購入金額 数千円〜2万円程度
このレビューでは具体的な方法のご紹介をしますが、くれぐれも以下のポイントだけはご了承頂いて下さるようお願いいたします。
・まずその①。私は金属の表面改質どころか高校の化学の記憶すら一生懸命思い出さないと出てこないような、ドが付く素人です。内容については書いた私だけでなくCBN管理人のマスターも含め一切免責、ということをどうかご了承下さい。なにぶん危険を伴うお遊びなので・・・
・その②。低圧とはいえ電気を扱います。しかも電極を繋いだ金属を液体に漬けるなどという行為が絡むので、ご自分で再現される場合はくれぐれも漏電・ショートに気をつけて下さい。家庭用電源でもヘタすると感電死しかねませんし・・・
レビューを書くあたって私なりには全力だったつもりなのですが、なにせ至らない素人ですので玄人の方から見るととんでもないことをどこかでやらかしちゃっているかもしれません。ご自宅で再現するのも内容を余所へ転載されるのもSNSなどで広めるのも、マスターが決められたCBN運営上の規則に従う範囲内でならばご自由にしていただいて私としては一向に構わないですが、結果についてはいかなる場合も全て自己責任、非は負いかねますのでひとつ宜しくお願いいたします。もし、この部分は間違っている、危険だ、というような箇所を発見された詳しい方がいらっしゃいましたら、Forumの方でお知らせいただくと助かりますm(_ _)m。
さて。
かつてCBN本館にBar Tapeという登録ユーザー専用掲示板があった頃のことです。
weightweeniesという巨大自転車フォーラムで拾った、とある情報をご紹介したことがありました。
"コーラと電源があれば、簡単にチタンのアノダイズ(陽極酸化処理)ができる"。
は? 何言ってやがる、こいつ???
となるのがまあ普通の反応でしょう。
私の化学知識が高校2年生の段階でほぼストップしているのをまずご了承頂いて、そのweightweeniesで見たスレッドやらあちこち検索で得た情報やらを整理してご説明しますと、概ね以下のような理屈で可能な事のようです。
・まず皆さんご存知の通り、チタンは非常に腐食しにくい金属です。その理由は強力な酸化被膜を形成する(不動態被膜)ことで表面を保護するという、肉を切らせて云々的な特性を持っている為。実は酸化が異様に早くすすんでしまうので、一定以上進行しないんですね。アルミも似たような特性を持っています。
・で、チタンは酸化すると表面がボンヤリと曇ったような膜を形成するんですが、リン酸溶液中で電圧をかけるとさらに面白い現象が起こります。なんと膜の厚さを電圧に比例して上げることができるのです。この膜は厚さに応じた光の屈折を発生させ、玉虫のような美しい光沢を放ちます、プリズムや虹と同じ現象ですね。ついでにもうちょっと突っ込むと、虹に含まれるような色しか出せない、つまり黒や鮮やかな赤などは得られない、といことでもあります。
この人為的な酸化を起こすには、酸化させる金属つまりチタンを陽極(アノード)に繋ぎ、陰極(カソード)側にはアルミを繋ぎます。酸化被膜が形成されるのは陽極側のみ(水酸化ナトリウム水溶液の電気分解で習いましたよね?陽極に酸素、陰極に水素が集まるアレです)なので、この特徴をもって陽極酸化処理=アノダイズ、と呼ぶそうです。陰と陽を逆に繋ぐとチタンの酸化は起こらず、ただブクブク泡が出るだけで終わりです(どうもこの時アルミ側に酸化が起こっているようなのですが、アルミは色が変わらないので何も起こっていないように見えるだけらしい)。
これを発案したのは話題の渦中、かの理研だそうで。そしてこの手法は、実用にあたってはチタンよりもアルミの方で重宝されました。チタンはもともと酸化や薬品などに強い金属ですが、どちらかというと弱いアルミはこの手法で膜を作り保護するといろいろ性能が上がる、ということであっという間に広まりました、これが私たちの知っているアルマイトです。
すでに書いたようにアルミはただ陽極酸化処理をしただけでは表面に濁った膜が出来るだけで、今回このレビューでご紹介する方法では色を付けることは出来ません。クリスキングとかフィルウッドのような美しい発色を放つ強い膜を得るには、染料を初めとする薬品と厳密な条件のコントロールが必要で、つまりDIYでやるのは困難というか実質不可能なんですね。
そこいくとチタンの方はなんともいい加減なもので、染料を入れずともリン酸を含む液体、つまりコーラなんかに突っ込んで陽極を繋ぎ電圧をかけるだけで、レインボーカラー(の一部)が手軽に出せてしまうのです!
