購入価格 ¥50,000くらい?
LOOKが作った、ロードバイクとしては最後のホリゾンタルフレームです。
ヘッドチューブ短め、シート角は寝ており、細めに組まれた前三角、と 現行のLOOKフレームとはかけ離れた見た目が特徴です。
LOOKのフレームは 3桁の数字で名前を表すのが伝統ですが、かつては 数字の前に「KG」という文字が付けられていました。
KG481の次は585になるので、その伝統は このフレームが最後です。
シートチューブの印字が481SLと「KG」を欠いた状態なのは、585のデビュー時期と このフレームの製造年が被っているからです。
585までは、3桁の数字が それぞれ年代、グレード、製法を表していましたが 586と595からは それも無くなっています。
KG481SLは 2005年前後に生産が終了したので、2017年にもなって このフレームが使えるのは奇跡に近いです。
フレーム重量を計りはしていません。推定1,300〜1,400gくらいでしょうか。
現代のエントリーグレードのカーボンフレームにも劣る重さですが、これでも当時のフラッグシップモデルです。
CAAD10のフレームが推定1,100g未満なので 間違いなく重量増にはなりますが、車体重量だけでは語れない魅力が KG481SLにはあります。
~~~旧LOOK特有のジオメトリー~~~
iPhoneのカメラのグリッド機能を使って、トップチューブと直交し BB軸上を通る線分を引きました。
サドル後退幅が非常に大きく取れる事が伝わるかと思います。これだけサドルを引いておきながら、シートポストはオフセット0mm、
加えて ヤグラはサドルレールの中央よりやや後ろの方を掴んでいるのです。
(上の撮影方法ですが、ホリゾンタルフレームだからこそ可能な撮り方です。スローピングフレームで検証する場合、
トップチューブではなく 前後ハブ軸を結ぶ線とグリッドを重ね合わせると良いでしょう。)
KG481のシート角は、カタログ値で72.5°です。
現代のロードバイクは、ほとんどがシート角73.5°よりも起きているので いかにKG481が寝ているかが分かります。
(※トップチューブ長540mm未満のフレームに限った話です。もっと大きいサイズなら 73°弱のシート角はそれなりに見かけます。)
数少ない例外は、有名どころではサーヴェロのRシリーズ/Sシリーズくらいでしょうか。あれらは 全グレード・全サイズにおいてシート角73°で統一されています。
シート角がサイズによって変わらない設計の自転車は、時には「バックステーの製造コストを抑える為の手抜き仕様だ」などと批判されますが
サイズ毎にシート角を変える(小さいフレームはシート角が起きる)のは僕に言わせれば手抜き仕様です。
某S社の某Tマックのフレームジオメトリーでは、サイズ49と52の間に トップチューブ長22mmの差がありますが、
49サイズのフレームのシート角が立っているせいでフロントセンター(BB軸からヘッドチューブまでの距離)に1mmしか差が出ない、という事が起きています。
結果、身長から考慮した適正サイズが49であったとしても サドル後退幅を稼ぎたいなら52を買った方が良い、となる可能性も十二分に考えられます。
サドル後退幅を大きく取るメリットですが、前乗り気味のポジションに比べて ペダリングの引き脚が綺麗に出来る様になります。
ペダルを踏み込む最大出力が弱くなるというデメリットを伴いますが、過剰な踏み込みを抑制できるので 長時間の走行に適しています。
対してサドルを前に出すメリットは クランクの下方向への入力が強くなる事による最大出力の向上、端的に言えば ペダルを踏み込む力が大きくなる事です。
逆に 引き脚の回りが悪くなるので、ペダリングが未熟な人が前乗りになると いつまで経ってもペダリングが上達しない事になります。
かつて ある選手も話していましたが、サドルを前に出すには 高いペダリング技術が必要なのです。
KG481の話に戻ります。
CAAD10や トレック マドンに比べてサドルを後ろにガッツリ引いているので、座ったままのスプリントや TT的な走り方には向きません。
代わりに、一定のケイデンスで淡々と長時間走る事に関しては「これ半永久的にこぎ続けられるんじゃないの?」と思えるくらいポジションにゆとりがあります。
メーカー側も それをわかっている様で、グッと踏み込んだ時の 反応の速さというか俊敏さには欠けるものの、フレームのヤワさを感じる事はありません。
加速のタイムラグはあるけれども パワーロスには感じられない、といったところです。そういう意味では ある種のクロモリフレーム的な走り方をします。
不思議なのは、バックステーがしなる様な感触が感じられない事です。
この乗り心地は、後ろ三角ではなく 前三角の柔軟性が生み出している可能性があります。
~~~フレームの「しなり」~~~
積極的に「しなり」を生むタイプのカーボンフレームは、パイプの接合部に近い部分の塗装に ぐるりと1周まわるようなクラックが出来る事があります。
もちろん、芯のカーボンにヒビがある訳ではありません。
経年劣化で硬さが落ちたアルミフレームがしなる事でも 同様の塗装割れが出来ます。
この独特のクラックというか塗装の「浮き」ですが、トップチューブ・ダウンチューブ・シートチューブのみに発生して バックステーには発生しないのです。
これが バックステーのしなりが少ないと感じる事の裏づけになっています。
~~~ディレイラーについて~~~
シート角の大小が及ぼすのは、サドル後退幅への影響だけではありません。
シートチューブにはフロントメカが取り付けられていますから、インナー→アウターへの変速時の、フロントメカとチェーンの接触点の位置も上下します。
シート角が後ろに寝れば寝るほど、フロントメカのチェーンとの接触点はフロントメカのスイングアーム(テコの力点)に近づきます。
