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5年ほど前、”RoadLoadSurveyor” という走行抵抗計算ツールをCBNで公開させていただいた際、計算に必要な数値であるタイヤの転がり抵抗係数(RRC)を、あるサイトから引用しました。あれから随分時間が経ちまして、何か参考になる新しいサイトがあるかな?と探したところ・・・目の覚めるようなサイトがありました! ”BICYCLE ROLLING RESISTANCE” というサイトですが、各種タイヤの転がり抵抗を、空気圧を変えて計測し、その結果を網羅するという、実に素晴らしいサイトです。使い勝手よくプログラミングされた制御計測機器と、この計測試験のために製作した(らしい)シヤシダイナモを駆使して、極めて周到な手順を経て計測しており、非常にしっかりしたデータが網羅されているように感じられます。全国各地の自転車好きがこのサイトの数字とにらめっこするだけで面白いレビューが湯水のように出てきそうデス!
こちら→
https://www.bicyclerollingresistance.com/・・・タイヤの周長、幅、空気圧と、負荷を与えたときの接地面の関係を何となく想像していた際に上のサイトに遭遇したのですが、空気圧に対する転がり抵抗係数RRC (上記サイトではCRRと表記) と相関の高いタイヤの数値は一体、何かな?ということが気になってしまい、妄想レベルで少し考えてみましたので、報告します。
(相変わらず前フリ長スギ)
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〇〇〇 空気圧とRRCの関係 (実測結果) 〇〇〇
まず、超強力な上記サイトからデータを一組だけ引用します。タイヤ空気圧と転がり抵抗係数(Rolling Resistance Coefficient:RRC )の関係をグラフにしたのが次の図。
これは旧品チューブラタイヤVittoria Corsa CX Elite (幅25mm) の場合です。ハブシャフトにかかる負荷を42.5kgfに設定して転がり抵抗のパワー計測を行って得た数値です。御覧のとおり空気圧を大きくすると、転がり抵抗係数RRCが小さくなります。転がりに伴う抵抗(Watt)もRRCに比例して小さくなりますので、こういうグラフを見てしまうと、「ちょっと空気圧を上げようかな?」なんて思ったりしますよねぇ。他の銘柄も同様の傾向となっています。
なお、RRCの物理的なイメージは、中学の理科(高校だったか?)で遭遇する摩擦係数というヤツにタイヤの転がり抵抗を当てはめたものです。例えば水平なツルツルの平面に平らに置いた重さ1キログラムの書籍を水平に引っ張った時に、わずか10グラムの力で書籍を一定速度でゆっくり動かし続けることが出来るとすると、その場合のRRCは 10グラム/1000グラム = 0.01 となります。上のグラフでは0.004程度ですから、わずか4グラム程度、ということになります。
〇〇〇 超簡易タイヤモデルの作成 〇〇〇
突然ですが、超簡易というか最も簡易なタイヤモデルを作ります。
タイヤの接地面がどういう形状になるのか?というところからスタートします。なお、ここで作るタイヤモデルは恐らく、最も簡易なモデルですので、数多くの制約があります。まあそこは、精度を上げる余地を存分に残してある、ということであとは誰かに委ねたいと思います。
丸断面のタイヤの形状は、細長いドーナツのようなものです。このドーナツの角をスパッと切り落とすと、楕円形風の面が出てきます。これをタイヤの接地面形状と見做します。もちろん、タイヤは厚さがあるゴムでできているので、接地したときにドーナツがスパッと切り落とされたような変形などするはずもなく、接地した部分の周囲近傍も相応の変形を見せますが、そこはぐっと我慢します。
また、たとえチューブラタイヤといえども丸断面などではなく、やや楕円形風味に近い断面のような気がしますので、この楕円をハブ軸周りに一周回すとタイヤになる、と言いたいところではあります。ここでチューブラタイヤを贔屓して楕円断面タイヤにしてもよかったのですが、じゃ、クリンチャーはどうするんだ、とかいう話になりそうなので、丸断面にしておきました。
図で、丸断面のタイヤが接地して現れたのが楕円風味の面積A、この面積Aを取り囲む線の長さをLとします。また、接地凹み量をt、タイヤトレッド折れ曲がり角度をθとします。ハブ軸荷重が零ならば、全く凹まないので面積Aが零になり、折れ角度θも零となります。
