購入価格: ¥519 (税込) ※スコッチカル、東急ハンズで10cmあたり¥173
¥108 (税込) ※デザインカッターの値段
『仕上がりは塗装に及ばないものの、手軽な割には高い質感が得られる』
■ スコッチカルの伸縮性を生かしたヘルメットのカスタマイズ
私は自転車のカスタマイズに、3Mのスコッチカルをよく用いる。スコッチカルは塩ビ製のマーキングフィルム、所謂カッティングシートと呼ばれるものだ(※)。私はスコッチカルからロゴを切り出し、フレームやフロントフォークに貼り付けて楽しんでいる。簡単な作業の割には、非常に高い視覚効果が得られるのでオススメしたいカスタムのひとつだ。※カッティングシートは中川ケミカルの商標
また、スコッチカルは伸縮性が高く、ある程度入り組んだ複雑な形状のものにも対応する。この特性を活かせば、ロード用のようなベンチレーションの空いた凹凸の多い自転車用のヘルメットにもスコッチカルを貼り付けることが可能だ。パーツやフレームに貼り付ける方法は以前投稿したが、今回はヘルメットの複雑な形状や大きなカーブにスコッチカルを貼る方法を紹介したい。スコッチカルの貼り方自体はネットでの情報を参考にしたものだが、私の経験を加えてできるだけ詳しく作業内容を書いた。
(参考) スコッチカル、カッティングシートによる愛車のカスタマイズ:
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=10710&forum=106 屋外用 耐候性5年の3M スコッチカル。東急ハンズなら10cmあたり173円で買える
おそらくダイノックでも同様の作業が可能。伸縮性の低いカッティングシートはこの作業に向かない
■ 複雑な形状や大きなカーブにスコッチカルを貼る方法
自転車用のヘルメット、特にロード用ヘルメットは凹凸とベンチレーションが多く複雑な形状をしている。このようなヘルメットでも、ドライヤーの温風でスコッチカルを柔らかくすれば貼り付けることができる。今回はGIRO REVERBを作例として取り上げたい。スコッチカルを貼り付けたのは、このヘルメットの縁のポリカーボネートの部分だ。以前、同様の方法でベンチレーションの多いGIANT ORIONも施工したが、作業中の写真がないので、後で大まかに説明したい。
今回カスタムしたGIRO REVERB(左)
ピンクの線の内側にスコッチカルを貼り付ける(右)
①デザインを検討する
まず、スコッチカルを貼る前にデザインを十分に検討しておくことをおすすめする。スコッチカルを貼り付けながらデザインが一発で決まれば良いのだが、私の場合はそううまくいかず、スコッチカルをかなり無駄にしてしまうことが多かったからだ。
Pixelmaterというペイントソフトで検討。カラーはGIRO ROVEというスキー用のヘルメットを参考にした
②貼り付ける面を脱脂する
貼り付ける面に油分が残っていると、貼った後で剥がれてくるので脱脂する必要がある。私が脱脂に用いたのは、素材への攻撃性が低いAZのパーツクリーナーだ。これを布に含ませ、貼り付ける面の油分を拭き取った。私は使ったことがないが、ボデーペンの脱脂剤のシリコンオフでもいいかもしれない。ただ、GIRO REVERBのマットブラックのように、アウターシェルに溶剤に弱い塗装が施されている場合、塗装が溶けないように中性洗剤で水洗いした方がいいと思う。
脱脂に用いたAZのパーツクリーナー。素材への攻撃性が低い
③スコッチカルを切り出す
次に、ヘルメットの貼り付ける部分に合わせて、スコッチカルから大まかな形を切り出す。これはスコッチカルを伸ばしながら貼る際に、スコッチカルに無理な力をかけて破けないようにしつつ、シワが寄らないようにするためだ。今回の作例の場合、短冊形に切ったスコッチカルを強引に曲げて貼り付けるも可能ではあるが、ヘルメットの後部に沿わせてスコッチカルを切り出しておいた方が破れやシワを気にしないで済む分作業しやすい。できるだけスコッチカルに力をかけないことが作業を楽にするコツだ。
ヘルメットの形状に合わせてスコッチカルを切り出す(左)
短冊形に切ったスコッチカルを曲げて貼ると、破れたりシワが寄ったりしやすく、作業の難易度が高くなる(右)
④スコッチカルを貼り付ける
いよいよスコッチカルを貼り付けるが、いきなり複雑な形状や大きなカーブに貼り付けるのではなく、平面や緩いカーブから貼り付けると作業しやすい。そして、スコッチカルの端を引っ張り、中央から外側へ空気を追い出しながら圧着させるときれいに仕上がる。この作業にはスキージがあると便利だが、指で貼り付けてもかまわないと思う。空気の入りやすい角は、爪で擦って貼り付けると破れることがあるので、先端の丸い棒を使ったほうがいい。
