2019年にカリフォルニアで開催されたGrinduro!に参加してきました。同年に日本で開催されたGrinduro!にも参加予定でしたが、台風の影響で参加は見送りました。本レビューはカリフォルニアのGrinduro! California 2019についてのみ述べます。
【概要】
アメリカのグラベルレースの頂点、王者は問答無用でDirty Kanzaですが、Grinduro!もかなりカルトフォロワーがいるユニークなレースです。カリフォルニアのQuincy(クィンシー)という小さな町をスタート/ゴールとして、周辺のナショナルフォレストを巡る100kmレースです。形式はEnduroとなっており、タイム計測区間、トランジッション区間に分かれており、その合間にそれぞれエイドステーションがあります。
Dirty Kanzaはフラットなダートロードを延々と走り続ける超耐久レースですが、Grinduro!はアップダウンの激しいシングルトラックを高速で走り抜けます。例えが合っているか不安ですが、アイアンマンに対してのダウンヒルレースというくらい、それぞれの目指す姿が違います。特にシングルトラックのタイム計測区間は、テクニックのないライダーは足をつかずに最後まで走りきれるか大変不安を覚えるであろうレベルの高さです。
最寄りの都市はReno(レノ)で、車で1~2時間あれば付きます。日本からの空路だと、ロサンゼルス/サンディエゴ/サンフランシスコ経由でレノまで飛ぶのが一番ラクです。レノにはバイクショップ+アウトドアショップも充実していますので、移動の拠点とするには便利が良いです。
*2020年より、開催場所が従来のQuincyからMt. Shastaに変更になっています。オレゴン州に近いカリフォルニア北部です。この変更については後述します。
【申込み】
基本的には日本のGrinduro!と同じで、HP上で早いもの勝ちの申込みになります。それ自体は問題ないのですが、住所などを書き込むフォーマットがアメリカ国外から参加することを前提として「いない」ため、日本の住所や電話番号では記入が出来ないというトラップがあります。日本の参加者は、それぞれ工夫をこらして、カリフォルニア州東村山市1-1-1など、かなり無理矢理なウェブ申込みをしていたようです。自分の場合は、そのような知見がなかったため、せっかく申し込み時間に十分間に合い、ウェブ記載も済ませたのですが結局住所不定+電話番号もおかしいという扱いで、そうこうしているうちに定員が満員になるという憂き目に会いました。
流石に納得がいかず、上記の事情説明+翌年以降の改善要求とともに怒りのメールを主催者にぶつけた所、特別枠で参加させてもらえることになりました。この当たりのフレキシブルさはさすがアメリカです。いまいちディテールが雑なのがアメリカ人ですが、こういう臨機応変な対応もまたアメリカですね。
【コース】
アップダウンの激しい林道+強烈なアップダウンのシングルトラックです。レースの距離は100kmですが、獲得標高はガーミン読みで2686mでした。Dirty Kanzaは、320kmで2900mでしたので、Ginrudro!の激しさがお分かりになるかと思います。ついでに言いますと、最小ギアをF34xR32で行きましたが、最も登りがきつい区間は全く足りませんでした。更にギアの軽いMTBの参加者も押しが入っていましたので、激坂中の激坂が(グラベルで)ある、と思ってもらって良いです。
後半に登場するシングルトラックは、正直自分には難易度が高すぎました。自分はもともとロードレースからグラベルに入った経緯があり、耐久レースは得意なのですが、MTBのトリッキーなテクニックなどはありません。そんなライダー+グラベルバイクには、MTBでも恐怖を覚えるであろうシングルトラックはつらすぎました。Dura Aceの油圧ブレーキ+シマノXTパッドでしたが、最後の方はブレーキの掛けすぎで腕がクタクタになってしまうほどでした。楽しむ、という余裕はほとんどなく、テクニックのなさを呪う苦行のダウンヒルであったことを申し上げておきます。
