購入価格 ¥12000
Quarq CinQoを導入したところ、単にパワーを測定するのみならず、トレーニングの強度や量を管理するのに興味を持ったが、
自転車の台数分パワーメーターを購入するのは少し予算的につらいものがあるのでw 簡易的に出力ログを取りたいと思い、買ってみた。
ガーミンのプレミアムハートレートセンサーのバンドが故障し、仕方なく引っ張り出してきた旧式ハートレートセンサーの装着感の悪さにイライラしていたのも理由だったり。
見た目は普通の心拍計と何ら変わりない。センサー本体にスナップリングでバンドを固定する方式で、フィット感は、ガーミンのプレミアムハートレートセンサーとさして変わりない。
高価なAnt+心拍計といった感じ。蛇足だが、プレミアムハートレートセンサーは国内定価8400円。
使用方法は通常の心拍計と同様、胸に装着して、Garmin Edgeなり他のヘッドユニットから心拍計としてペアリングを行う。
次に、パワーメーターとしても同様にペアリングすれば、画面上で出力を確認できるようになる。他に細かい設定は不要。簡単すぎて少し不安になる。
さて、PowerCalのウリはパワー測定。「測定」というのは正確ではなくて、心拍数の変化からパワーを「推定」する機能がある。
サイクルオプス製品の輸入販売を行うキルシュベルク・インクのウェブサイト(
http://www.kirschberg.jp/powercal/power_cal.html)曰く「サイクルオプスとコロラド大学ボルダー校は、外界での心拍とパワーの関係を解明すべく、何年にも渡って数万件ものパワーに関するデータファイルの収集・分析を行ってきました。そしてついに実際の走行時における心拍数とパワー値との間に一定のルールがあることを発見し、そして極めて高い精度で心拍情報からパワーをリアルタイムに導き出すアルゴリズムを開発することに成功。そうして完成したのが、出力情報を発信する世界初の心拍ストラップ、パワーキャルなのです。」
とのこと。
パワーを直接測定するならば、クランクやリヤハブに歪みゲージを装着し、トルクと回転数を測定する必要があるが、
PowerCalは駆動力の源であるサイクリストの心拍数を測定してやれば出力を予測できるんじゃね?という発想で作られている。
確かに心拍数変化と筋肉の運動には相関がありそうだが、心拍計よりちょっと高い程度の、12000円という価格も相まって非常に怪しい。
キルシュのウェブにも「もちろん精度はパワータップには及びません。」とかハッキリ書いてあるし。
おいおい「極めて高い精度で心拍情報からパワーをリアルタイムに導き出す」んじゃなかったのか?
ケイデンスや心拍数測定からのステップアップでパワートレーニングを始めようと思っている人は、なかなか不安になるのではないだろうか。
インプレッションをいくつか読んでみたところ、瞬間的な出力はアテにならないものの、全体的には精度よくパワーを予測できるらしい。
もっとも全体で見ると、運動中に送った血の総量と、筋肉が消費したエネルギーにはそれなりに相関がありそうなので、全消費エネルギーや平均パワーを精度よく予測できるのは、そこまで驚くことではないのかもしれない。
しかしPowerCalは「パワーをリアルタイムに導き出す」そうだ。リアルタイムに出力を比べた場合、どの程度パワーメーターに近い測定値がとれるのか疑問に思ったため、比較を行ってみた。
比較テストにあたって、コースは勾配5%以下のなだらかな起伏が連続する丘陵地で、信号が少ない場所を選んだ。
運動強度は高め。LSD以上のペースを維持しつつ、何度か全力でもがいた。
パワー測定にはQuarq CinQo Saturnを使用。スロープ調整もキャリブレーションも行っているので、測定値はそれなりに信頼できるはず。
Edge500にPowerCalを、Edge800にCinQoをペアリングし、同時にログを取りながら走り、ログを記録した。
テストした距離は15.55km、走行時間は30分25秒。
CinQoとPowerCalでそれぞれ
エネルギー 363kJ/373kJ
平均パワー 204W/210W
最大パワー 985W/583W
TSS 34/25
消費エネルギーや平均パワーは精度よく予測できているものの、最大パワーはアテにならない。
短時間高出力をうまく測定できていないようで、TSS(トレーニングストレス値)もかなり低く算出されてしまうようだ。
横軸に時刻をとり、CinQo実測値、PowerCal推定値、速度、高度をプロットしている。
少々見づらいので、時刻10分から15分までの間を拡大してみた。
グラフの時刻10~10.5分の間は、赤信号で徐々にペースを落としつつ脚を止めて減速中、信号が青に変わって再び踏み直した場所なのだが、PowerCalの測定値が実測パワーに遅れて追従しているのがわかる。
傾向こそ実測値に近いものの、ある瞬間における出力測定値はアテにならない感じ。リアルタイムで「FTPまでもう少し余裕あるから踏んでいこう」というような使い方はできない。
そこで試しに、グラフを測定時刻を中心とした15秒平均になるようにプロットしなおすと、以下のようになった。
C15、P15はそれぞれ、CinQoとPowerCalの15秒平均値を示す
時刻12.5分以降、パワーが上下する場面でPowerCalはイマイチ反応できてない。そのため、TSSも低めに算出されてしまうのだろう。
(TSSは平均出力が同じであっても、パワー上下が激しい運動を行った時のほうが高いスコアを示す)
少々物足りないので、30秒平均をとってみたところ、以下のグラフのようになった。実測値も推定値も随分均されて、結構よく一致しているように思う。
C30、P30はそれぞれ、CinQo、PowerCalの30秒平均を示す
PowerCal使用時は30秒平均パワーを表示するようにすれば、ある程度信用できるパワーを表示できると考えて良いのではないだろうか。
それでも、無酸素運動域に入るような大パワー出力時は参考にすらならないし、
パワーの上げ下げが激しい運動をしているとTSSの実測値と推定値はどんどん乖離していく。
今回のテストでは敢えて誤差が大きくなるような状況を狙ってみたのだが、やはり、運動負荷の上下が激しい乗り方では、あまり精度は期待できないようだ。
まとめると、PowerCalのパワー推定値が正確なのは
有酸素運動域、穏やかなパワー上下、淡々と走るシチュエーション…
→ロングライド、ツーリング、LSD
逆に、あまり参考にならないのは
全力でのペダリング、激しいパワー乱高下…
→ロードレースやクリテリウム、インターバルトレーニング
真にパワー測定を必要としている人にとってはオススメできないし、
既にパワーメーターを練習に取り入れている人も不満が出るはず。
だからといってダメなわけじゃない。パワーメーターの10分の1以下で買えて、場面を選べばそれなりに信用に足るパワーを推定してくれる製品は他にない。
…逆に、パワーメーターが例えば5万円とかで買えるようになったら、こういう製品は必要なくなると思った。
価格評価→★★★★★ 出力推定機能という付加価値を考慮すると非常に安い。
評 価→★★★★☆ 主に有酸素運動域で走るなら、なかなか信用できる。