タイヤトレッドがこんな風にキレイに折れ曲るわけがないのですが、そこは最簡易モデルに免じて許していただきます。イメージとしては、ケーシングとかトレッドとかチューブの厚さはゼロ!厚さゼロで限りなくふにゃふにゃの薄膜は、外力に素直に変形して凹む一方で、空気圧だけはしっかり受け止めてタイヤの形状を立派に維持する、というご都合主義的最簡易モデルです。
力を加えているハブ軸から見込んだタイヤのばね定数(垂直方向のタイヤ剛性)などは、タイヤ幅、タイヤ周長、空気圧で変化するはずです。最簡易モデルを採用した場合について、これらを網羅し、最初に引用した、「空気圧とRRC」の関係と相関の高い数値群を見つけてみます。
なお、ドーナツ、というかタイヤの形状を与える方程式、接地面積Aを与える楕円形っぽい図形の方程式、面積AやAの周長Lの計算方法、タイヤトレッド折れ曲り角度θを与える式、タイヤの垂直剛性の式などは、自分で導出する必要がありますが、その過程は省略します。
〇〇〇 計算したタイヤのサイズ 〇〇〇
計算したタイヤ、計算条件は以下の通りです。700Cと20インチを選択することで周長違いの影響を確認し、次にそれぞれでタイヤ幅Wを変化させて、タイヤ幅による影響を確認します。
★★700Cチューブラ★★
19C/22C/25C/28C/32C/35C
※19Cタイヤの断面直径は19mmである、などとします
★★ETRTO 406(20インチ)チューブラ★★
19C/22C/25C/28C/32C/35C
★★計算条件★★
・ハブ軸荷重 : 50kgf
・空気圧 : 2~14kgf/cm^2
〇〇〇 計算結果 〇〇〇
計算結果を示します。
〇〇 接地面形状の変化 〇〇
ハブ軸荷重が50kgfの時の、丸断面700×25Cチューブラの接地面形状を次に示します。なお、空気圧は2,4,6,8,10,12,14 kgf/cm^2の7種類で、空気圧が小さいほど接地面積が大きくなります。
次の図が700×25Cと比べてタイヤ周長が33%ほど小さい406×25Cの結果です。上の結果と同じに見えますが、僅かに短径が広く、長径が短くなっています。また、同じ空気圧で比較すると、形状は僅かに異なりますが、面積は同じです。これは、荷重L(kgf)と圧力P(kgf/cm^2)と面積A(cm^2)の関係が
L = P×A
となっていることに由来します。つまり、タイヤケーシングやトレッドゴムやチューブ自体の厚さは零でそれ自身は荷重を一切、支えず、あくまでも荷重を支えるのは空気圧と接地面積の積だけである、というモデルを採用していることを示しています。自称 ”最簡易モデル” の所以です。これはつまり、究極の超々しなやかタイヤであることを意味しています(やや笑)。
というわけで次に示すように、接地面積Aと空気圧の関係はタイヤサイズにかかわらず同じになります。青い点(黒っぽく見えますが)が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。2から14kgf/cm^2まで1kgf/cm^2刻みで計算した結果です。
〇〇 凹み量の変化 〇〇
荷重を与えて接地することでタイヤが凹みますが、この凹み量t(mm)と空気圧P(kgf/cm^2)の関係を示します。青い点が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。あたりまえですが、小径タイヤの方が余計に凹みます。空気圧は3kgf/cm^2もあれば最低限、走ることが出来ますが、2kgf/cm^2だと猛烈にフワフワでしょう。いわゆるままチャリというカテゴリではフワフワな自転車をタマに見かけます。
〇〇 タイヤトレッド折れ曲がり角度θの変化 〇〇
”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ” の変化を示します。青い点が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。折れ曲がり角度も小径タイヤが700Cの場合よりも大きくなります。曲りが大きいということは、ゴムのヒステリシス・ループ(タイヤ損失の主要因)も深く描かれるので、転がり抵抗係数RRCもその分、大きくなるでしょう。
〇〇 接地面の周囲長さL(mm)の変化 〇〇
接地面を取り囲む楕円風の図形の周囲長さの変化を示します。青い点が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。これは上記の折れ曲がり角度θの変化と形状が似ています。というか、どのグラフも右下がりで皆同じように見えますねぇ。(いいえ、よーく見ると、違うんです!)、