--------------以上、長かったですがここまでが前口上。
さて、ここからは具体的な方法のご紹介に移ります。
・用意するもの
・陽極酸化処理する対象のチタンパーツ。
・陰極に繋ぐアルミ。台所にあるアルミホイルが最適です。
・リン酸水溶液。コーラの出番です。なお、リン酸が含まれているなら、普通のレッドラベルでもZeroでもDietでも、Nexでも特保のMet'sでも多分OK。あと、たしか酸化は温度が高い方が進むので冷やさず常温か生温いくらいにしておいたほうが、仕上がりが安定しそう。
・コーラを張ってパーツが漬けられる出来る樹脂容器。タッパーでOK。
・電源。仕上がりにアンペア数は関係ないようで、色味はボルトでほぼ決定します。家庭用コンセントに繋いで使う直流安定電源装置の他、海外などで見かける紹介には直列に繋いだ9V乾電池、車などのバッテリーを使った例があり、どれもちゃんと出来るようです。
・電源装置と電極を繋ぐコード。ワニ口コードを使うとボルトなどは簡単にクリップでき、確実に通電できます。
・念のため、気休めですがニトリル手袋で絶縁を図りました。
・処理後、洗浄用の水を張った容器と拭き取り用のペーパータオルもしくはウエス。
注意したいのは電源でしょうか。ご存知の通り日本の家庭用電源は100V15A。でもそれをぶち込むなんていうのは、間違ってもやっちゃいけない危険極まりない行為です。液体も同時に扱いますからヘタすれば感電死だってありえます。車のバッテリーなんかも、液が漏れると危ないですから使う場合はどうかご注意を。乾電池は一見手軽そうですが、直列に何個も繋いでショート・発火させないようご注意下さい。
私は、電圧と電流を独立してコントロールできる直流安定電源を手配しました。15,000円程しましたが、他にも使い道はありそうだったので。エーアンドディーというメーカーの最大出力30Vのモデルですが、現実的に新品で買えそうなのはこれぐらいだったので・・・入力と同じ電圧を出力できるようなモデルになると、それこそSRMのフルセットが新品で買えるような値段で、とても正当化できるような出費ではありませんでした。まあ、30Vでも綺麗なブルーが出せることがわかったので、私としては十分でした。ちなみにこの電源装置、直列で繋ぐと電圧をアップできるそうなので、60Vを出力したい人は2つ買って繋げるといいでしょう。乾電池を何個も繋ぐより安全で安定しているはずです。
ここまでで膜厚は電圧に比例して厚くなることを述べましたが、あちこちで収集した情報を総合してみると、どうも電圧と色にははっきり相関関係があるんですが、リン酸の濃度とか水溶液の温度とかチタン表面の状態などで若干の前後はするらしく、これからご紹介する手法をなぞってもお手元で同じ色を出すことは難しいかもしれません。もしかしたら気温とか湿度とかも絡んでいるかも知れないですし・・・
さらにDIYでやる以上用意できる電圧には残念ながら限界があります。今回の私の用意した環境では、出せる色は黄土色→ブラウン→茶色っぽい紫→フレンチブルーとネイビーの中間のような色、とかなり狭い範囲に留まってしまったようです。高い電圧を必要とする明るい色、例えばスカイブルーや黄色、緑、マジョーラのような紫を出したければ同じ電源装置を複数個繋いでパワーアップするか、乾電池直列で出すしかないでしょう。
おっと、もう一つ注意が。
中学生の時にやった水酸化ナトリウム水溶液の電気分解は有毒なガスの発生はなかったですが、コーラってどうなんでしょうね・・・アルミ通して30V程度の電圧かかったらヤバいガスが出た、なんていうと冷蔵庫や自販機の缶入りコーラはマズいんじゃないの、ってことになりそうなので多分大丈夫だろうとは思うんですが。念のため換気の良いところでやるがいいでしょう。一応、変なにおいがしたとか気分悪くなった、などは全く無かったですが…
電源装置使う場合は30分程度ウォームアップが必要な場合が多いと思うので、予め電源を投入しておきます。
このうちに、ボルトやパーツはできるだけ洗浄・脱脂して綺麗にしておきましょう。私は徹底を期して、前の晩にポリマールでゴシゴシ磨き、アセトンで脱脂しておきました。ここでどれだけ頑張るか、は色ムラの少なさや処理のスピードに直結しているような気がします。磨ききれていなかった部分は、酸化が遅れたり、膜ができなかったりしているようです。
とりあえず写真のような配置で並べてみました。この容器は200mlのタッパー。
これが浴槽になります。
陰極を繋ぐためのアルミホイルを適当な長さ切り出して(今回は25cmx25cm程度)折り畳み、容器の縁から底の方まで届くよう折り畳んで馴染ませます。縁より外に露出するようにしておかないと、電極が取り付けられませんので注意。そのままコーラ注ぐとアルミホイルが浮き上がってくるので、何カ所かテープで固定しておきました。
