世界で最も有名で、アメリカでは確実に最も人気のあるグラベルレースです。グラベルレース=Dirty Kanza と言っても良いかもしれない、という超有名レースです。16年から参加を考えて、3年越しでやっと2018年に参加し、無事に完走することが出来ました。以下のレビューは、200マイルについて書いています。
https://dirtykanza.com/【概要】
アメリカ、カンザス州Emporia(エンポリア)という中部大草原にポツンとある小さな町がスタート、ゴールの、200マイル(実は210マイルくらい、320km)グラベルレースです。未舗装路率は、感覚でいうと大体98%くらいになります。320kmのほぼ全てが未舗装路と言っても過言ではありません。完走率は年、その時の天気によってまちまちで、大雨が降った16年は50%以下、18年は大体75%くらいの完走率でした。
【申込み】
2018年から抽選制になっており、日本からの申し込みも可能です。2018年の200マイル枠は1000人で、年齢ごとにいくつかのクラスに分けられています。17年までは申し込み先着順でしたが、18年から抽選に変わりました。17年は全コース(200mile、100mile、50mile)がものの15分で埋まってしまうという猛烈な勢いで枠が埋まったそうです(私もダメでした)。運営が申し込みを抽選に変えたので、18年は比較的のんびり申し込みをすることが出来ました。ここは良い改善点だと思います。申込みの際にクレジットカード番号を聞かれ、抽選で出走できることになった時点で決済されます。出走枠はレースの1~2ヶ月前まで他の人に譲ることが出来ますが、移管のやり取りそのものが、指定された掲示板(The Riding Gravel Forum)のみで、且つ運営側にも連絡する必要があるため、完全に英語でのやり取りになります。お金のやり取りもPaypalアカウントなどが無いと相当難しいと思います。当然、アメリカ人相手ばかりの掲示板に乗り込みますので、英語力が問われます。
【コース】
320kmのうち、310kmくらいがグラベルです。グラベルの質は、尖った石を多く含む、日本の感覚でいうと荒れた舗装路になり、基本農業用トラクター(USA仕様の超巨大なやつ)や、ピックアップトラックだけがたまーに走る、という程度の整備状況です。サスペンションが必要ではないかと思われた区間も多数ありますが、38mm程度のグラベルタイヤを装備しておけばなんとかなります。
下りで調子に乗ってスピードを出しすぎるのは要注意です。シングルトラックではない、基本真っ直ぐな見通しの良いグラベルなので、下りになると多くの参加者がスピードを上げてかっ飛ばすシーンが良く見られましたが、こういう選手は下りきったところで岩にタイヤを激しくぶつけてパンクするか、運が悪ければ酷い落車をしていました。パンクはそれこそ下りごとに毎回2~3人、救急車は自分が見た限りでも2台くらい出動していました。
カンザス州の大草原は真っ平ら、という印象を持たれるかもしれませんが、そんな事はありません。大きな山岳は当然ないですが、こまめに獲得標高10~50mくらいの緩~い上り下りを繰り返しています。320kmで、ガーミン読み・2900m登っていました。
なお、最大の敵はグラベル・距離もありますが、実は風です。大草原なので当然風を遮るものがなく、風は容赦なくまともに吹き続けます。自分が走った際は、折返しのEuraka(ユーリカ)までは追い風、折り返してからゴールまではずっと向かい風でした。ひたすら耐えるだけ…か、他の選手の後ろに隠れて耐えるしか術はありません。自分の持久力、精神力が試されます。また、6月初めとはいえ、プレーリー(アメリカ中央平原)のど真ん中にあるカンザス州は大変暑くなります。後で保水については書きますが、熱風のような気温の中を数時間走ることも必要になります。
【機材】
