東京大阪キャノンボール挑戦レポート by KinGi【挑戦決意】キャノンボールについて知ったのは約3年前、ロングライドに興味を持ち初め、情報収集をしていた頃だ。東京大阪間を自転車で24時間以内に走破するという冗談にしか思えないチャレンジだが、少なくない達成者がいるらしい。「いつか、そのうち、時期を見てやってみようかな」と興味は持ちつつも、自転車経験も少なく、運動に秀でているわけでもない自分ができるものとも思えず、挑戦などもってのほか、制限時間設定無しで数日かけて完走できればいいか、という程度にしか考えていなかった。
しかしロングライドの距離が600km、1000kmと伸びるにつれて、24時間切りは決して不可能ではないと考えられるようになってきた。当初は逆立ちしても無理だと思っていたキャノンボール、3年間で身に付けた走力・経験を活かせば達成できるかもしれない。漠然とした情景はいつの間にか具体的な目標に変わっていた。
そして2014年のロングライドシーズンを満足な結果で終えられたことで自信を付けた11月に、気温が落ち着く年度明けの春に挑戦することを決意。挑戦にあたってはCBNの「東京大阪キャノンボール支援プログラム」を利用させていただくことにした。支援金を頂きたかったことももちろんだが、お金をもらう以上、一時的にではあるがプロフェッショナルとして走ることになる。その責任感が、挑戦・達成を後押しする力になると考えたからだ。
決意が鈍らないよう早々にCBNマスター様に連絡し、企画についてご承諾いただいた。
そして挑戦の約2か月前、2015年4月1日、▸
CBN Bike Forumsのスレッド で決意表明を行った。
【計画】1号線で結ばれた東京大阪であるが、自転車での走行にあたってはいくつかのルートが存在する。またあくまで個人的サイクリングであるため、時期・時間・状況を選択することができる。自分にあった適切なルート選択、計画立案を行うことが24時間切り達成のカギだ。
身長171cm、体重70㎏前後の自分はとにかく登りが遅い。そのため走行ルートは、獲得標高の少ない御殿場方面から箱根を避ける東京発、と見据えていた。
東京発を想定したのは、御殿場からの長い下りで速度を取り戻しやすいからだ。大阪発の御殿場は、だらだらと登る羽目になるためメリットは少なく、それなら斜度がきつくても三島から箱根を越えた方が楽である。過去の走行経験も東京発のほうが多く、地理感もいかしやすい。
名阪間は距離の短い伊賀越えを選択。こちらは多少獲得標高が増えるものの、アップダウンがあるため下り区間で取り戻せる。
また東京発が有力だったものの、挑戦予定は5月、風が変わりやすい時期の為、東京発大阪発両方で対応できるように準備は進めていた。
スタート時刻は、どちらを発つにしろ朝4時と決めていた。個人的に朝3~4時頃が最も眠くなる危険な時間帯のため、ゴールの高揚感でまぎらわしたい。4時発で予定通りに進むと、大阪発の場合は箱根の下りが、東京発の場合は加太のダート区間が、それぞれ真夜中の通過になる懸念はあったものの、田舎道の夜間走行はブルベである程度経験しており、強力なライトがあれば問題にならないと判断。さらに早朝出発は、東京大阪の都心区間を楽に抜けられることもメリットだ。
コースに目星をつけた後、4月の週末とGWを使って可能な限り試走を行った。特に名阪間は一度も走った経験が無かったため、往復で走行。伊賀付近の登り、加太のダート区間の走行感を掴むことができた。
【前日~出発】諸事情により予定を延期して迎えた5月最終週、土曜日5月30日の予報は、風は西から、天気は日曜から西日本を中心に雨、と、期待通りとは言えない状況だったが、これ以上延期すると梅雨に入る恐れがあったため、東京発を捨てて大阪発で決定。東京発の新幹線指定席と、梅田新道付近のビジネスホテルを抑え、金曜の昼ごろに自宅を出発した。
