購入価格 ¥0(廃材利用)
ディスクブレーキ車でブレーキングした際に発生する不快な振動を何とかしたいと考えていた時に、TIME社のAKTIVフォークに内蔵されている『マスダンパ』なるパーツの事を思い出した。
マスダンパとは、入力された振動に対し逆相の振動を発生させて振動を打ち消す制震装置。というとなんか凄そうですが、モノ自体は揺れてほしくない場所にバネを固定し、バネの反対側に重りを固定しただけ、という部品点数2点の至極単純な機構です。
高層ビルやF1のフロントノーズ(※1)に採用され一定の効果を得ているので実績はバッチリだし、調べてみたら自転車に自作マスダンパを搭載している人が居る事も知った。今の症状を消すのにピッタリだ。
という訳で私もそこら辺にあった廃材で自作してみました。
先に結果を書くと、一度体験してしまうともう元には戻れない程の快適性を得られてしまいました...。
(※1) F1に関してはコーナリング速度が飛躍的に向上し過ぎて危険と判断されたのでその年限りで禁止されましたw
逆に言えば、それだけ期待できるとも言えます。
【こんな感じで作ってみた】
搭載箇所はクロモリ製グラベルロードに付いている比較的柔らかめのクロモリフォークのブレーキ台座付近。
お手本は本家TIME社のAKTIVフォークです。
製作に使用した道具は、主にホームセンターで手に入るハンドツールや電動工具など一般的な道具です。
今回はサイズ違いの重りを何個か作る際に汎用旋盤を使って楽しましたが旋盤無しでも作れます。
部品の材料は廃材の金属板と丸棒と各種ネジ類。
材質は全部SUS304(磁石に付かないステンレスの中で一番メジャーなやつ)と思われますが廃材のため詳細不明。
今回は金属で作りましたが、材料はバネと重りの役割を果たすものなら何でもOK。例を挙げるなら、バネは板バネでもコイルバネでも金属でも一般的な樹脂でもドライカーボンでも植物素材でもOKですし、重りは余ったパーツや大きめのボルトナットや粘土をくっつけるとかでもイケます。特別な素材は不要ですので、100均やホームセンターで全部揃うかと思います。
ちなみに私が板バネ方式を選んだ理由は、全方位に揺れるとフォークに当たって傷になりそうなので揺れの方向を制限するためです。なので、マスダンパの原理的には板バネである必要はありません。
パーツの各寸法は、
・走行中のフォークの撓り加減(主にストローク)を確認。
・余ってた金属板を帯状に切って手で曲げてみて硬さと撓る量を確認。
・走行中に力を受けた際にフォークと板バネのストロークが大体同じになるようなイメージでバネの長さと重りの重さを目分量で決める。
って感じのカンコツ作業で作ったので深い意味や設計計算とかは一切無いです(笑)
参考になるかどうか分かりませんが、各部寸法を下記に記載します。
[バネ部分]
・全長 90[mm]
・幅 20[mm]
・厚さ 0.7[mm]
・上記の板を2枚重ねで使用
[ベース部分]
・全長 50[mm]
・幅 21[mm]
・厚さ 2[mm]
[重り部分]
・丸棒を切って真ん中に貫通穴又はネジ穴をあけた構造
・直径は基本的に20[mm]固定
・長さは下記の計算式を参照し都度設計
・重い重りは長くなり過ぎるので直径を太くして再計算
・最後の微調整は平ワッシャを重ねる等して対応
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最初に目分量で作った重りの重さ
半径[mm]×半径[mm]×円周率×全長[mm]×7.93[SUS304の比重]÷1000[単位合わせ]
=10×10×3.14×20×7.93÷1000
=49.83[g]
50[g]の重りの正確な長さ
20[mm]÷49.83[g]×50[g]
=20.068[mm]
欲しい重りの長さ
=20.068[mm]÷50[g]×欲しい重量[g]
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[自転車への固定方法]
フラットマウントのアダプタに2本のM5ボルトで固定しました。
片一方はアダプタ固定ボルトで共締めしており、もう一方はアダプターにM5の下穴サイズの手頃なキリ穴が開いてたのでそこにタップを立ててボルトで固定しました。取付穴同士が近過ぎてワッシャが干渉するので、ワッシャを欠けた月のような形に追加工してあります。
ネジ穴の追加工による強度面での問題は特に発生しませんでしたが、アダプタをいじる場合は一応自己責任でお願いします。
M6とか開けたらマジで割れそう。
リムブレーキ車に付ける場合はクイックで共締めするか、キャリア用の穴があればそれを利用すれば固定可能かと思います。
必ず守るべき要点としては、しっかり振動を伝達する必要があるため自転車にかっちりと固定することと、バネの取付角がフォークと並行になっていること。
この2点ぐらいだと思います。
【初期印象】
50gの重りを付けて適当にあちこち走ってみてこんな印象を受けました。
・ブレーキング時の嫌な振動はほぼ解消
・乗り心地は、荒いアスファルトが普通のアスファルトになり、普通のアスファルトが白線の上になり、白線の上は無振動の滑空状態になる感じ