参加者の80%くらいがグラベルバイクか、シクロクロスバイクで、残りがMTB+ファットバイクという感じです。サスペンションを付けた人は少数派になりますが、珍しいという程でもありません。タイヤチョイスは非常に重要で、最も重要なのは「新品」を使うことです。尖った石を多数含むアメリカ中西部のグラベルはチューブレスタイヤでもパンクさせる凶悪さで、下り道の直後は、ちゃんとスピードを落とさなかったためリム打ち・貫通パンクしたライダーがそこら中に溢れていました。タイヤ幅は38mmが主催者推奨の「最小サイズ」です。自分はパナレーサー・グラベルキングSK 38mm(チューブレス)+Stans' No Tubeシーラント(タイヤ1本あたり60ml)、空気圧3.5barで望み、無事パンクすること無く完走できました。グラベルキングSKは大変素晴らしいタイヤで、グリップも最高でしたが、38mmでもショック吸収の観点からギリギリ最小の太さだと思われました。もしまた参加できるなら、タイヤはグラベルキングSKで40mm以上にしようと思います。
バイクはグラベル専用車が望ましいと思います。カーボンの軽量クロカンMTBでも良いと思います。サスペンションはあれば良いですが、無くても良いです。自分は、サスペンション無しのグラベル専用車で走り、これは良い選択だったと思います。グラベル専用車である理由は、ジオメトリー(長距離を走るための設計)以外に、ボトルが3つ積載できる、泥ハケが良い、40mm以上のタイヤを使える、などが挙げられます。
ボトルをトライアスロンの選手のようにサドルの後ろにボトルケージを取り付けて、ボトルを運んでいる選手が見られましたが、ほぼ押しなべて段差で弾かれてボトルを落としていました。おそらくゴールまでの間に、100本くらい道端に落ちたボトルを見たと思います。ついでにいうと、リアライト、携帯電話、サドルバッグ、シートポスト(!)など、固定が少しでも甘い機材は走っている間に固定が緩み、どんどん落ちていきます。決して誇張ではなく、固定しすぎという程度で望まないと後悔します。自分も100kmも走らないうちに、気づいたらCateyeのライトがシートポストから落ちる寸前でした。どんな手を使ってでも固定が緩まない、という状態で望まないと、必ず何か無くします。
スペアチューブは最低2本です。マストです。理由は簡単で、サグワゴンもありませんし、パンクしたら自己責任です。自分で用意したサポートクルー以外には誰も助けに来てくれません。サポートクルーもなく、完全な単独参加だと、本当に誰も助けてくれません。主催者も救護車を準備していません。一番近い町は、何kmも先です。運良くローカルの農家の家が近くにあれば良いですが、道路脇の民家そのものが猛烈に少ないです。320kmですれ違った一般車は、なんと2台(!)という日本の常識では考えられない超絶「非」人口密集地域です。マーフィーの法則ではありませんが、壊れる機材は壊れます。320kmの荒れた未舗装路を見くびらず、最悪の事態に備え万全を期して望んでください。
【補給食・保水】
速い選手で14時間、半分以上の選手が16~17時間も走り続けます。補給食は自分でコントロールできる最重要事項といっても過言ではありません。ゼリーやジェル、エナジーバーなどは途中で飽きます。また、疲労の限界に達してしまうと、どうしても普段食べ慣れたものを食べたいと思います。自分は片手で食べられるようなミニおにぎり(普通のコンビニおにぎりの1/3くらいの大きさ)を30個位、各チェックポイントに先送りしておいて、エナジーバーと合わせて食べ続けました。ジェルも持っていましたが、最後まで食べませんでした。エナジーバーは、Clif BarとSkratch Labをあわせて10本くらい食べたはずです。塩の効いたおにぎりは、灼熱のカンザス州で最高の補給食だったと言っておきます。なお、おにぎりは宿泊したホテルに炊飯器を持ち込んで作りました。アメリカ人選手でも同じことをする人もいるようです。
保水はおそらく甘く見られがちなポイントですが、レース結果/完走できるかどうかを左右する重要な要因です。カンザス州の大平原(プレーリー)は、6月始めでも快晴時は30℃を超え、猛烈な熱風にさらされます。チェックポイントごとに2リットル近い水を満タンで走り続け、普段から汗を沢山かく方ではないにもかかわらず、正直言いまして全く足りませんでした。参加者の中にはCAMELBAKなどの、リザーバーを背中に背負って走る選手も多数いましたが、次回は自分も最も長いチェックポイント2~3の区間はCAMELBAKを持参しようと主ます。なお、チェックポイント間の主催者推奨の水量ですが、2リットルになっています。個人的には、最も過酷なチェックポイント2~3区間は、3リットル持って走るのが望ましいと思います。