2019年は夏のカリフォルニア山火事の影響で、4つあるタイム計測区間のうち3つまでが下り基調になっていました。これもMTB有利に働いたのではないかと思います(前年までは舗装路の平坦TT区間があったようです)。
【機材】
なんと、参加者の7~8割位がMTBでした。後で知ったのですが、複数回参加した選手たちの間では、Grinduro!はグラベルバイクより、クロカン/エンデューロMTBがモアベター、というのが常識になっていたようです。これについては、完全に同意します。また参加することがあれば、自分はサスペンション機構のないグラベルバイクでの参加はせず、大人しくMTBを用意すると思います。ここは非常に大事です。テクニックに自信のない方は、己を過信することなくMTBで参加して下さい。サスペンション機構のあるグラベルバイクだったらOKでは?という甘い幻想は捨てて下さい。無理です。
ちなみに、シングルトラック区間でブレーキをかけっぱなし(+半泣き)でビビりながら下る自分の真横を、MTBに乗ったアメリカ人ライダーたちがトンデモナイ勢いですっ飛んでいきます。これも気を使いましたし、何より恐怖でした。一部リジットのグラベルバイクでMTBと同じスピードで飛んでいくアメリカ人ライダーも見かけましたが、きっとあれはピーター・サガンだったと思います。また、このレベルのシングルトラックになると、シマノのロード系STI(9100系油圧DAなど)のブラケット部分ではかなり「滑ります」。そもそもブラケットだとロード系STIははブレーキ制動力が圧倒的に不足しますので、シングルトラックでは使い物になりませんでした。シマノグラベルコンポのGRXのSTIは一見大げさなくらいの滑り止めを採用していますが、あれはDirty Kanzaでは不要と思いますが、グラインデューロのようなテクニカルなレースでは必須ではないかと思います。激坂ダウンヒルの最中に何度か手が滑って落車するかと思いました。実際グラベルバイクのライダーが何人か大落車して大怪我していました。
グラベルバイクで参加される時は、GRXのSTIにするか、さらにリザードスキンのようなタッキーで滑りにくいバーテープを強くオススメします。グローブも合わせて滑りにくい物を選ぶのがモアベターです。自分はウールのDuraグローブで望みましたが、滑りすぎて本当に辛かったです。STI、バーテープ、グローブの組み合わせはくれぐれも事前のテストをオススメします。自分は使いませんでしたが、ドロッパーポストは大変有効だと思います。MTBだとこの辺りは最初から解決済み、織り込み済みなので話が早いので、テクニックに自信がない人は大人しくMTBで行くのがモアベターと思われます。子供の頃からBMXやMTBで飛んだりはねたりしているアメリカ人も参加者の半分以上がMTBでした。日本の皆様におかれましては、この意味を深く噛み締めてください。
なお、主催者がモトバイクを縦横無尽に走らせてライダーの状況をマメにチェックしていますので、たとえ落車したとしても少なくともレース本部/救急部隊との迅速な連絡が期待できます。シングルトラックで落車したとして、その場からどう脱出するかは別の問題ですが…。
2019年は雨模様+途中で少し雪が降る、というコンディションだったので、ボトルは750ml1本でも全然問題ありませんでした。例年は20℃以上にあり、かなりのドライコンディションとなるので、本来的にはボトル2本が望ましいそうです。エイドステーションの間隔が30~kmくらいごとなので、暑いコンディションだったとしても、500mlのボトルを2本持てば余程のことがない限り十分だろう、という印象です。エイドステーションの補給食+ドリンクはかなり充実しており、しかもレース真ん中のエイドステーションでは昼食(ブリトーだったかな?)もありますので、補給食はそんなに必要ありません。レース全体でエナジーバー1~2本あれば十分ではないでしょうか。エイドステーションでベーコン焼いてるのは、アメリカのお約束ですね!
