ショートショート「カエルの冬眠」FrogStar 2011-3-30 21:53 5119 hits FrogStarさんのすべての写真 フォトギャラリーTOP こんな老いぼれの話を聴きたいとは珍しい。 民俗学のフィールドワーク? よく分からんが、こんなところまで来るなんて、最近の学生さんは大変じゃな。 昔々の、もっと昔、その頃カエルたちは冬眠せずに、移り変わる四季を楽しんでおった。 そんな大昔のこと、ある処に悪い魔法使いの兄弟がおってな。 得意の魔法を使っては、村人を脅して食料を奪ったり、村人を魔法の実験台にしたりと、 悪さのし放題じゃった。 ある年の新雪が積もった満月の夜のこと、 魔法使いたちは、雪の上に大きな魔方陣を描きおった。 雪の上に魔方陣を描いたら、足跡が残るじゃないかって? 魔法使いをバカにしちゃいけない、ヤツらには空気の上を歩くぐらい簡単なことさ。 この魔方陣は、異界の悪魔を召喚して、その悪魔が暴れないようにするためのものでな。 悪魔を呼び出して、何をやらせようとしていたかは、色んな噂がある。 王様の兵士たちが魔法使いを倒しに攻めてくるんで、それに対抗しようとしたとか。 不老不死の秘薬を得るためとか。 ともかく、満月の下で悪魔を召喚する儀式は始まってしまった。 二人の魔法使いが、誰にも邪魔されることなく呪文を詠唱すると、魔方陣の中央に 異界への門が現れた。 門は、夜の闇が明るく感じられるほどに真っ黒で、どこまでも落ちていきそうな 深みがあった。 門からは、大人の体ほどもある大きさの腕が音も無く出てきおった。 その腕は筋肉質で、表面は光沢のある黒くて薄い皮に覆われててな、指には ご丁寧に鋭いツメまで生えとった。 その時、一匹のカエルが跳ねてきて、魔方陣の一角を崩してしまったんじゃ。 魔法使いたちは、魔方陣が破られたことに気が付くと、すぐに弟が魔法の 防御シールドを作成し、兄が魔方陣を修復しようとした。 しかし、悪魔も魔方陣が破れたのに気がついてな、門を抜けてその巨大な全身を あらわにした。 悪魔が腕を伸ばすと、弟が作った魔法のシールドはあっけなく壊れてしまい、 悪魔がその指先を振っただけで、弟の身長が首の高さだけ低くなった。 兄はその隙に魔方陣を修復したものの、それは悪魔の尻尾に胸板を貫かれたのと ほぼ同時じゃった。 自分の命が永くないことを察した兄は、邪魔したカエルを睨みつけると 自分の魂と引き換えに悪魔に願いを叶えるよう命令したんじゃ。 「未来永劫、雪の上で月明かりを浴びたカエルどもを、全て石にしてしまえ!!」 魔方陣を乱したカエルは、最初の犠牲者となってしもうた。 こうして、石になるのを恐れたカエルたちは、雪の降る冬の間は冬眠して 過ごすようになったというわけじゃ。 今でも雪が融けて春になると、ときどき石になったカエルが見つかるらしい。 まあ、好奇心の強いカエルが雪夜に外に出てしまったんじゃろ。 おっと、すまんなぁ、呼び出しじゃ。 景気が悪いせいか、ワシのような年寄りにまで、最近は呼び出しが かかるようになってな。 お話はここまでじゃ。 えっ? 目撃者が残っていないのに、どうして悪魔が呪いをかけたのかが分かるのか? まったく、野暮なことを訊くもんじゃな。まあよいわ。 分かるも何もワシがあいつに頼まれて、カエルどもに呪いをかけたんじゃよ。 |