東京駅で新幹線に乗り込む。輪行指定席ともいうべき車両一番後ろを予約できたため、大阪までは寝ながら過ごしてた。前日は夜遅く、ぎりぎりまでコースチェックをしていたから少々眠い。新大阪駅で降車後に自転車を組み立て、10kmほど離れたホテルまで移動。移動しつつ、車体の最終チェックを行った。予約したホテルは車体のまま持ち込むことができなかったため、面倒だが改めて輪行状態にしてチェックイン。
あとは明日の朝まで英気を養うだけだ。
夕飯だが、関西は地元でもあるため、この機会に食べたい名物なども無し。ホテル横のカフェ兼レストランで、ローストビーフ定食を注文した。
低脂肪高たんぱくで、運動前の食事としてはちょうどいいかもしれない。もちろん、ご飯は大盛りで。
併せて、翌日は猛暑が予想されたのでとにかく水を飲みまくった。カーボローディングと同様、ウォーターローディングも夏場の長時間運動では多大な効果を発揮する。限界までおなかを膨らませてから、ごちそうさまでした。
その後、コンビニで翌朝の朝食と持参する補給食を買い込み、21時にはベッドに入った。時間が早すぎるのと気が高ぶっていたため寝つきは良くなかったが、ぼんやりしているとそのうち眠りについたようだ。
午前2時半に起床。顔を洗って歯を磨いて、ウェアに袖を通す。今回は過去の企画で作成したCBNジャージだ。公式ユニフォームを着るようで、自然と背筋が伸びる。朝食はおにぎり二つと菓子パン一つ。おなかはすいていないが、落ち着いてるうちに可能な限りカロリーを蓄えておきたい。
ホテルをチェックアウトし、不要な荷物を局留めで東京へ送った後、梅田新道まで移動する。
しかしこの時点で既に湿度が高く、蒸し暑い。今日は一日、夏日になりそうだ。
梅田新道道路元標前で、CBNでおなじみの「nottiさん」が出迎えてくれた。
出発までの15分、準備をしつつ談笑。nottiさんとは地元が近かったようで、その話題で盛り上がった。柄にもなく緊張していたようだが、おかげさまでずいぶんリラックスすることができた。
nottiさん、朝早くからありがとうございました。
準備をする自分(写真上)。
写真写りを意識したものの、見た目の悪さは誤魔化せなかったらしい。
ライトを点灯させ、サイコンをリセットし、信号が変わるのを待つ。4時ちょうど、青になったタイミングでnottiさんに見送られて地面を蹴った。
1都2府5県を貫く、弾丸特急の出発だ!
【出発~亀山】はじめの20kmは都心区間、信号にも引っかかりやすいため気張らずのんびり進んでいく。大阪を抜けるルートは鶴見緑地沿い、もっとも距離が短いルートを通る。門真ジャンクションから一部軽車両禁止区間があるものの、側道も広く、問題無い。
四条畷まで出ると最初の峠、清滝トンネルへの登りが始まる。側道に入ってから登り始めると途端にペダルが重たくなった。それもそのはず、ここ数日のカーボローディング(と言い訳した暴飲暴食)のおかげで体重は過去最高値になっているだろう。この時点でこんなに苦戦していて果たして箱根は越えられるのか、先が思いやられて憂鬱になった。
清滝トンネルは事前に試走した通り、下り車線側の歩道で通過。トンネルを越えた時点でちょうど一時間経過、ここまでは予定通りだ。
清滝から下ったあたりで東の空に太陽が昇ってきた。明日の日の出は達成の充実感と共に迎えたいものだ。
奈良県生駒市をかすめた後、すぐに京都府に入り、木津川沿いに進む。コース上で数少ない、木陰をぬって走れる心地良い区間だ。その後関西本線を過ぎたら三重県伊賀市に入る。このあたりは小さなアップダウンの繰り返しだ。相変わらず登りは遅いものの、下りは意識してスピードを乗せるようにし平均速度を維持する。
伊賀市街を抜け、拓殖郵便局を過ぎた後、国道を外れて大和街道へ。
このルートは挑戦直前にキャノンボーラーの「Hideさん」に教えていただいたものだ。国道より高配差が少なく、また昔ながらの風情のある道でとても走りやすかった。
Hideさん、ありがとうございました。
国道へ合流した後、加太のピークへと少しだけ登る。ここは登りよりも砂の浮いた下りの方が厄介だ。十分に注意しながら進み、ダート区間に差し掛かると降車して徒歩で進む。ここで珍しいことに採石場のトラックとすれ違った。トラックの兄ちゃん、「こいつ、こんなところでなにやってんだ?」とでも言いたげな表情だ。