このアルミホイルの縁に陰極を繋ぎます。今回はコカコーラZero使用で、150ml位注いだでしょうか。ちなみに今回ボルトや細々したもの10個程を処理しましたが、浴槽のコーラはこのまま最後まで入れ替えませんでした。最初と最後で仕上がりの色やスピードが違うということも無かったです。さすがに気分的にアレなので、処理後のコーラは飲まずにそのまま捨てました。もしかしたら、流しに捨てるのもまずいのでしょうか・・・ちょっと不安です。
さて処理対象のパーツに陽極を繋いで電圧を上げ、浴槽へ浸します。"titanium, anodizing"あたりをキーワードにGoogle検索すると、電圧毎の酸化具合がスペクトラムになって表示されている画像がゴロゴロ出てきます。これらを参考に、出したい色の目星をつけて下さい。但し、この酸化処理の特徴として一度酸化すると研磨でもしないかぎり元に戻せないというものがあり、例えば20V近辺で一回引き上げたら紫っぽい色が出たけれど、なんとなく物足りないから30Vまで上げてまた漬けたら今度はネイビーっぽい色になった、でもやっぱ紫に戻したいな、と思ってももう戻せないので、低い電圧から小刻みに・段階的に色を確認しながら行うのが良いでしょう。
また酸化処理中にワニ口クリップがコーラに浸ったり、対象物と陰極側のアルミホイルが触れないよう、細心の注意を払って下さい。軽く触れてもバチッと火花が飛ぶし、あたったところは傷になって色ムラになります。なによりショートや感電はしたくないですよね。
陰極と陽極のつなぎ方を間違えていなければ、陰・陽極側ともに泡がブツブツ出てきます。浴槽に入れた瞬間かすかに対象が茶色っぽく変わりますが、みるみる色がかわるようなことはありません。でもそのままホールドします。大きなパーツや長いボルトは一回漬けるだけでは処理しきれないので、何回かに分けて酸化処理を行います。電圧設定を変えなければ、境目は判別できないくらいに仕上がります。安定電源ならずっと変わりませんが、バッテリーだと徐々に出力が落ちていくはずです。手早さが必要になりそうですね。
ちゃんと脱脂が出来ていれば、20〜30秒で泡が止まるようです。引き上げると、あれこれ酸化しきってないんか?と思うほど色は付いていません。引き上げる前に安定装置の電源を切らないようにしましょう。切る瞬間に電圧が変動することがあるそうなので、色味に影響しかねません。引き上げて、対象物を外してから切るようにしましょう。
(浴槽から引き上げ直後の状態)
コレを水で洗浄してウエスで拭き上げると・・・
でましたよ、ほとんど茶色のパープルですね。
この時の電圧は21Vでした。
もっと深いブルーが欲しいので、次は25Vに。
まだ少し茶色がかってます。
では一気にMAX 31.5Vへ-----
出ました、綺麗なネイビーブルー!!
あまりにあっけなく、しかも仕上がりが感動的に美しかったので声を上げて喜んでしまいました。
これ、むちゃくちゃ楽しいですよ!!
写真のボルト、途中でこっそり入れ替わってますけれど写真がピンぼけでこっちに差し替えなきゃならなかったんです。サーセンw データの改竄じゃありませんよw コーラでアノダイズはちゃんと実在するんです!!
というわけで、ロックリングやステムキャップ(虎の子のCKチタン製・・・! でも後悔なんかしていない)も投入してブクブク酸化処理。どうやらレーザーエッチングされた部分には酸化膜は出来ないようです。Sotto Voceみたいになると思って期待したんですが、ちょっと残念でした。
こんな調子で気付けば1時間半位遊んでたでしょうか。
やってみた感想として、ボルトやナット、ワッシャなどは比較的簡単に綺麗に仕上げられる一方、ステムキャップのように面積が大きくなると斑のような模様も出来やすく、前処理が甘いところでムラが出来る可能性もありそうだな、ってことでした。酸化処理自体は、電気の取り扱いさえ間違えなければどうということはありませんでしたが、特定の色を狙って出すのはやはり経験を積まないと難しそうです。しかも30V位の低電圧では膜自体があまり厚くないので、耐久性も多分それなりなんだろうなという点もちょっと気になるポイント。まあ簡単なので薄くなったらまた処理し直せばいいのですが。そのうち、乾電池を使ったもっと高い電圧での処理や他のコーラなどでの発色の差など試してみたいことはいろいろあります。アルミホイルとスポンジで筆を作り、コーラに浸して通電させるという方法もあるようなので、ビニール系のテープなどでマスキングすれば単純なラインは描けそうです。
今回はここでひとまず実験成功として打ち切りますが、皆さんもいかがですか!?
価格評価→★☆☆☆☆ (ボルト購入時にやってもらうと、100円程度のアップチャージですみますしねぇ)
評 価→★★★★★ (でもオリジナルカスタムが出来るし、すごく楽しかったので)