。雨天ではまだ使っていないが、安定したブレーキ性能を期待している。ディスクロードやグラベルロード、シクロクロスバイクの購入を検討する際には、ブレーキがSPYREやSPYRE-Cかどうかをチェックしてみるのも悪くはないと思う。
TRP SPYRE-Cなら、ロードバイクでもディスクブレーキの楽しさを存分に味わえる
価格評価→★★★★★ (完成車付属品としての評価)
評 価→★★★★☆ (引きが軽ければパーフェクト。制動力・コントロール性・メンテナンス性は素晴らしい。星4.5)
<オプション>
年 式→不明
カタログ重量→154g(SPYREの場合)