〇〇 ハブ軸から見込んだ垂直剛性K(kgf/mm)の変化 〇〇
青い点が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。小径タイヤのほうが柔らくなるようですが、まあ、そりゃそうでしょう、という感じでしょうか。
〇〇〇 タイヤ幅を変えたらどうなるか 〇〇〇
ここまでは、700×25Cと406×25Cに限定して空気圧を変えてきましたが、今度は、空気圧を8kgf/cm^2に固定して、タイヤ幅を変えて様子を見てみます。
〇〇 接地面形状の変化 〇〇
ハブ軸荷重が50kgf、空気圧が8kgf/cm^2の時の、丸断面700Cチューブラの接地面形状を次に示します。なお、タイヤ幅は、19,22,25,28,32,35Cの7種類で、タイヤ幅が狭いほど接地面形状が細長くなります。
同様に、ETRTO 406を示します。タイヤ幅は700Cと同じです。予想通り、700Cよりもやや短めで太めの接地面形状となります。なお、空気圧がすべて同じなので、接地面積は上の青グラフも含めてすべて同じです。
〇〇 凹み量の変化 〇〇
荷重を与えて接地することでタイヤが凹んで沈みますが、この凹み量t(mm)とタイヤ幅(mm)の関係を示します。青い点が700C、赤丸がETRTO 406の場合です。小径タイヤの方が余計に凹みますが、700Cの凹みを100%としたときのETRTO 406の凹みは、タイヤ幅19mmで123.8%、タイヤ幅35mmでは121.5%となりました。
〇〇 タイヤトレッド折れ曲がり角度θの変化 〇〇
”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ” の変化を示します。青い点が700C、赤丸がETRTO 406の場合です。タイヤ幅に係わらず小径タイヤの折れ曲がり角度が700Cを上回ります。曲りが大きいということは転がり抵抗係数RRCもその分、大きいでしょうから、同じタイヤ幅でも小径タイヤの転がり抵抗は700Cより少し大きいんだろうなあ、と思わせてくれます。700Cの角度を100%としたときのETRTO 406の角度は、タイヤ幅19mmで111.8%、タイヤ幅35mmでは110.5%となりました。もしかして406の転がり抵抗は700Cに対して8%増しだったりして・・・?
〇〇 接地面の周囲長さL(mm)の変化 〇〇
接地面を取り囲む楕円風の図形の周囲長さの変化を示します。青い点が700C、赤丸がETRTO 406の場合です。タイヤが太くなっても接地面図形の周囲長さの比率はほぼ一定で、700Cを100%としたときのETRTO 406の接地面周長は、タイヤ幅19mmで91.9%、タイヤ幅35mmでは92.6%となりました。
〇〇 ハブ軸から見込んだ垂直剛性K(kgf/mm)の変化 〇〇
青い点が700×25C、赤丸が406×25Cの場合です。小径タイヤのほうが柔らかそうです。700×25Cと同じ垂直剛性を持つETRTO406タイヤの幅は32mm辺りの模様です。いずれにしても空気圧一定でタイヤ幅を大きくするとタイヤが「硬く」なるということです。
700×25C、8kgf/cm^2におけるタイヤ幅Wの変化に対するKの変化率は、
dK/dW = 0.77 (kgf/mm)/mm
一方で、既出のグラフから、空気圧Pに対するKの変化率を8kgf/cm^2において算出すると、
dK/dP = 4.1 (kgf/mm)/(kgf/cm^2)
つまり700Cの場合、
『32Cで空気圧7kgf/cm^2のタイヤと25Cで空気圧8kgf/cm^2のタイヤの垂直剛性は似たようなものである』
〇〇〇 空気圧とRRCの関係 〇〇〇
さてさて、最初に引用したVittoria Corsa CX Elite (幅25mm)のタイヤ空気圧と転がり抵抗係数RRCの関係のグラフ。
最簡易モデルの計算結果で、Corsa CX Elite のグラフの推移と相関が高いパラメータを探してみます。
唐突に結論を申し上げると
『 実測RRCと最も相関が高いのは ”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ ” である 』
と言うことになりました。これが本レビューの結論です。