まあ普通はそう思うよな。
ダートを越えた後は関宿まで下り、予定通りサンクス亀山インター店にピットイン。
(通過時刻:7時40分)
ここまでの平均スピードは約26km/h。予想以上に下りで稼ぐことができた。さらにカーボローディング、ウォーターローディングの効果か、持参した補給食の消費も少ない。カロリーメイト2本とポカリ500mlを摂取しただけにも関わらず身体は絶好調だ。ポカリを新しいものと交換、調整豆乳とアミノバイタルを一気飲みしてすぐに走り出した。
【亀山~潮見坂】亀山バイパスは交通量が多いものの全線下り基調、車の走行風を生かしながら快調に進む。バイパスを抜け四日市市に入ると伊勢湾沿いに名古屋方面に北上していく。ここからしばらくは若干の向かい風、道路も混み始め速度が出にくい区間なので補給食のあんぱんを齧りながらゆっくりと走る。
揖斐川は車が少なかったことから、木曽川はのろのろ運転の車の後ろに付けたことから、両方とも車道で通過し、愛知県に突入。混んでいれば歩道を通ろうと考えていたが今回はタイミングが良い。
愛知県に入ってから進行方向は東、北からの向かい風は弱まったので、再び速度を上げる。
しかし日が昇るにつれてかなり暑くなってきた。事前の天気予報では30℃を超えると表示されていたが、今がまさにそれぐらいの気温だろう。信号待ちではできるだけ日陰に入るようにするが、排気ガスの熱もあり、体力はジリジリ削られていく。
暑さに耐えかねて、道沿いの丸亀製麺蟹江店にピットイン。まったくこう暑いと冷たいうどんでも食べないとやってられない、というのは冗談で、店舗脇に見つけた自動販売機に駆け寄る。店舗前の交差点が赤に変わったところだったので信号待ちの間に水分補給できると判断したからだ。ミネラルウェーターのペットボトルを買って半分飲み、残りはボトルに詰める。冷たい水を飲むとかなり回復することができた。すぐに道路に復帰し、信号が青になっているタイミングで交差点を通過する。
同じようなかたちで、名古屋を抜けるまでにさらにペットボトル2本分の水分をほぼタイムロス無しで補給することができた。
伝馬町を越え松田橋から豊明方向に南下。風向きの傾向上、ここから向かい風になるかと思ったが幸いにも追い風だ。予定通り、次の休憩場所の岡崎へ向かってペダルを回していく。
名古屋高速の高架下を抜けると強い日差しが照りつけ始め、気温はさらに上昇したようだった。汗がとめどなく出始めインナーウェアはもちろん、ビブショーツも塩で白くなってきた。コンビニで氷を買ってボトルに詰めたいほどだったが、タイムロスを嫌って我慢。
岡崎城公園手前の信号待ちで写真を一枚。日差しを遮るものが少ない国道は堪える。
飲み物が切れたタイミングで、サークルK岡崎朝日町店にピットイン。
(通過時刻:11時29分)
予定していたコンビニとは違うが、距離的にはほぼ想定通り、問題ない。ボトルに麦茶を入れ、ポカリは900mlのものをセット。調整豆乳とアミノバイタルを胃の中に押し込んで、休憩もそこそこにリスタート。
ロングライド中、コンビニでは調整豆乳を買うことが多い。
栄養価が高くカロリーもそこそこ、なにより、全国どこのコンビニでも入手することができる。
直後の本宿駅付近の登りは補給の甲斐あって労せずクリア。このあたりから風向きが変わり、再び向かい風となった。浜名湖まで出れば追い風に戻ると予報が出ていたので、ここは耐える。
豊橋市内と岩屋キャノンボウルを過ぎた後は潮見坂への緩やかな登り。普段ならこれぐらいの斜度であれば押し切れるところだが、市内を抜けてからさらに強くなった向かい風のせいか、速度が全く上がらない。しかしまあ、ここまで猛暑の中を走ってきたのだから、身体を冷やす風は心地良いぐらいだ。それにしてもやけに冷える。寒さを感じるほどだ。そういえば汗も少ない。
というかこれは熱中症寸前の症状なのではないか?