中央部にスコッチカルを貼り付けて、外側に空気を追い出しながら圧着させる
⑤複雑な形状や大きなカーブにはドライヤーを用いる
ドライヤーの使用は、凹凸の多い自転車用のヘルメットにスコッチカルを貼り付ける最大のコツだ。スコッチカルはドライヤーで温めれば柔らかくなり、複雑な形状や大きなカーブに沿って貼り付けられるようになるからだ。大きなカーブに貼り付ける場合は、ドライヤーの温風で温めたスコッチカルを引っ張って伸ばしながら貼り付ける。複雑な形状には、空気の入りやすい角を先端の丸い棒などで擦って貼り付けるとうまくいく。
スコッチカルはドライヤーで温めると柔らかくなる(左)
ドライヤーを使えば、複雑な形状や大きなカーブにも貼り付けやすくなる(中央、右)
⑥シワが寄ったら貼りなおす
④⑤の作業でスコッチカルにシワが寄ってしまった場合、一度くらいなら剥がしてシワを伸ばしてから貼り直しても特に問題はない。ただし、何度も貼りなおすと粘着力が弱まるので、その際は新しいスコッチカルを切り出してやり直す。貼り直す時のために、スコッチカルは多めに用意しておいたほうがいいだろう。
⑥気泡を除去する
平面や緩いカーブに貼り付ける場合は気泡が残りにくいが、ドライヤーを用いて複雑な形状や大きなカーブに貼り付ける場合には小さな気泡が残ってしまうことがある。スコッチカルが温かいうちに素早く作業する必要があり、ドライヤーを用いない時よりも丁寧に作業しづらいからだ。また、角の部分は気泡が残ってしまうことがほとんどだ。
これらの気泡を除去するには待ち針を用いる。気泡に待ち針を刺し、スキージや先端が丸い棒で擦れば気泡を追い出すことができる。角は大きな気泡になりがちなので待ち針を数カ所刺し、ドライヤーでスコッチカルを柔らかくして角に密着させる。尚、待ち針で開けた穴は非常に小さく、ほとんど目立たない。
角に溜まった気泡に待ち針を数カ所刺した状態。この後、ドライヤーでスコッチカルを角に密着させつつ気泡を追い出した
⑦余った部分をカットする
最後にスコッチカルの余った部分をデザインカッターでカットする。このときにアウターシェルと発泡ウレタン(EPS)の境目にデザインカッターの刃を入れるのだが、発泡ウレタンにできるだけ刃が入らないように注意してカットしなければならない。尚、私は作業性を優先し、前後左右とスコッチカルを分割して貼り付けた。また、スコッチカルの継ぎ目は目立ちやすいので、ピンクとグレーを交互に貼っている。ピンクだけで仕上げたい場合は、難易度がかなり高くなるが、縁の形(輪っか)を切り出してから作業したほうがいいだろう。
スコッチカルの余った部分をデザインカッターで切り取る
■ 施工後のヘルメット
【GIRO REVERB】
GIRO REVERBのアウターシェルは塗装し、縁にはピンクとグレーのスコッチカルを貼り付けた。縁を塗装しなかったのは、ストラップや発泡スチレンのマスキングが大変そうだったからだ。よく見ると細部に甘い部分もあるが、全体的には塗装にも劣らない平滑な面が表現できたと思っている。100点中85点くらいの出来だ。尚、このヘルメットのアウターシェル全体をスコッチカルで覆うことは難しいはず。カーブがきつすぎてシワが寄ってしまうからだ。
施工後。GIROのロゴはスコッチカルから切り出したもの
縁だけでなく、右後頭部にあるGIROのエンブレムもスコッチカルで覆い、ドライヤーと待ち針で気泡を追い出した
【GIANT ORION】
初めて施工したヘルメットGIANT ORIONだ。グレーの模様の部分にスカイブルーのスコッチカルを貼り付けた。100点中90点くらいの出来で、塗装のようなきれいな仕上がりになったと思う。きれいに仕上げるには、いかにシワと気泡を抑えられるかが重要になる。シワや気泡が多くなったり、カットしたスコッチカルの端面が汚くなったら、貼り直した方がいいかもしれない。
施工方法は基本的にGIRO REVERBと変わらないが、ベンチレーションに貼り付けるにはちょっとコツが要る。まず、ベンチレーションをドライヤーで温めたスコッチカルで覆い、ある程度ベンチレーションの形に沿わせてから、デザインカッターで開口する。次に破いたスコッチカルを施工されていない部分までドライヤーで伸ばして貼りつける。最後に余分なスコッチカルをカットすれば、ベンチレーションへの貼り付けは完了だ。
