自転車雑誌広告批評 2009年7月
購入価格 ¥800(サイクルスポーツ2009年7月号)
さて、本日フライングで購入した「サイクルスポーツ2009年7月号」。 中身はまだ読んでいない。今回はこの雑誌に出稿された「広告」のみをレビューしてみたい。
まず表紙裏のSHIMANO DURA-ACEの宣伝キャッチコピーから。
「未来を始める。7970 DEBUT !」
うーん。ちょっと凡庸じゃないの。★★☆☆☆。 SHIMANOの広告はSHADOWのが良かったよ。岩がディレイラーを破壊できなくて悔しがってる英語の広告。 7970ってメジャーチェンジじゃないんですか。ならもっと力を入れてほしいと思いますね。カンパの11s広告も、そういえば熱さ、本気感があまりなかった。
はい次。AKI CORPORATIONによるSIGMA。
"KNOWLEDGE IS THE KEY" (ON YOUR BIKE AND PC)
知識が鍵です、と。うーん。これならPOLARの"It reads you like it reads your bike(自転車[の速度やケイデンス]を読むように、あなた[の心拍]を読む)"のほうが上手ですね。 これも★★☆☆☆。
PANASONICのフィッティングシステム。
"JUST FIT"
ヒネリゼロ(笑)。でも、ストレートに響く。ヒネれば良いというものではない。この広告作成者はその点をわかっているらしい。上記二つよりずっと良い。★★★☆☆。
次。FINISH LINEの広告。
"LUBE IT RIGHT"
「適切に注油しましょう」。ルーブィッ・ライッ。響きはなかなかよろしい。ヒネリなし。日本向きのスタイルではないな。この"RIGHT"が難しいから我々みんな苦労しているんですけどね。★★☆☆☆。
次、Michelin Pro 3 レース。
"Without a motor, you'll have a tough time keeping up with the new MICHELIN Pro3 Race"
まあオートバイの後部座席に乗ったビバンダム君がそう言ってるわけなんだけど、せっかくなら日本語にしてはどうか。「エンジンついてないとさぁ プロ3乗ってる奴についてくのチョー大変ダヨ」とか。 日本は英語のまま残すのが好きですよね。日本のメーカーが国内向けにそういうこともやっている。Make it possible with Canon とか、NISSAN Shift the futureとか。まあいいんですが。日本の代理店の工夫が感じられないな。オリジナルが良いので★★★☆☆。
次。深谷産業によるEDDY MERCKXの広告。
「新たなる鮮烈」
う~ん・・・この感性はちょっと古いような。意図としては恐らく、「その登場と活躍が鮮烈なものとして記憶されている偉大なレーサー、エディ・メルクスが、今度はすごい自転車として新たに鮮烈な活躍をするだろう。」ということを言いたいのかな。 でも極太の現代的なEDDY MERCKXの字体と、このキャッチコピーの雰囲気がミスマッチ。好みの問題になるけれど、これは好きではないな。頑張ってる感はあるけど・・・★★☆☆☆。
次、LOOK。これは代理店のものか、フランスのLOOK本部のものかわからないけれど・・・・
"Like no other!"