ここまで速度が出ることに浮かれ、オーバーワークになっていたらしい。
潮見坂頂上付近の自販機で水を買い、半分は頭からかぶる。アミノバイタルも追加投入し一息つくことで少し落ち着いたが、まだ行程の半分も終えていないにもかかわらずこの消耗具合、このダメージは後々まで響きそうだ。
そしてここからが東海道のメインステージ、静岡県となる。
【潮見坂~箱根】潮見坂は行程中でもっとも海が見やすい場所だ。眼下の広大な遠州灘に否応なしに気持ちが高まる。坂を下ると予報通り、強い追い風が吹き始めた。体力回復のために負荷はかけすぎないようにしつつも35km/h近い速度を維持できる。
浜松以東のバイパス区間を前に一度補給しておこうと考え、デイリーヤマザキ浜松小沢渡店で予定外の休憩を取る。
(通過時刻:13時58分)
暑さでやられたせいか食欲が湧かないものの、熱中症症状に効果のありそうな梅おにぎりを胃に押し込み、切れていた水分も補充した。トイレを済ましてから軽いストレッチをすると、体力が少し回復した気がする。アミノバイタルが効いてきたようだ。
しばらく進むと浜松バイパスから磐田バイパスに接続される。ここからは軽車両通行禁止の区間が散発的に現れる。頭で地図をイメージしながら、慎重に進んでいく。
そういえば浜名湖を過ぎてから、ここまで強烈だった日差しが和らぎ、体感気温も下がっていることに気づく。海からの風で空気が冷えたことも影響してるのかもしれない。午後2時、もっとも気温が高くなると覚悟していただけに、ありがたい。
距離的にほぼ中間地点の掛川を越えると、中ボスの金谷峠に差し掛かる。急に人気が無くなるため夜に走ると結構怖い場所だったりするが、今はまだ明るい。怖いのは登り坂だけだ。特に夜泣き石を越えてからの登り返しの斜度がきつい。インナーローでのろのろと登っていく。頂上のあやしいホテルが見えてくると峠のピークだ。
この時点で16時、登りで汗だくになったため、頂上の自販機で買った水を頭からかぶる。これ以降は気温が下がってくると考えると気が楽になった。
そして出発からちょうど12時間経過。金谷峠が精神的な中間地点だと考えていたので、ここまでは好調に進んでこられたようだ。
肩が痛くなってきたのでビブショーツの肩紐を外した後、峠を下る。しばらくは緩やかな下り基調、勢いを維持したまま宇津ノ谷トンネルも通過する。宇津ノ谷を下った後は車通りの多い静岡、清水を通ることになるが、進行方向が北向きになってから向かい風が吹き始めた。駿河湾周辺はここまでとは違う風が吹いているらしい。特に、ビルの隙間風が吹く静岡駅前がきつい。
堪らず、道すがらのサークルK静岡東町店にピットインする。
(通過時刻:17時34分)
半分を過ぎたので大休止にしようと考え、おにぎり二つをゆっくりとほおばる。疲労回復には黒酢ドリンクがいいとアドバイスをもらったため探すも、残念ながらこの店には置いていなかった。代わりにローヤルゼリー入りと書かれたジュースを飲んだがこれが強烈に甘い。疲れているから甘く感じるのだろうか?
