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荒川沿いをよく走るサイクリストで榎本牧場の存在を知らない人は少ないかもしれない。森林公園、ホンダエアポート、彩湖、朝霞水門、岩淵水門等々、荒川にはその名を聞くとすぐ風景が思い浮かぶミニ名所があるが、榎本牧場はそれらの一つ。
場所はこの当たり。
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荒川下流の清砂大橋から約55-60kmほど北上したあたり。牧場というより乳牛の牛舎がメインで、Fortunaというアイスクリームショップが併設されている。つまり荒川下流の住人が「榎本でジェラートを食ってきたよ」と言う場合、その人物はアプローチを含め、だいたい130km程度走ってきたことになる。
かつての私にとって130kmとは途方もなく遠い距離であり、榎本牧場は一度往復したら二日間はヘタレになってしまう聖地であった。そんな私も現在はパワーアップし、榎本牧場くらいの距離は当たり前になってしまった。結果、次第に足は遠のいていった。
ところでこの榎本牧場ではたくさんの動物を飼っている。乳牛だけでなく、ヤギ、ロバ、九官鳥、チャボ、犬、猫、アヒル、ウサギなどを間近で見て触れるので、親子で遊びに来ている人々も多い。私のおすすめはこの牧場にいるブタである。
このミニブタはピグという名前で、身体の色が黒・グレー・ピンクの三色。私は彼を見るたび「T-MOBILE向けのGIANTのスローピング・フレームみたいでかっこいいな」と思っていた。意思の疎通はできないが、人を怖がるふうでもなく撫でると喜ぶ。ちなみにブタの毛はとても硬い。見た目はフサフサと柔らかそうに見えるが触ってみるとタワシのようである。しかも毛の密度が薄いので、なんとなく哀愁を帯びている。表面の皮膚はすごく固い。こんな固い身体からあんなに柔らかいトントロが取れるのが不思議で仕方がない。
※写真は在りし日のピグ
そして先日、しばらくぶりに榎本牧場に寄ってみたら、もともとピグがいた場所にピグの姿はなく、別のブタがいた。話によると、どこからかもらわれてきた新しいブタであり、かつてそこにいたピグは少し離れた駐車場の下に移動させたとのことである。「奴はあまり芸をしなくなったから、引退させたんだ」とは牧場主の弁。
もともとピグがいた場所には「ミニブタ 名前 ピグ」と書かれており、今でも看板はそのまま残っている。どうやら榎本牧場で客寄せのために飼われているブタはすべて「ピグ」という名前で呼ばれるようだ。いくら動物とはいえ、名前くらいはしっかり管理したほうが良いのではないだろうか。ブタなら何でも「ピグ」という名前でいいのだろうか。それはあまりにひどすぎはしないか。しかも毛が薄くなり、仕事もできなくなると別のブタと交代させられるのである。まるで現代日本のサラリーマン社会の縮図ではないか。そして私はそうしたカイシャという世界から遠く離れるために自転車ではるばる榎本牧場までやって来ているのである。ピグは私にとって、束の間の自由の象徴だったのである。だから、用済みの団塊の世代みたいに扱われているピグ、そんなピグは、できれば見たくはなかった。
しかし私がその新しいブタに思わず「おい、ピグ」と呼びかけたら、新ブタは「ブヒ」と返事をしたので、名前はやっぱりピグでもいいのかもしれない。
関係ないが、榎本牧場より遠くまで走ってきたような夜は、焼肉屋で食べるトントロ焼きが最高にうまい。また200km走ってやるぞという気になる。
評 価→★★★★☆ (旧ピグの評価)
※写真は旧ピグです。
窓際に追いやられた彼は我々が直面している未曾有の世界経済危機について何を想うのか --
榎本牧場外観(現在右手奥の搾乳場は改修中)
と名物ジェラート(バニラがいちばんうまい)