シート角が前に立てば立つほど、フロントメカのチェーンとの接触点はフロントメカのスイングアームから遠ざかります。
接触点が スイングアーム部(力点)に近ければ近いほど変速時に力点にかかる力は少なくて済みます。
シフトレバーによる ワイヤーを引く力が一定だとすれば、極端に言えば「ギヤ歯数とチェーンとチェーンリングの作りが同じでもシート角が立つだけで変速性能が落ちる」という事になります。
様々なメーカーのジオメトリー表を比較しましたが、トップチューブ長540mm未満で シート角が74°を割るフレームは非常に少ないです。
シマノとカンパニョーロは フロントメカのスイングアームを延長する事で変速性能の更なる向上を図っていますが、
ロードフレームのシート角が 時代と共に少しずつ立ってきた事と恐らく無関係ではないと思います。
~~~数字の意味~~~
KG481の名前の由来について。
LOOKに詳しい人なら説明不要ですが、KG481までのLOOKは冒頭でも書いた通り
百の位は年代、十の位はグレード、一の位は製法を表します。
百の位は1→2→3→4と変遷しています。
十の位は8や9など大きい数字の方がハイグレードという意味です。
一の位は1、5、6の3パターンからなり
1ならカーボンチューブ+アルミラグ、
5ならカーボンチューブ+カーボンラグ、
6ならフルカーボンモノコック、となります。
これに倣えば、
4→○81系の4代目
8→○○1系の最上位機種
1→カーボンチューブ+アルミラグ
という意味で合っています。
カーボンフレームとしては異様に線が細いのも、パイプをアルミラグで接合している為です。
~~~実際の性能~~~
ヒルクライム・・・至って普通。意外にもCAAD10との差は感じない(良い意味で)。サドルを引いている割には前乗りにも対応可能。
平坦・・・高速域の伸びが良い。ただし、重いギヤで踏むのではなく 高ケイデンスを維持する方がラク。
加速・・・ゼロ加速が やや鈍い。クランクをシマノに変えれば 少しは改善できるだろうか。
ブレーキ・・・よく効く。フロントフォークは400gを大きく切っているらしいが、それでこの制動力は素晴らしい。
ダウンヒル・・・やや不安定。CAAD10の方が安心して突っ込める。非テーパードヘッドの影響か?
ざっくり纏めると こんな感じです。
~~~その他 雑感~~~
2000年代初頭は 上下異径ヘッドがマイナーだったのか、そもそも概念として存在していなかったのかは不明ですが
ともかく上下とも1-1/8”のインテグラルヘッドです。
KG281はインテグラルでないワン外出し式アヘッドであったところKG381からはインテグラルヘッドを採用した、という意味で
「KG381i」という名前になった事の名残りなのか アルファベットのiと インテグラルヘッドの表記があります。
ヘッドチューブの脇を抉ってあるのは、シフトアウターとの干渉を避けるための工夫ですが 残念ながら くぼみのフチと干渉します。
塗装を保護するステッカーが却って貼りづらいので、ただのありがた迷惑です。
ねじ切りBSCのBB規格ゆえに クランクの選択肢は実質無制限となります。圧入BBの「あ」の字も無い時代のフレームなので 当然といえば当然ですね。
スーパーレコードのウルトラトルク用BBカップを使っていますが、これは本来 非推奨です。
スーパーレコードのBBカップは 内側向きの防水シールが無いのですが KG481のアルミラグは密閉されてはおらず 小さな水抜き穴が設けてある為、
雨中走行をすればベアリングが一発で浸水します。
~~~気に入らない点~~~
その1
ボトルケージ取り付け位置に 非常にイラッとします。
シートチューブ側のボトルケージの下に ダウンチューブ側のボトルケージが収まってしまうのには驚きです。
これには訳があり、エリートのパタオ74は ねじ穴に対する取り付け位置を かなり下へ設定する事が可能なので この様な見た目になるのです。
大変うっとうしいので、普段はシートチューブ側のケージを取り外し シングルボトル+サドルバッグで使っています。
その2
25.0mm径のシートポストを 専用品のシートクランプで固定する方式です。
専用シートクランプはともかく、25.4mmですら少数派なのに それより更に細い25.0mm径のシートポストなど ほとんど現存しません。
かの偉大なる東京サンエス様ですら25.4mm未満のシートポストは扱っていません。唯一 現存する25.0mm径シートポストが BBBのスカイスクレーパーです。
CBNにも既にレビューがあるので 見に行ってください。並の重量ながら、カットする事で 軽量シートポストにも匹敵する軽さになります。
オフセットは0mmのみですが、寝ているシート角のお陰で 後退幅は十分に取る事ができます。
現在ではキャノンデールやGIANTをはじめ 様々なメーカーが特殊径/特殊形状シートポストで ポジション出しを困難にさせてきます。
その「はしり」的な存在が LOOKのカーボンフレームだと思うと 若干 腹立たしい所はありますね。
~~~まとめ~~~
このLOOKは、いわゆる”古典的なロードバイク”です。
ポジション以外には特に際立った特徴の無い、悪く言えば「地味なバイク」なのかもしれません。
しかし、今まで乗ってきたロードバイクの どれにも無い独特の雰囲気に魅せられて買ってしまいました。
パーツチョイスに関しては、フレームの重さを相殺すべくスラムとしましたが、クランクとホイールに関してはまだまだ軽量化の余地が残されています。
どんなカスタムが良いのか考えるのが今から楽しみです。
価格評価→★★★★★(たまたま安かった。定価は不明)
評 価→★★★★★(好き嫌いの分かれるフレームだと思う。自分は大好き)
年式→2005?