BICYCLE21 2008年12月号
購入価格 ¥700
ここ1年ほど、書店に行けば特に考えもせず「サイスポ」と「バイクラ」と「ファンラ」を購入していましたが、正直なところもう飽きていました。辛うじて「サイクルスポーツ」には時々読み応えのある特集が組まれたり(最近では300km挑戦の「俺チャレ」が最高でした)、不思議なオヤジ二人組みが日本中を輪行する楽しい「つーりんぐムサシ」や、過度な旅情に流されず気ままな旅と発見を綴る「ぼくの細道」などのおもしろい連載があるし、内容は非常に叩かれることが多いですが、「自転車バカ一台」も読み物としてはかなり笑えるので(例えば11月号の「バカ一台」は誰がどう考えても「後援・キャノンデールジャパン」のような - しかしこうした楽しみ方(斜め読み)はかなり退廃的な楽しみ方であろう)、まあいろいろ不満はあっても「サイスポ」ならまた買ってもいいかなと思うのですが、バイシクルクラブとファンライドはとにかく読めるところが少なくなってきています。でも習慣なので購入してしまう。いけませんね。
こちらで紹介されていた「B21」がとても気になったので購入してみたのですが、いや批評に違わずおもしろい。確かに三浦恭資の文章はかなり読み応えがあり、熱さのあまり捻じ曲がってしまう文体はほとんど現代日本が誇る紀州の作家・故中上健二のそれのようだ、というのは言いすぎだが、そういう「荒くれ者」の雰囲気があってとても良いです。また、ページ数が少ないのですが、どう考えてもサイクルスポーツのおもしろい部分だけ三ヶ月分をまとめ読みするくらいの充実した内容。サイスポの広告は本全体の三分の一くらいでしょうか(印象では二分の一くらいに思える)、B21は今のところ広告が少ないので実際にはサイスポその他の雑誌よりコンテンツ量は多いかもしれません。そして質は圧倒的に上だと思います。
サイスポやバイクラ等で散見される「大人の事情」から「やむをえず書かれる」インプレ記事に食傷しているあなたにはまさにおすすめの一冊。メカやパーツに関する記事よりも自転車競技に関する人間の声にフォーカスが置かれていますが、選手たちの生の言葉には本当に不思議な説得力があります。AstorPiazzollaさんのレビューにもあるように、宇宙飛行士が口にする「やればできる」という言葉と、狩野智也による「なので、やればできる、っていう言葉です」という台詞にはものすごく大きい距離があります。一般に宇宙飛行士たちも大変な努力をしてきた優秀な人達だと思いますが、そうした人々が「やればできる」というより狩野智也の「やればできる」のほうがはるかに高い説得力を持って響くのは不思議です。そしてこうしたうまく説明できない説得力が「B21」という雑誌全体に通奏低音のように響いています。
進化しなければ日本の雑誌競争は戦えない、現状維持のありきたりの自転車雑誌は要らない。
そんなふうに思うあなたをサポートするのが薄くて充実した雑誌「BICYCLE 21」だ。 私は、今月から購読することにしたが、今後も大いに応援していきたいものだ。
(※参考 B21 12月号 49ページ最後の5行)
価格評価→★★★★★ 評 価→★★★★★
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