自転車の走行抵抗について chapter 2 人が自転車のペダルに力を伝えて走るとき、自転車と乗り手にはどんな抵抗力がかかっているのでしょうか。走行抵抗について考え、最後に各種検討を行う計算シートを作成するシリーズの2回目。
chapter1では加速抵抗について考えてみましたが、今回は空力抵抗と転がり抵抗について考えてみます。
文と構成 GlennGould
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chapter 2■■■ 空気抵抗とは何か ■■■次は5つの走行抵抗の2番目、空気抵抗です。
自動車の空力性能を表現するときに耳にする言葉として、空力抵抗係数Cdとか、前面投影面積Aなどというものがあります。例えば「フェラーリ某○%#のCdは0.24だ。しかもAは1.7で、結局CdAが0.41しかないから、空気抵抗が小さい ・ ・ ・」 という風に使われたりします。自転車に当てはめた場合、Cdは乗車姿勢に非常に大きく依存し、自転車各部の形状やウエア類にも依存します。
実際の空気抵抗の式としては、例えば次のような形式が採用されます(*1)。
(2-1)
なぜ、このような形の式になるのかという話は、ここでは触れませんが、興味のある方は調べてみると面白いかも知れません。
この式中の各文字は、
ρ: 空気の密度・・・単位[kg/m^3]
Cd : 空力抵抗係数・・・単位 [1]
A : 前面投影面積・・・単位[m^2]
v : 走行速度・・・単位[m/s]
という意味です。
この中で、空気の密度は標高の関数にもなりますので、高地に行くほど小さくなります。したがって、高地での空気抵抗は低地のそれよりも小さくなることに注意します。
さて、式(2-1)の右辺の全体の単位を確認すると、
[kg/m^3][1][m^2][m^2/ s^2] → [kg][m/s^2] → [N]
すなわち、質量×加速度となり、式(1-1)と同じ単位に帰着します。したがって右辺は力の単位を持ちます。空気抵抗という名前の≪抵抗≫ですから、力の単位を持つのは当然です。
ところで、前面投影面積Aは、おおよそ次の図のような、正面遠方から見込んだシルエットの面積として定義されます。クランク角度によって脚の見え方が周期的に変化しますが、平均をとればよいでしょう。絵が甚だしくマンガ的ではありますが、そこは気にしないでください。
Fig.2-1 前面投影面積A
さて、力に速度を掛ければ仕事率であることはchapter1で触れているので、既に我々は知っています。というわけで空気抵抗に対する仕事率(または空力仕事率)は、式(2-1)に速度を掛けて、
(2-2)
となります。空力仕事率は走行速度の3乗に比例することになるんですね。時速30kmと40kmを比較すれば、空力仕事率は (40/30)^3 = 2.37倍だけ増大するし。時速30kmと60kmでは空力仕事率は (60/30)^3 = 8倍も増大してしまいます。3乗というのは随分大きなインパクトです。
ところで、向かい風の場合には、その分だけ空力抵抗が増大します。正面から受ける風を考えると、式(2-1)の速度項は次のように、自転車の走行速度vと風速vwindの和になるはずです。
(2-3)
また、追い風が背中を押すほど強い場合、つまり追い風が走行速度を上回る場合には、乗り手が風から推進力を貰います。このとき式(2-3)のカッコの中身は負になりますが、結局、式(2-3)は場合分けを施す必要があります。すなわち、
ただし v + v wind >0の場合 (2-3a)
ただし v + v wind <0の場合 (2-3b)
ただし v=v wind の場合 (2-3c)
です。なお、走行速度を正数としているのはもちろんですが、向かい風も正数として扱い、追い風を負の数としていることに注意してください。
空力仕事率は空力抵抗と走行速度vの積ですから、式(2-3a,b,c)を受けて、式(2-4a,b)と式(2-4c)のようになります。
ただし v + v wind ≠0 の場合 (2-4a,b)
ただし v + v wind =0 の場合 (2-4c)
追い風が走行速度より大きい場合には、≪追い風に仕事をしてもらう≫ことになりますが、細かいことを言えば、追い風と向かい風ではCdが異なるでしょう。しかし本論ではそこまでは考えないことにします。
■■■ 転がり抵抗とは何か ■■■次は5つの走行抵抗の3番目、転がり抵抗です。
転がり抵抗は次のように記述されます(*1)。
(2-5)
ここで、
µ : タイヤの転がり抵抗係数・・・単位[1]
M2 : 自転車と乗り手の等価質量(ホイールの慣性モーメントは含まず)・・・単位 [kg]
g : 重力加速度・・・単位[m/s^2]
です。式(2-5)の中のM2gというのは地面に垂直にかかる自転車+乗り手の重量であり、このM2は前述の質力加速抵抗で扱ったM1とは異なります。前述のM1は、実はホイール部の回転に伴う慣性モーメントを反映させた等価質量ですが、M2は、静止時の質量です。すなわちM2はM1より少しだけ小さいことになります。紛らわしいので注意してください。
Fig.2-2 転がり抵抗(1輪でまとめて表示した)
ちょっと調べてみたところ、、普通の自動車のタイヤの場合、転がり抵抗係数µは0.01というような値をとるようです。低燃費タイヤであれば0.007付近のようです。仮に0.01であれば、乗車した自転車を平地でゆっくり前進させるためには、重量M2gの0.01倍の力が必要、という意味です。具体的な数値はタイヤ銘柄や空気圧で変化しますが、数年前のデータとしては、チューブラタイヤVittoria Corsa Evo CXを7~8.気圧で使った場合に、µ=0.0054付近の値をとるという結果が見つかりました(*4)。 この数値を採用すると、車両+乗り手重量が75[kgf]の場合、75×0.0054=0.405[kgf]=0.405[kg]×9.806[m/s^2]=3.97 [N] です。上図で右側に進む自転車の転がり抵抗を左向きの赤矢印で示していますが、この赤矢印の大きさは実際よりもかなり大きく描かれていることになります。
なお、式(2-5)は平坦路での式です。勾配角度θの場合は、Fig.2-2で示した路面直交成分がcosθ倍に減殺されて、
(2-6)
となります。Fig.2-2では平坦路なので、cosθ = 1になるので、式(2-5)ではcosが省略されるというわけです。勾配が無限大%すなわち垂直絶壁(!)では、タイヤ接地面荷重は零、すなわちcosθ = 0 です。θの単位は[rad]であり、180度がπ[rad]です。なお、勾配100%というのは、角度にすると45度です。90度ではありません。その話はchapter 3で触れます。
※この特集はchapter7までのつもりでしたが、chapter8まで8週連続で掲載の
予定に変更しました
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≪参考文献と注≫ (*1)
http://itee.uq.edu.au/~serl/_pamvec/PhD_Thesis_AGS_050420.pdf“Parametric Modeling Of Energy Consumption In Road Vehicles”, Andrew G. Simpson, A thesis submitted for the degree of Doctor of Philosophy at The University of Queensland in February 2005, p.28 (3-1a),(3-1b)
これは自動車用の文献ですが、p28の式(3-1a)と(3-1b)を引用します。
(*4)
http://ddata.over-blog.com/xxxyyy/0/02/72/10/tubular-specs.html“Tire Rolling Resistance”, ROUES ARTISANALES.COM
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