フレーム希望小売価格 ¥399000
10月25日(日)のジャパンカップ。
登坂時の引き脚の使い方、集団内やコーナーでの目線など、プロの美しい走りは、単なるサイクリストの私にとっても、いつ見ても参考になります。新城選手の見事なペダリングは正面や真後ろから見ると、何故か、どことなくアニメっぽく微笑ましく感じられ、癒されました。
で、レース中盤。メイン会場のメーカーブースに行ってみますが、いまさら質問などする気も無いので、混み合う人を避けながらゆっくり歩いて眺めていました。展示されるすごいマシンを眺めはしますが、何故か、ひどくつまらない光景に見えてきます。まあしかし、それはいつものことです。そして最後に辿り着いた左隅の小さいブースに展示されているカーボンマシン。おや?随分すっきりしたデザインのカーボンフレームがあったもんだなあ。あ~、あそこのヤツ。
ラグド・カーボンとモノコック・カーボンの二つのフレームで組んだマシンが地上に置かれ、それぞれのフレーム単体が、見やすい高さに吊るされていました。
130mmのリアエンドを親指と中指で挟み込んで、ぎゅーっと撓ませてみたところ、「ん、結構やわらかいのでは・・・?」 カイセイ019で、しかもシートステーに、パイプの比較的細い部分を使って製作したクロモリフレームを思い起こさせるような感触です。待ち構えている担当者に、久々に質問したくなりました。
--- 随分柔らかいですねぇ?
そう感じられたかもしれませんね。クロモリフレームをかなり意識しています。
--- いまどきクロモリなんて言ったら、印象がアレじゃないですか?
イメージはそうかも知れませんが、でも、実はクロモリフレームはいろんな意味で、完成度が非常に高いものなんです。
--- へぇ~、そうなんですか。ところで、色々すごいカーボンフレームが各社から出ていますけど、私なんか、そいういうフレームの設計の意図がさっぱりわかりません。どう思いますか?
そうですか。私は、これまでのカーボンフレームは、違う、と思ってます。
--- このフレームのspecを見て驚いたのは、フォークが3サイズあるってことなんですよ。これは、新興メーカーとしては、ものすごいデモンストレーションじゃないですか?これだけでも、ものすごく素晴らしいと思います。
ありがとうございます。そこは拘りました。そこも実は、クロモリフレームなら当然のラインアップなんですよね。
--- そうですよねぇ。カーボンバイクでは、どんなフレームサイズでもフォークは大体、オフセット45mmの一発で済ませちゃう、なんていうのが当たり前になっていたりするじゃないですか。BSはさすがで、3本用意していますけど、あれは別格。最近、外車でもようやく2つ設定するところも出てきましたけど。(AstorPiazzolla氏の芸風パクリ!)
そうなんです。オフセットは選びたいですよね。
--- ヘッド角度73度でオフセット43mm。いいですね。これは多分、ヘッド73.5度でオフセット40mmっていうのと、トレイルがほぼ同じじゃないですかね。私は、そのヘッド73.5度でオフセット40mmっていうのと、それから同じく45mmのクロモリロードに日替わりで交互に乗ってるんですけど、この違いは無視できないんです。物理的な旋回特性の違い、という意味でも、好き嫌い、という意味でも、到底、無視できない。私なら俄然、40mm、このフレームなら43mmを選びますけど。
まったくそうです。そこは非常に拘りたいところだと私も思っています。一応、フレームサイズごとに対応するフォークが設定されていますが、参考にしていただきたいところです。
--- このフレームの評価が高まれば、各社のフォークオフセットが一気にマルチサイズ化に走るかもしれないですね。・・・で、BB下がりですけど、微妙な数値設定をしてますね。
私たちのフレーム設計のお手本は、クロモリフレームの特性なんです。
--- でも、クロモリのロードだと普通のサイズでBB下がりは大抵、70mm、かつてのZUNOWみたいに75mmって言う例外もありますけど、普通のサイズのフレームなら、何となく、そんなもんですよねぇ?
ええ、クロモリパイプのアッセンブル的な制約とか、慣習的な意味合いとかで、ロードフレームでは、ここは大きく変えない部分ですが、クロモリパイプの時代だと、たまたま70mmあたりで、結果オーライでしたね。
--- それは、ウィップの具合が、ってことですか?