次のグラフは、”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ”のグラフに、Vittoria Corsa CX EliteのRRCを6800倍して載せたものです。ただし、Vittoria Corsa CX Eliteの計測条件は、荷重が42.5kgfなので、RRCの計算もそれで再度実施した結果です。”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ”と転がり抵抗係数RRCの相関はごらんの通りで極めて大です。私としては、角度θと接地面周長の積がRRCとの相関が大きいだろうと予想していたのですが、今回の最簡易モデルでは、そういう結果にはなりませんでした。
なお、接地面の周囲長さも、Corsa CX EliteのRRCとかなり良い相関を示します。
〇〇〇 タイヤ幅、剛性、RRCの相克 〇〇〇
空気圧を維持してタイヤ径をUPすると、剛性も少しはUPして乗り心地が少々バンピーになったりするともいわれていますが、上に示したように、ロードタイヤの範疇ではほんの少しだけ空気圧を操作すれば、簡単に解消されてしまうような気がします。そうはいっても気分的には・・・
・・・細いタイヤは流行遅れだなあ → タイヤを太くしよう → 乗り心地がバンピーだ → 少々空気圧を下げよう → いい感じだ! → でも転がり抵抗が増大してるんだろうなぁ → やっぱり空気圧を上げよう → 乗り心地がバンピーだ → そうだ、タイヤを細くしよう → キャパシティが小さくて心配だ → やっぱりタイヤを太くしよう → 乗り心地がバンピーだ ・・・
結局、使う本人が、どこに重きを置くか、どこを気にするかによって、その人にとって最適なタイヤ幅とか、好みのタイヤ幅が決まることになるのでしょう。クロスバイクの硬いアルミフレームに手を焼いて、28Cタイヤの空気圧を3.5kgf/cm^2程度にして快適に乗ってます!なんていう人もいたりするので、何が適しているのか、と言う話は優れて属人的で、それこそ千差万別。唯一の解などあるはずもありません。それはまあ、タイヤだけの話ではありませんが。
しかし、日本のこれからを想像すると、一般国道や県道レベルの道路再舗装の周期はどんどん長くなり、悪路が増えるような気がしますので、タイヤ幅は太めで空気圧は控えめ、というのが普通の風景になるかも知れません。(完全に脱線)
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計算結果をじーっと眺めると、色々と妄想が膨らんでしまいますが、所詮、
『最も簡易(自称)なタイヤモデルによる静荷重変形計算の結果でしかない』
ということは肝に銘じなければなりません。くれぐれも妄信深追いは禁物です。今どきは、極めて詳細かつ動的な構造計算が可能ですし、静荷重どころか駆動時のダイナミックな変形はもちろん、応力分布や発熱分布から何から何まで深々と机上実験ができる時代です。また、くふう次第で極めて高精度な力と速度の計測(すなわちパワーの瞬時値計測)も可能です。本職のプロフェッショナルの方々はそういったパワー・ツールも駆使して高性能なタイヤの開発を行っていると思います。基礎力十分で解説力のある、そういった「プロ」の方のダイレクトな解説が聞けるといいですよねぇ。ダイレクトな伝達、すなわちプロの方々がそのページを自分で責任編集する!というのもイイなぁ~。そんなプロなら、ツールの計算パワーに依存しない素朴なモデリングの方法論も心得ているはず。連載「自転車道」も回を重ねるにつれ冴えわたっているサイスポ新編集長の吉本氏ならではの大胆な発想に期待したいデス。(気が付けばさらに完全脱線)
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結論(JOKE気味)
『実測RRCと最も相関が高いのは ”タイヤトレッド折れ曲がり角度θ ” である』
『32Cで空気圧7kgf/cm^2のタイヤと25Cで空気圧8kgf/cm^2のタイヤの垂直剛性は似たようなものである』
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★☆(まあまあ楽しめた)
”RoadLoadSurveyor” の実行ファイルはこちらです
https://cbnanashi.net/cycle/modules/static1/index.php?content_id=32 ”RoadLoadSurveyor” の解説はこちらです
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=10876&forum=120