休憩中に写真をパチリ。
もう半分、やっと半分、まだ半分。
静岡、清水を抜け、興津に入る。興津から由比へ抜ける道は、駿河健康ランド前の歩道を通るルートと軽車両通行禁止の新興津川橋を迂回してからバイパスを通るルートがある。今回はまだ陽が残っていた時間帯だったためバイパスでも危険は無いと判断し、フロント・リアライトともに点灯し突入。幸い、怖い思いをすることなくバイパスを抜けることができた。
由比市街を通過し、日本軽金属の工場を過ぎたところで右折、再びパイパスを目指す。富士川橋は土手沿いに歩道に上がり、道の駅富士に入った後、車道に復帰。新富士駅先の380号線への接続は、事前にキャノンボーラーの「ばるさん」に教えていただいた地下道を使った。近郊お住まいの「sosuさん」曰く、地元自転車乗り定番の道らしいが、そんな抜け道も把握している関東の自転車乗り。キャノンボーラー恐るべし。380号の松並木道は信号の少ない走りやすい区間だが、風は変わらず向かい風。交通量が少ないため、下ハンを握って少しでも空気抵抗を減らす。
沼津を過ぎて、三島市街に入るところで1号線に復帰。市街地を抜けて少し登ったところで、箱根の玄関口、ローソンニュー箱根店に到着した。
(通過時刻:20時23分)
【箱根~ゴール】箱根、大阪発を選択した場合は避けて通れない峠だ。ニュー箱根店地点で残り120km、6時間半あれば達成圏内だと言われているが、登りの苦手な自分としては7時間は欲しい。時刻は20:30、約30分の猶予はあるものの、ここからの登りでどれだけ踏めるか、どれだけ消耗を抑えられるかが勝負の分かれ目だ。
おにぎりを食べてからコカコーラを飲む。一週間前から断っていたカフェインの効果はてきめんで、頭が冴え、つま先まで血が巡るかのようだ。店外の洗面所で顔を洗い、準備は万端、気合も十分。twitterに書き込んだ後、意を決して登坂開始!
当然だが、朝の清滝とは比べ物にならないほどペダルが重たい。シッティングで使える筋肉が残っていないので、全身を前に押し出して体重をかけたダンシングでゆっくり登っていく。心拍が上がらないので肺活面でのキツさはないが、脚だけでなく全身が筋肉痛で鉛のように重い。
体感的には、今までの自転車生活でもっとも長く辛い登坂だった。
どうにか止まることなく、ピークに到着。タイムはおよそ80分、サラ脚でも60分はかかることを考えれば上出来だろう。最大の壁を突破し、まだ先はあるもののラスボスを倒した気分だ。そして長かった静岡県もここで終わり、神奈川県に入る。
芦ノ湖のセブンイレブンで補給しようかとも考えたが、身体が冷えるのを避けるため、止まることなく下りに入る。この区間のためだけに持ってきたサブライトも点灯させ合計3本の前照灯を頼りに、真っ暗な箱根旧道を進む。無理なダンシングで酷使した腕と肩が痛く、ブレーキレバーを持っているのも辛いほどだ。下ハンブレーキで速度を落とし慎重に下っていく。懸念だった走り屋がいなかったのは幸運だった。
無事に小田原まで下り、海沿いの1号線に復帰したところでローソン小田原国府津二丁目店に入る。
(通過時刻:23時02分)
おにぎりと黒酢ドリンクを買おうとしたところ、コンビニ支払用のEdyカードが無くなっていることに気付く。ニュー箱根店に置き忘れてきたらしい。まだ3000円分ぐらい残っていたのに・・・。勿体ない。
「よっしゃ、取りに戻るか!」
くだらない冗談を考えられるほどには余裕が出てきたらしい。
残りは平地ばかりの約90km、24時間切りが現実味を帯びてきた。しかし気が緩んだのがいけなかったのか、この辺りで睡魔に襲われる。起床からまだ(?)21時間、日中の消耗のせいか、予想よりもずっと早い。信号待ちで止まっているとハンドル上に頭が落ちそうになってくるので自販機で缶コーヒーを買い、一気飲みする。持参したカフェイン入りエナジージェルも開け、睡魔が一時的に去ってくれるのを待つ。急速過剰なカフェイン摂取は胃もたれの原因だが、残りの行程なら綱渡りで乗り切れるはずだ。
