森の深くにpinkchime 2010-8-6 9:26 4706 hits pinkchimeさんのすべての写真 フォトギャラリーTOP 暑い、今年の夏は暑い。夏ってこんなに暑かったかと思うくらいに暑い。しかも、家にはエアコンがない!早起きして庭で水やりをしていると、早朝にもかかわらず、もう凄い日差しだ。じりじり肌を焼く直射日光は、暑いどころではなく、冗談抜きに熱いのだ。今日はまた、一段と気温が上がりそうだ・・・・・・。こんな日は迷わず山へと出掛ける。そうだ、前々から気になりつつも足を踏み入れることのなかった、家の窓から見えるあの山へ行こう。 まずは、舗装路を延々走り、ひたすら標高を稼ぐ。暑い。林道をなおも漕ぎ上がり、登山口にようやく到着。やはり、まだ暑い。まるまる3時間かけて、ようやくここからお楽しみが始まる。登山道に進入すると、もう別世界。「おほー、涼しい!」思わず声が出る。すぐ下で轟々と音をたてる沢から、熱気を押しのけて冷気がもうもうと立ち上って来る。あまりの心地よさにしばし歩を止め、辺りを窺ってみる。 見事な針葉樹の原生林だ。すでに極相に達しているようで、シラビソ、コメツガが密に直立する中にも、ダケカンバが所々に己の居場所を見出している。また、地表付近にはクマザサがびっしりと繁茂している。それにしても、なんと深い森だろう。森に棲むあらゆる存在が放つ強い香気が混然一体となって、辺りにたちこめている。森の薫りというやつだが、広葉樹林の温もりのある柔らかい香りよりも、冷涼でどこか硬い印象だ。いったい何と形容すべきだろうか。爽やかという言葉ではとても捉えきれない。爽やかと言うには濃すぎるうえに重すぎるのだ。あえて形容するなら、芳醇と言うしかないだろう。重厚なまでの豊かさだ。この匂いは一生忘れ得ないものになると確信した。 そんな森の中を1時間半ほど、押したり担いだり、たまには乗ったりで山頂に到着した。展望はないが、それでも一向に構わない。家の窓から眺めていたこの山の姿を思い起こせば、えも言われぬ充足感と達成感が全身を駆け巡る。三角点の脇に腰を下ろし、木々のざわめきと鳥のさえずりを聞きながら、森の香気という最高の調味料とともに、塩気をたっぷり利かせたおにぎりとゆで卵を頬張る。まさに、至福のひと時だ。 立ち去り難い気持ちを押しこめて、一礼してから山頂を後にする。下りは結構乗れる。特に高度を下げてからは、ほとんど乗りっぱなしだ。針葉樹の落ち葉が堆積した径を走ると、無音で滑空しているかのような気分になる。ふかふかで、かさかさと音を立てる広葉樹の落ち葉の存在感ももちろん素晴らしいが、このしっとりとした繊細な感触もまた格別だ。 林道まで戻ると、アサギマダラが舞っている。このチョウは飛ぶというよりは、文字通り舞う。ゆったりと、優雅に、舞い踊る。かくも美しく可憐なものが海を越えてここまでやって来るとは、にわかには信じ難い。その姿を夢中で追いかける。無上の美に恍惚となる・・・・・・。やがて、意識は途方もなく拡大し、自己の境界線は果てしなく膨張する。そして、私はその巨大な意識でもって自然を包み込む。その時、紛れもなく自然は私の内にあることを直観する。 来た道を戻る。ひたすら下る。浄化され躍動する己の生命を感じながら、愛おしみながら、穏やかに、だがしっかりとペダルを踏む。家に近づくと、今しがた登って来たばかりの山が西日に照らされ、湧き立つ雲の下に青々と輝いているのが見える。思わず自転車を止め、その光景を前に茫然と立ち尽くす。その山はもはや、今朝見たあの山と同じではなくなっていた。己の内に深く息づく、私の山へと変貌していたのだ。今後、特別な感情なしには、この山を眺めることはないのだろう。胸に充溢する、息が詰まるほどに熱いものを鎮めるかのように、深く重く息をつく・・・・・・。 ・・・・・・ん、んん?なんか臭い?我に返り、鼻を利かせて臭いの元をたどってみる。そして、愛車のリアセクションを見て驚愕。あちこちにウ○コが付着している!「どっひゃー、やっちゃった!」さらに、ウン○まみれになったフロントメカを見て絶句。変速不良の原因が、泥ではなく、まさか、○ンコだったとは!フロントメカは構造的に複雑だし、このあとの清掃作業を考えると、うすら寒くなってしまったのだった。 暑かったり、涼しかったり、熱かったり、寒かったりの、乱高下の一日、また、匂いと臭いに沸き立った長い一日なのだった。 |