・街中の点字ブロックが1/3ぐらいの高さに摩耗したと錯覚する
・スローパンクの感触にも似ている。(もちろん空気圧などは変えていない)
・大きい衝撃は今まで通りだが収束が明らかに速い
・手の疲労感が大幅に減る
・走行後の体全体の疲労感も減る
・振動によるフロントライトの光軸ズレが起こりにくくなった
・グラベル走行時の安定性が少し増す
・ハンドリングやペダリングは良い意味で変化が無い
こんな感じでいきなり好印象でした。
走行中のマスダンパは目視では殆ど動いていないように見えるのだがちゃんと仕事しているらしい。
【ベストセッティングを探す】
最初に作った50gを基準として重量増の場合と重量減の場合を試したので書き残したいと思います。
最終的に製作したのは、45g,50g,55g,60g,100gの5種類です。
[重量増の場合]
・大きな衝撃の緩和能力が上がる代わりに、小さな振動が消えにくくなる
・60g辺りから振動の入力に対する制震のレスポンスが遅くなりはじめる
・60g辺りからハンドリングが野暮ったい感じになる
・100gまで極振り増量すると重りが勝手に振り子運動を開始し、長周期振動を発生して不快感激増
[重量減の場合]
・単純に制震性能が落ちていき、マスダンパを付けている意味が無くなる
・50gから45gにしただけでもマスダンパを付けている意味が殆ど無くなるためこれ以上軽い重りは試さなかった
[ホイールを変えてみる]
前後輪をそこそこ重量級の650Bから150g以上軽い700C(※タイヤを含む)に変えてみましたがマスダンパのベストセッティングに変化なし。
マスダンパの特性はフォークやヘッド回りやハンドル回りの重量、剛性、固有振動数に依存するのかもしれません。
TIME社の本家AKTIVフォークのマスダンパが内装固定式になっている理由に納得。
[実験してない項目]
バネの長さや硬さを変えるという実験要素もありますが、現状仕様の快適度が非常に高く満足しているため今のところ試す予定は無し。
ここまでの試験結果から想像するとマスダンパのストロークの事を考えてバネを数ミリ伸ばして重りを軽くするというのもアリかもしれませんが現状より大きなメリットはなさそう。
それならリヤ側への搭載やハンドルへの搭載の方が興味がある。
また、今回スペース等の問題により片側のフォークにしか搭載していませんが十分な効果がありました。
であれば、左右のフォークに設計の異なるマスダンパを搭載して2つの周波数の振動を消す、という実験も面白いかもしれません。
ちなみに、TIME社のAKTIVフォークのマスダンパは、リムブレーキ用は両側、ディスクブレーキ用は片側のみ付いているらしいです。意味深ですねぇ。
[ベストセッティングが出た]
結局最初に作った50gがベストと判断しました。
軽い重りから徐々に重くしていって最初に振動が消えたと感じたポイントがベスト、というセッティングの出し方が良いようです。
でも敢えて55gを選んでのんびりクルージングするような走り方をするのも趣があっていいなと感じたので、55gの重りもツール缶に忍ばせてあります。
そのうち52.5gも作ろうかな...。
【更に走行距離を重ねての印象】
600m級の峠越えや100㎞越えのツーリングも試しましたが、本来その自転車が持つ特性や魅力はそのままに特定の振動のみ消してくれるため、より集中し、より遠くまで、より楽しく自転車の上で過ごせるようになったと断言できます。もともと低い部分に付けているためか重量も感じませんし、少しでも軽量化したいという状況になったとしてもマスダンパだけは外そうとは思いません。それぐらいに恩恵を感じています。
もし、柔らかいフレームや分厚いサドルとバーテープといった対策を取っていたとしたら、ペダリングパワーや操作力が逃げ、ダイレクト感を欠き、かえって疲れていたかもしれません。
【弱点】
前述の通り数値上は重量増となりますが、サスペンション付きのフォークに交換するよりは軽いですし、車体の低い位置に付く部品ですので快適性向上の恩恵の方が勝ります。軽量化至上主義の方のみが弱点と感じる弱点だと個人的には思います。
他に、外装式なので走行時にマスダンパにモノを引っ掛けないようちょっとだけ注意する必要がありますが、今のところ引っ掛かった事はありません。
ホイール脱着時に若干邪魔なのも弱点ですが、マスダンパを付けっぱなしでも一応脱着可能。輪行も何度かやっていますが移動中の不便は無いです。
~まとめ~
適当に作った割に予想の遥か上を行く効果を発揮した廃材製マスダンパ。
自転車側への固定方法に一工夫必要ですが、そこさえ決めてしまえば製作も簡単で、アイディアと工作スキル次第で様々な素材が選択可能可という点も面白い。自作で色々試せたのでセッティングの違いが感じ取りやすくなり大変有意義な自作パーツ遊びが出来ました。もう元に戻そうとは思いません。
自転車にマスダンパを搭載すると大きな効果が得られることが分かったので、もしTIMEのフレームを手にする機会があれば即AKTIVフォークを選びたいと思います。
価格評価→★★★★★(製作費ほぼ無料)
評 価→★★★★★(私は魔法の絨毯を知ってしまった。)