大磯まで出るとしばらくは海岸線を進むことになる。信号ストップが少ないから身体を動かし続けられるし、何より、人通りが少ないから大声を出しても怪しまれない。この区間は睡魔を散らすため、頭に浮かんだフレーズや歌を叫んでいた。そのおかげあってか、藤沢へ出ることには眠気も消え、意識を保てるようになった。徐々に増え始めた信号にひっかかりがちになるが、今のペースを維持できればなんとかなりそうだ。
戸塚駅手前、駅前に向かう坂を下ったところで一人の自転車乗りが後ろについていることに気づく。顔をあわせたところ応援の言葉をいただいた。近郊にお住まいの「あずさん」、企画を知り、国道沿いまで見送りにきていただいたらしい。これまでもスレッドやTwitterで応援・アドバイスをいただいていたが、そのありがたさを改めて実感した。
戸塚駅手前までついていただき、線路下を潜るために右折するところでお別れした。残りはわずかだが、完走・達成の決意を新たにした。
横浜、川崎を抜け、県境の六郷橋は歩道を通る。橋の中ほどに掲げられた大イチョウ、ここから先は東京都だ。シャンゼリゼが見えてきた!
車道に復帰したところで前方に大きなカメラを構えた自転車乗りの姿を確認。CBNでおなじみの「Limeyさん」、応援にきていただいたらしい。日本橋までご一緒してくださるとのことなので、後ろについていただく。青いトレイン、2着のCBNジャージが夜の東京を進む。
品川駅付近では、キャノンボーラーのばるさんが待機してくださっていた。事前にLimeyさんから話を聞いていたので、うまい具合にポーズを取ることができた。
横浜を過ぎたあたりから股が擦れて痛くなり、気が滅入っていたが、お二人についていただくことで気持ちが高まり、痛みのことも気にならなくなった。やがて銀座八丁目交差点に到着、日本橋までほぼ一直線だ。時刻は午前3時、イルミネーションと言うには少しさびしいが、ビルと道路工事の灯りが旅路の最後を彩るフラムルージュのようだ。信号ごとに止められるがもう急ぐ理由もないため、気分的にはエンディングである。昨日のこの時間には大阪にいたのだが、ずいぶん昔のことのようだ。この24時間はいろいろなことがありすぎて、ちょっとした走馬灯のように思い返される。
日本橋直前の信号にひっかかったため、ジャージのファスナーをあげて襟を立て、ゴールに備える。今の自分はプロフェッショナル、フィニッシュの瞬間は綺麗に締めたい。
そして最後の信号が変わる。
派手にガッツポーズをきめようかと思ったが、足元がおぼつかないので真っ直ぐに元標前を通り過ぎる。
無事、ゴール。
手元のサイコンでAM3:22、走行時間は23時間21分06秒だった。
・Garminログデータ
距離:521.28 km
タイム:23:21:06
平均スピード:22.3 km/h
平均移動速度:25.3 km/h
高度上昇量:3,889 m
平均気温:23.6℃
最低気温:14.0℃
最高気温:37.0℃
【ゴール~帰宅、後日談】日本橋道路元標前では、「といちさん」、「mameさん」のお二方が迎えてくださった。元標前で軽く立ち話する。19時頃に関東全域で大きな地震があったことを初めて聞いたり、コース上の何処がきつかったなどと話したりした記憶があるが、はっきりと思い出せない。達成の高揚感からナチュラルハイになっていたため表面上は元気だったものの、頭は半分寝ていたらしい。
4時を過ぎた頃に見送りの方々と別れ、日本橋郵便局に移動する。大阪のローソンから局留めで発送した荷物、もしかしたらまだ届いてないかもと思ったが無事に受け取ることができた。