他の何にも似ていない。そうですか。コピーライターってこういう仕事でもお金をもらえるのかな。ボロい商売だなあ。0点。☆☆☆☆☆。
次。GIANT。
"GIANT POWER TO WIN THE PINK"
マリア・ローザを着たデニス・メンショフがシャンパンブシューッっとやっている写真とともに。「ピンクを勝ち獲る巨大な(ジャイアントな)パワー」。ほほう。ちょっとヒネリが入っている。日本語ではないけれど、これは日本語にするのが無理か。オリジナルを評価して★★★★☆・・・いやごめん、やっぱり★★★☆☆。
次。スペシャライズドのヘルメットの広告。アレッサンドロ・バッランの写真つき。
「走るたびに私はヘルメットの存在を忘れる」
いやー、メッセージはよく伝わります。でもなんだろうこの溜息は。たぶん今時のヘルメットはモストロを始めとしてどれも存在を忘れるほど軽いのではないのか。とするならスペシャはどこで差別化するのか。それが伝わらない。「バッランがそう言うなら、きっとすごいヘルメットに違いない」と思う読者はたぶん一人もいないだろう。★★★☆☆。
次。服部産業のウィリエールの広告。
"SE BASTA UN TOCCO QUALCOSA E'CAMBIATO"
あのね。サイスポ読者が一万人いるとして、そのうち何人がイタリア語読めると思っているんだ。しかし、あえて何も日本語にせず、イタリアっぽい雰囲気で勝負しようという戦略かもしれない。チチンプイプイ作戦。ムード戦略。まあ、潔さは評価しよう。★★★☆☆
次。フタバ商店によるBMCの広告。
"Victory together"
うむ。これはなかなかいいぞ。誰にもわかる英語だし、力強いフォント、そして写真にも迫力がある。そして日本語が一切使用されていない。演出を感じる。配色もいい。海外の仕事か、フタバ商店の仕事かはわからないけれど、これは良いセンスをしている。実際の選手とサポートカーを起用しているのも好感が持てる。記号論的にも、運転席のオッチャンとライダーが「together感」を醸し出していて良い。ようやくまともな仕事を見た。回転するホイールの速度感もいい。BMCはブランドイメージを作るのが上手かも。★★★★☆。
次。マルイによるTOPEAKの広告。
「水も漏らさぬドライバッグ。」
何かいろいろ捻ろうとしたんだろうけど失敗してる感じがする。ダイレクトな訴求力がない。★★☆☆☆。
はい次。CAT EYEによるストラーダ・ダブル・ワイヤレスの広告。
"SET UP AND GO"
なるほど。ストラーダの製品特徴がよくわかるダイレクトなキャッチコピー。パンチが少し足りないかな。というかV2CとStrada Double Wireless、どういう風に棲み分けさせるつもりなんだろう。カニバリズムが起こるんじゃないかな。私はどちらか選ぶとしたらStrada Double Wirelessのほう。手持ちのSIGMAが死んだらこれを買おう。・・・おっと買う気になっている。ということはこの広告、なんとか成功しているのかもしれない。★★★☆☆。ちなみにCAT EYEは三船雅彦選手のストラーダ・ケイデンスの広告、「ただ回せばいいのだろうか? そんなワンディメンショナルではない! 一つ重いギアを同じケイデンスで回すんだ ならば勝てる!」という雰囲気のあるキャッチコピーのが秀作だったと思います。下手に洗練させるより、ああいう泥臭くてリアルなのが良いと思います。
ああ、疲れた。まだ全部ではないですが、全部やるつもりもありません。そしてここまでで、ちょっとした発見がありました。どうも自転車業界は、
1. 広告の仕方がヘタである 2. 広告を重要視していない 3. 才能のないコピーライターやデザイナーに食い物にされている 4. 広告の重要性は了解しているが、予算がないので良いコピーライターやデザイナーに仕事を依頼できず、全てインハウスでやっつけ仕事をしている
上記いずれかにあてはまるのかなと思いました。 これだけ大量の広告がサイスポに掲載されていても、私は普段ほとんど見ませんし、皆さんもあまり見ないのではないでしょうか。メーカーの広告とは別に、雑誌の後ろにあるおびただしい数のショップ広告も。滅多に見ません。見ている人もいるのでしょうけど、90%の人はまともに見ていないような気がします。つまり、効果がない。
効果がないところにコストをかけるのは無駄なことです。 しかし出版社としては「効果がないので広告なんか出さないほうがいいですよ」などとは死んでも言えまい。効果がないことにお金を出すよう提案し、提案されたほうは、半信半疑で、しかも予算がないので、中途半端な広告を出稿する。何かひどく不健康なことが起きているように見えます。
あ、自転車業界の閉鎖性とか閉塞感というのは、こういうことを言うのか・・・
80年代の後半頃、おもしろい広告が世の中にあふれていたような気がしますが、最近は何かパッとしないですね。
いずれにせよ、良いものは残るし、ダメなものは消える。 雑誌にしても、メーカーにしても、代理店にしても、メディアにしても、残るべきものが残る。 でもこれからの時代、努力しないところは絶対に残れないでしょうね。
評 価→★★★☆☆
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