購入価格 ¥3,550
Rizzoli International Publications刊
Jan Heine / Jean-Pierre Praderes 著
本書は全167ページの豪華写真本。1910年から2003年までに製作された50台のハンドメイド自転車を写真つきで解説している。著者のJan Heineはシアトル在住、Vintage Bicycle Quarterlyの編集長とのこと。文章はシンプルで過不足なく、品のある英語で書かれている。紹介されている自転車たちにマッチしていて、読んでいて惚れ惚れする。現代の英語が苦手、という方にも読みやすい文章ではないかと推測する。写真を担当したJean-Pierre Praderesはオートバイ写真で有名な方らしい。写真については実際に見てもらうしかない。使用機材は中版のマミヤRZ67+マミヤ・セコール127mm、フジクロームProviaとのこと。ネガフィルムではこの画質は出せまいと唸らせるすごい写真が満載である。
紹介されているのは、ヴィンテージ自転車については何も知らない私でも名前だけは聞いたことがあるアレックス・サンジェ(Alex Singer)や、数多くの廃人を生み出しているというw罪深きブランド、ルネルス(ルネ・エルス Rene Herse)、その他ヴェロシオ(Velocio)ことポール・ド・ヴィヴィ(Paul de Vivie)によるラ・ゴロワーズ(La Gauloise)、イロンデル、シュルツ、ロンゴーニといったハンドビルトのブランドが多数。最近の作家としては、手作りバッグでも有名な(?)ジル・ベルトゥ(Gilles Berthoud)も紹介されている。締めくくりは現在でもアレックス・サンジェで働いているエルネスト・シュカ(Ernest Csuka)による2003年の「10スピード・コーラスエルゴパワー付きランドナー」。
マニアの方のあいだでは有名な本なのかもしれない。写真を眺めているだけも相当楽しめる素晴らしい本だが、テキストがたいへん勉強になって、おもしろい。たとえば・・・
・1910年頃までには、現在我々が自転車として認識する姿が誕生していた
・1930年頃までには、多段ギア+まともなブレーキ+フェンダーとライトが装備
・1934年の「コンクール・ド・マシーヌ」を契機として軽量化が加速
といった歴史。そして、自転車の爆発的普及を促したのが1936年フランスでの労働法の改正だったこと。週40時間労働と、年間14日間のバカンスが義務付けられたことにより、フランス人労働者は時間をもてあますようになった。余暇は公害で汚れた空気の都市を避け、田舎でのんびり過ごしたいが、電車の切符は高価であり、自動車など夢のまた夢。そこで自転車がブームとなったのである! 自転車に乗って、郊外のきれいな空気を吸いに行こう、というわけだ。
また、自転車の技術的発展を促したのが、「レーサー」たちではなく「ツーリスト」たちだったというのは大変興味深い。レース志向の人々は、レースに勝てばいいのであって、シングルギアで登れない坂道なら自転車を担いで走れば良かった。しかしツーリストは違う。遠くまで楽に移動するために多段ギアやよく効くブレーキ、軽い車体が追求されていった、云々。
ランドナーやパスハンター、ツアラーというと現代では「床の間」と揶揄されたり、骨董品的な視点で見られると思うが、実は先端技術を実験するジャンルだったというのがおもしろい。現代のレース用ロードバイクは、極端な話、ワンレースを高速で走る性能が必要だが、目的地までの確実かつ単独での走破を必要とするパリ=ブレスト=パリといった長距離ブルベでの耐久性は考慮されてはいまい。そう考えると、耐久性や快適性の考慮が不可欠であるランドナーやツーリング車は、決して「終わった」ジャンルではないとも言える。
読んでよし、眺めてよし、の素晴らしい本。落車で肋骨を痛めた私にとっては深夜のツール・ド・フランスと並んで豪華な娯楽となっている。
なお、レビュワー専用掲示板でこんな素敵な書物をご紹介してくださったmiaさんに心から感謝したい。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
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年 式→2009(初版2005)
↓あと、ものすごくでかい