乾燥して暑いという印象のあるカリフォルニアですが、山岳部は実は雨が多かったり秋なのに雪が降ったりします。レース当日の天気予報を注視するのは当然ですが、全天候に対応できるような装備を事前に持参することも必要かと思います。自分はレース用レィンウェア+長指グローブ+ニーウォーマーを持参していましたので、防寒はかなり救われました。欲を言えば、レッグウォーマーがあったら更に良かったかもしれません。たとえ天気予報が何であれ、このレースの場合は全天候対応は推奨事項と申し上げておきます。暑くて/寒くて泣きが入るより、重い荷物を持っていくほうが気持ちもラクです。
【練習】
普段からロードで100km以上走っている方は、ほぼほぼ間違いなく制限時間内に完走できると思います。その意味で走力はあまり課題ではないです。問題は、タイム計測区間でそれなりの記録を目指そうとすると、途端にハードルが上がります。特に下りシングルトラックのテクニックは一朝一夕に身につくものではありませんし、まして機材面で不利(グラベルバイクなど)な参加をされる場合は、それなりの苦労+恐怖体験をすると思って下さい。自分は登りのタイム計測区間だけ狙う、という戦略で望みましたので、そこのタイム計測区間ではそれなりに良いタイムを出せました。が、それ以外の区間は泣きが入りつつ、ビシバシ左右から追い抜かれ続けるという悲しい結果になっています。なお、アメリカ人でもロードバックグラウンドで、グラベルバイクで参加した選手たちは皆大なり小なり似た傾向の結果になっていたようです。
MTBです。登れるMTBで行きましょう。グラベルレースだから、グラベルバイクで行きたい!などど変なプライドは捨てて下さい。私は捨てました。
【その他】
Grinduro!は前泊+後泊のキャンプが盛り上がります。キャンプ場は広く、芝生も手入れが行き届いていますので、その点では快適なロケーションでした。日本からの参加だと自転車に加えてキャンプ道具までとなるとかなり大荷物になりますが、その価値はあります。Quincyのキャンプ場は、なんと真横が24時間稼働の木材処理場だったため、真夜中も大型機械の騒音が延々と続いていたので、耳栓が必須でした。2020年のMr. Shastaのロケーションがどうなるかは分かりませんが、さすがにこの騒音対策(耳栓)は必須かと思います。あと、レース後のパリピお祭り騒ぎがグラインデューロのお約束です。爆音ライブ+マリファナもお酒もなんでもありのどんちゃん騒ぎが真夜中まで続きます(近くに行くと非常にウルサイ!)。アメリカ人は元気です。なお、シングルトラックでメタメタにやられた自分は疲れて夜はさっさと寝てしまいましたので、これらは全て伝聞です。
レース前日は主要サプライヤー主催のエキスポが開かれます。色々最新のグラベル機材を見ることが出来ますので、かなり楽しいです。超コアな製品を実際に見ることができる絶好の機会でした。
ところで、この開催地の変更ですが、理由はこのシングルトラック利用がレースで使われるトレールに負担をかけているから、というのがもっぱらの噂です。Quincyに数百人のライダーが来ますので、地元経済にもそれなりに貢献していると思いますが、それよりトレール保護が大事という判断のようです。Mt. Shastaは知見がありませんが、Ginrudro!のオーガナイザーが選んだのですから、やはりハードでトリッキーなコースになるのではないかと思います。
【まとめ】
北カリフォルニアの風光明媚なシエラネバダ山脈で行われる、非常に陽気でユニークな、しかしガチでハードでテクニカルなレースです。ガチ耐久+グラベルではシリアスな雰囲気のレースのDirty Kanzaとは多くの点で対極にありますが、その意味でアメリカを代表するグラベルレースとして、今後もブームの牽引役としてあり続けると思われます。また、細かい点ですが日本からの参加も比較的便が良いので、海外レースとしては気軽に参加しやすいのではないかと思います。
価格評価→★★★★★(←どんなに辛くても、レースの思い出はプライスレス)
評 価→★★★★☆(←テクニック不足で本当に辛かった…)
<オプション>
年 式→ 2019年カリフォルニア、Quincyに参加しました。
カタログ重量→ テクニックの重みを感じました。
非常に寒いスタートでした。
充実したエイドステーション、MTBの数が目立ちます。
トランジッション区間はのんびりです。
獲得標高2686mです。MTBでも足をつく強烈な激坂も登場します。平坦区間は少なかったです。