東京駅で輪行状態に切り替え、宇都宮線に乗り込んだ。このあたりでゼンマイが切れたらしく、猛烈な疲れと眠気がやってきた。異常に重く感じる自転車を抱えて後部車両に入った後、車内で泥のように眠る。終点の乗換駅で車掌さんに起こされるまで、完全に意識を失っていた。
意識朦朧、ピントもブレブレ。
その後最寄駅まで輪行し、無事、自宅へ到着。シャワーを浴び、食事もそこそこに布団に倒れこんだ。
その後、全身の筋肉痛は2日ほどでひいたが、炎天下で運動した後遺症か、頭を絞られるような頭痛が続き、食欲も減退気味だった。とはいうもののしばらく安静にしていれば普段通りの体調まで回復し、次の土曜には性懲りもなく400kmブルベに参加、磐梯山と格闘していた。我ながら好き者だ。
【総括、あとがき】今回のキャノンボール、成功の要因は、自分の疲労度合を加味した計画が立てられたことだろう。ファストランの経験が少ないので速度のイメージが湧かず時刻表を作るのは苦労したが、長時間ライドの経験を基に経過時間・距離でどれぐらい疲労するかをイメージし、必要な装備・計画で対策を行えたため、終盤でも想定外の崩れ方はしなかった。唯一日中の暑さは想像以上だったが、肌が露出する部分は5月中に十分に焼いておいたので、大事に至らずに乗り切ることができた。
キャノンボールは準備段階から始まっていると言われるが、日程やルートだけでなく、自分の特性を把握する部分も含まれていると思う。どういう走り方が得意不得意で、それらを促進したり補ったりするためにはどんな装備・計画が必要なのか、吟味することが大切だと感じた。
自分なりの武器を見つけ、24時間の中で活かしきることが出来れば、キャノンボール達成は決して不可能なものではない。
挑戦後、しばらくは「ファストランはもうこりごり!」と言っていたが、こうやって挑戦後記というかたちで思い返してみると、いくつかの反省点と今後やってみたいことが頭に浮かんできて、もう一度ぐらい挑戦してみようかという気持ちになってきた。次は東京発か、それとも東北方面を目指すか、いややはりグルメライド専門にするか・・・。
いずれにせよ、今回得ることができた経験と自信を活かして、自転車生活を更に楽しいものにしていきたいと思う。
最後になったが、今回の挑戦にあたっては多くの方々にご支援をいただいた。
企画を主催していただいたCBNマスター様、
スポンサー支援をしていただいたWiggleおよびBellati Sport、両通販会社様、
フォーラムやTwitterで応援・アドバイスをくださった皆様、
当日駆けつけてくださり、激励してくださった方々、
他、皆様に多大なる感謝の意を表しつつ、挑戦レポートとさせていただく。
以上、お付き合いいただき、ありがとうございました。
【付録】●装備
過去の挑戦者の方々の持ち物情報が大いに参考になったので、同じような形でまとめさせていただく。
普段参加しているブルベの装備を基本に、信頼性を重視しつつ、可能な範囲で選定、軽量化を行った。リカバリーできるトラブルはパンク1回までとし、それ以上の事態が発生した場合は即リタイアすることにしていた。
装備選定基準は経験に基づくので、ロングライドを繰り返して、必要なものを取捨選択してほしい。
○車体
・フレーム:TiG OZ-R210
・コンポーネント:SHIMANO 6800系ULTEGRA
>ペダルはSPD-SL。
・ホイール:SHIMANO WH-RS81-C24
・タイヤ:Panaracer RACE A Evo2 25C
>普段は同社のD 25Cを使用しているが、今回は走行性を重視。
・チューブ:Continental RACE28
>耐パンク性を考え、普通のブチルチューブを使用。
・サドル:Specialized Avatar Expert 143
○フロントバッグ
オーストリッチ リベロバッグ
>安価で軽量。垂れ下がるとタイヤに擦りそうになるので、できるだけハンドルの上部に取り付け。補給食を多めに携行して、コンビニストップを少しでも減らすために装備した。