【練習】
本番までにどれだけ乗り込むかが鍵です。持久力、スタミナが全てです。逆にスプリント力などは、ほぼ無視して良いです。自分の場合は、前年の12月くらいから毎月1000kmくらいを目標で走りはじめ、少しずつ距離を伸ばして行くようなメニュー組んで練習しました。直前の2ヶ月位は週末ごとに土日で300~400kmくらい走りました。平均12~15時間/週、最も多い週は20時間/週でした。一日で200km以上走った日も4~5回あったと思います。練習のポイントは、止まらないこと、走り続けることです。幸い、自分の住んでいる環境は100kmくらい信号のない区間で練習できたので、本番でも走り続ける、という点では苦労しませんでした。ボリュームが鍵です、忍の一字で走り込んでください。
ほとんどの方はロードバイク+舗装路での練習になると思いますが、できればグラベルでも練習することをおすすめします。また、レースで使う機材・バイクで200kmくらい走る練習をするのも大変有効です。自分は、ダーティカンザの前に最大で170kmグラベルを走ってみて、体力+機材チェックなどを行いました。
【その他】
参加するにあたり日本語で情報を探しましたが、有用な情報は全く見当たりません。おそらく参加したことのある日本人もかなり少ないのではないかと思われます。ネットで手に入る情報はしたがって(このレビュー以外)ほぼ英語になりますが、気合を入れて読みまくることをおすすめします。機材・心身ともに準備不足で望んでも運よく完走できる、というたぐいのレースではないです。無理です。周到なリサーチを行い、機材に抜かり無く、バッチリ練習して望んでください。
日本からのアクセスはあまり良いとは言えないのですが、最寄りの大都市はKanzas City(カンザスシティ)でしょうか。カンザスシティからだと、車で2時間位でエンポリアです。ホテルはものすごい早い時期に満タンになりますので、少なくとも3ヶ月位前までには予約を入れられることをオススメします。自分は12月にはホテルの予約を入れましたが、便の良いホテルは半分くらい埋まった状態でした。1ヶ月くらい前になると、おそらくエンポリアには泊まれないので、スタート前に早朝車移動せざるを得ないです。早め早めの予約をオススメします。まぁ、日本で言いますと、ツール・ド・おきなわのホテル事情ような具合だと思ってもらえれば良いと思います(エンポリアは名護市より全然小さいです)。
レース前日にはグラベルエキスポが行われており、グラベル好きにはたまらないイベントです。各バイクメーカーがこぞってグラベル新車を発表するのも、このレースの注目度を表しています。
【レースの感想】
ここまで読まれて、何という過酷な、辛そうなイベントか…と思われるかもしれませんが、参加者の高揚感、アメリカ人特有のノリノリムードでレースは大変盛り上がります。困難を乗り越え申込みをして、一生懸命練習して、遠いアメリカに遠征をしても、参加する価値は十二分にあります。ダート好きには力いっぱいオススメできます。エンポリアは本当に小さい田舎町ですが、レースのある週末はグラベルレース一色になり、歓迎一色になります。運営も素晴らしく、申し込み・事務連絡・受付・レース当日のやり取りなど大変スムーズです。世界最高峰のグラベルレースの名に恥じない、超プレミアレースとして今後もアメリカのグラベルシーンに欠かせないイベントであり続けるのではないかと思います。遠い国のレースですが、ぜひ参加を検討されてみては如何でしょうか。
エントリー費:$200(200マイル、2018年)←2019年は$220になるみたいです。
価格評価→★★★★★(お金で買えない価値があります)
評 価→★★★★★(世界最高峰グラベルレースは、プライスレス)
<オプション>
年 式→ 2018年に参加しました。
スタートです。
真っ直ぐです。
ひたすら広い!