そうです。実は、私が強く感じているのは、現代の実戦投入されているカーボンフレームは、ウイップの良さが感じられない設計になっているというところなんです。クロモリの本当のよさを熟知している人の中には、今のカーボンの踏み応えでは満足できないという方が多いはずなんです。硬すぎるんです。でも、カーボンという軽くて強い素材をうまく使えば、クロモリのようなしなやかで弾力のある素直な乗り心地のフレームが、軽く出来上がるんです。そのために、現在のパイプアッセンブルを考慮した上で、いいところを探し当てて、現状ではBBを68mmということで設定しているんです。
--- へぇ~、微妙な数値に拘りますねぇ。確かに、私のロードはどちらもタンゲNO.2で、ひとつがBB70mm、もうひとつが68mmで造ったのですが、後者の方が硬く感じます。その2mmが原因なんですかねぇ。まあ、昔は硬いのが好きでしたけど、今はNO.2ではいずれにしてもちょっと硬めに感じるんで、次は019クラスのパイプを使おうかな、って思ってるんですが。
はい、そのくらい拘るべきだと思うし、それが簡単にできるのがクロモリのいいところですよね。
--- そう考えると、フォーク1本にしても、欧米有名メーカーのフレームって、何か、変なところでコストダウンしているっていう感じがしますよね。何故か雑誌も黙ってるし。あと、不思議なデザインのフレームやフォークを見かけます。ほとんどギミックとしか思えないような。
なるほど、そうですねぇ。まあ、私は、クロモリのすばらしいバネ感のある乗り心地、走り心地、特に、登坂のダンシングの気持ちよさとかですね、こういうのを踏襲したカーボンフレームを実現したかったんですよね。
--- サイズが、あれですね。ラグドが6サイズ、モノコックは3サイズで、もう少し欲しいですね。
そうなんです。まだまだスタートしたばかりですので、市場の反応を見ながら、少しずつ充実させていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。
--- あ、わかりました。それにしても鮮明なコンセプトのフレームですよね。で、あのー、このフレームって、どこのどんな人が設計したんですか?
私です。
--- あ、なーるほど。そういうことだったんですか。だから・・・へぇ~! で、以前はどんな・・・?
私はブリヂストンで、ネオコットをやってました。
--- ネオコットですか!上尾工場のクロモリフレームはもしかして、世界一のクロモリフレームかも知れないですよねぇ。昔から、計測や解析とか最適設計に、ものすごくまじめに取り組んでるし。なるほど、クロモリへの思い入れは大いにあるってことですね、それは。
ええ、そうですね。ただ、クロモリという素材を使ったフレームは本当に行き着くところまで行っちゃったって感じです。そこからさらに先に行くなら、金属素材そのものの改良に手を出さなければいけない、というところまで、もう行き着いていますね。
--- そしたらやはり、カーボンってことですか。ところが今のカーボンは、違うぞ?と打って出たってことですね。BSのカーボンフレームの開発プロセスは群を抜いて素晴らしいとは思いますけど。
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これは、現場でもらったグラファイトデザイン社(GDR)のカタログに載っていたジオメトリ表です。
この表ひとつを見ても、意気込みが伝わってきます。シートサイズではなく、ホリゾンタルトップサイズを一番左の列に持ってきています。これは、たとえば「あなたのサドルからハンドルリーチまでの最適サイズはいくつですか?ステムとハンドルリーチサイズはいくつを選ぶつもりですか?そうすると、トップサイズはいくつになるでしょうか?」といった思考手順を暗に示しています。さり気ない情熱を感じてしまいます。
思うにフレームサイズ、と言えば、かなり小さめのサイズを除けば、実はトップの長さで提示すべきものです。シートサイズで決めるという慣例は、慣例でしかないでしょう。無論、結局は熟考しますが。で、トップサイズさえ決まれば、スローピングですから、ラグドの6サイズから選ぶだけでも、十分、見栄えの良いマシンに仕上がる可能性があります。
そして、3サイズを揃えるフォーク。フォークオフセットのマルチサイズ化は今後、各社が対応せざるを得なくなるでしょう。雑誌のインプレライター氏も黙っていないで、これまでの総括も含めて、はっきりと、ちゃんと書いてほしいものですね。特にジャーナリストを自称する方は、試乗からインプレッションを獲得する能力を、きっと、お持ちなのでしょうから、是非、勇気を出して書いて欲しい。
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軽さ、造形の自由度(ギミックのための自由度ではなく、強度配分や、エアロダイナミクス特性を高めるための自由度)を考えれば、ロードレースの世界で、現状ではカーボンフレームの優位性は揺らぎようもありません。しかし、クロモリの良さを知り尽くした上で、進化した現在形のCFRPという素材の優位性を当然のように認め、しかし、「今のカーボンフレームは違う」、と感じ、新たな挑戦を始めたこの会社の姿勢に、今までに無い新鮮な風を感じました。
なにやら善人ぶって、または社交辞令で、または訳もわからずクロモリをほめる人はいますが、本気で良さを語る人がすっかり少なくなってしまった昨今、クロモリの良さを本気で語ることができる人材を擁し、しかもCFRP素材とその加工プロセス管理の十分なノウハウを蓄積しているこの会社の動向には大いに注目したいと思いました。
ネオコット開発段階から営々と築き上げてきた徹底した解析と計測、やみくもでない最適化のプロセス。これらを全力投入した影の大横綱、BSのRHM9。そして新興GDRのカーボンフレーム。どちらも3サイズのフォークを与えますが、BSがわずかにクイックステアリング。また、剛性の与え方が異なったりと、両者のフレームの性格は明らかに違うようです。GDRはBSの、ある面ではアンチテーゼ、ある面では同志のようです。GDRはBSを、どうやらライバル視しているような気がしますし、もしかしたら、ライバルに成長するかもしれない、と期待が膨らみます。
回し慣れたロードペダルと、ロードシューズを持参して、久々に、カーボンバイクに試乗してみたくなりました。
http://www.gd-inc.co.jp/cycle/pdf/catalog200911.pdf価格評価→ -
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