・カロリーメイト2本パック*2
・あんぱん
>スタート時の補給食。適時コンビニで追加。
・アミノバイタルプロ*6
>100kmにつき一本摂取を目安にしていた。
・ザバスピットイン エナジードリンク味
>カフェイン入りジェル。非常用として携行。
・2700相当の充電池+MiniUSBケーブル
>Edge600の充電用。
・スマホ
>汗で濡れると反応が悪くなるのでバッグの中へ。
○ハンドル回り
・CATEYE HL-EL540
>遠距離用メインライト。リチウム電池を使用して軽量化。
・OLIGHT S20_BATON*2
>近距離用サブライト。バッグで隠れない位置に取付。
・Garmin Edge600
>平均スピード計測用。ケイデンスは見ないのでセンサーは外した。
・Garmin eTrex20
>コース確認用。
・CATEYE ピッコロベル
>法規上必要。
○ダウンチューブ下ツール缶
Vittoria プレミアムジップケース
>中身の取り出しやすさから、ジッパータイプのケースを使用。
・予備チューブ
・携帯工具
・CO2カートリッジ+インフレーター
・タイヤレバー3本セット
・Airborn ミニポンプ+延長チューブ
>CO2を使うため、割り切って最も軽量なものを持参。
○サドルバッグ
mon-bell ULサドルポーチ
>サドルバッグ内はリタイヤ用と割り切り、使用する機会のないものをまとめた。
・非常用輪行袋
・予備チューブ
・CO2カートリッジ
・ワイヤー錠
○その他車体取付
・CATEYE TL-LD155-R
>リアライト。シートステーに取り付け。夕方から点灯状態。
・LEZYNE FEMTO DRIVE REAR
>サブリアライト。シートポストに取り付け。点滅状態でつけっぱなし。
・CAMELBAK ポディウム チルボトル 0.75L
>麦茶用。
・飲み口キャップを取り付けたペットボトル
>スポーツドリンク用。時間帯によって500mlと900mlを使い分け。
○ジャージのポケット
・キーケース
>免許証、保険証、家の鍵、紙幣。
・100均の小物入れ
>Edyカード、自販機用の小銭、行程表、おまもり。
・ポケットサイズのウインドブレーカー
>手持ちで一番軽量なものを持参したが、使わなかった。
○装備品
・ヘルメット:LAS VICTORY
>手元ライトとして前面にボタン電池式ライトを取り付け。
後頭部にもボタン電池式リアライトを付け、夜間点滅状態で運用。
・ジャージ:CBNジャージ
・インナー:dhb メリノ タンク ベースレイヤー
>汗乾きが良くて防臭効果も高い。
(インナーはスポンサーしていただいたWiggle社からご提供頂きました。ありがとうございます)
・ビブショーツ:dhb GOLDLINE ビブショーツ
>肩紐が平たくなっているため、肩への負担が少ない。
・グローブ:intro スティンガー2
>表面に合皮が使われているためグリップ力が高い。
・ソックス:Tabio レーシングラン
>五本指ソックスは足がむくんだときでもストレッチしやすい。
・シューズ:SHIMANO SH-R078
>信号待ちに片手で調整できるよう、ベルクロモデルを使用。
●コンビニ利用
停車時間を少しでも減らすため、コンビニに入る前にある程度準備していた。何を買うかシミュレーション、ボトルのふたを開けておく、支払用カードの準備、等。店内での導線に関しては、ばるさん投稿の ▸
ロングライド時短法 が大いに参考になった。
●購入品
補給食は脂質を避けつつ、塩分糖分のバランスを意識して選択。ドリンクの基本は麦茶。甘くないのでぬるくなっても飲みやすい。
●走行ルート
▸
20150530_大阪東京CB_前半 - ルートラボ - LatLongLab ▸
20150530_大阪東京CB_後半 - ルートラボ - LatLongLab