また、ベンチレーションのある前後のラインは大体の形しか写し取れないので、余分なスコッチカルをカットする際に、ベースカラーのブラックと模様のグレーの境目を想像してデザインカッターの刃を入れる必要がある。この時、デザインカッターがアウターシェルをわずかに傷つけるの可能性が高いので注意(後述)。GIRO REVERB同様、アウターシェルと発泡ウレタンの境目にデザインカッターの刃を入れる際も注意する。
その他の模様はトレーニングペーパーで写し取り、それをコピーしたものをスコッチカルに糊で貼り付けてからデザインカッターで切り出したものだ。この作業ではドライヤーを使う必要はない。
施工前のGIANT ORION
ペイントソフトでカラーの検討 ※GIMPを使用
施工後。スカイブルーのスコッチカルを貼り付けた
上から見たスコッチカルの模様が中央からズレているのは、元から模様がズレていたためだ
■ スコッチカルを貼る際の注意点
【スコッチカルを剥がすとアウターシェルについた傷が目立つことがある】
余分なスコッチカルをデザインカッターでカットする際に、アウターシェルや発泡ウレタンを傷つける可能性が高いのは前述した通りで、決してノーリスクではない。余分なスコッチカルをカットする際に、発泡ウレタンをわずかに傷つけるくらいなら、見た目も使用上も特に問題はない。傷が目立つのはGIANT ORIONのようにヘルメットの模様に合わせてアウターシェルにデザインカッターを入れる場合で、スコッチカルを貼る前にデザインを十分に検討し、一度貼り付けたら剥がさないで使うようにした方がいいと思う。個人的には新品のヘルメットよりも、ある程度使用感の出たヘルメットをリフレッシュさせるために施工したいところだ。
【一部のヘルメットと相性が悪い】
例えば、GIRO REVERBのマットブラックは塗装が弱く、貼り付けた直後のスコッチカルを剥がすと、ヘルメットの塗装も一部も一緒に剥がれてしまうことがあった。他のつや消し仕上げのヘルメットで同様の問題が生じるかは分からないが、少々の傷ですぐに下地が見えてしまうようなヘルメットには不向きだと思う。尚、塗装が剥がれるのはアウターシェルだけで、今回貼り付けた縁の部分は特に問題なかった。一方、KASKやCARRERAの光沢仕上げのヘルメットではこのようなことは起こっていない。もしかしたら、スコッチカルの貼り付けには、光沢仕上げのヘルメットの方が向いているのかもしれない。
【硬化後は剥がすのが大変】
完全硬化後のスコッチカルは剥がすのがとても大変で、以前ステムに貼り付けたスコッチカルを剥がしたときは、物理的に爪で擦って除去した。3Mのスコッチフィルム剥がしというものを吹付ければ、スコッチカルが柔らかくなって剥がしやすくなるらしいが、ヘルメットの素材や塗装にどう影響するのかが心配だ。いずれにしても、完全硬化後は剥がすのが大変で、気軽に張り替えるというわけにはいかなくなる。
■ 仕上がりは塗装に及ばないが、塗装よりも手軽に施工可能。コスパも抜群
以上のような注意点はあるが、スコッチカルは塗装よりもずっと手軽にヘルメットのカラーを変えられる素晴らしい素材だ。塗装の場合は、ペーパーがけ→脱脂→プササフ→塗装→クリアがけ→コンパウンドがけ…といくつもの工程を踏まなければならない。しかも、発泡スチレンが溶けないように厳重にマスキングをする必要がある。ムラなく塗装するにはある程度の慣れが必要だし、塗装に失敗した場合の修正も手間がかかる。うまくいけばスコッチカルを大きく上回る質感が手に入るが、塗装はなにかと面倒な点が多い。
一方、スコッチカルなら脱脂して、ドライヤーを使いながら貼り付けるだけ。しかも、上手くいった自家塗装ほどではないが、手軽な割には質感の高い仕上がりになる。また、気泡やシワが入った際にも、新しいスコッチカルで簡単に貼り直せるし、塗装ほど高い技術を必要としない。費用は塗装の数分の一とコスパも抜群。GIANT ORIONのように仕上げるにはそれなりに時間がかかるが、かかっても2時間程度。数時間、数日を要する塗装よりもはるかに短い作業時間だ。
今回はドライヤーを使って複雑な形状や大きなカーブにスコッチカルを貼る方法を紹介したが、アウターシェルにデザインカッターの刃を入れないようなデザインにするのもひとつの方法だ。この方法ならノーリスクに近く、気に入らなかったら剥がせば元のヘルメットのデザインに戻る。具体的には、スコッチカルで作製したロゴやイラスト、ラインを貼り付けるだけのものだが、長くなったので次回以降に改めて投稿したい。
価格評価→★★★★★ (塗装よりもずっと安上がり)
評 価→★★★★★ (手軽な割には満足感の高い仕上がり)