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本書によれば、自動車が絡む事故の場合、事故の状況に応じて加害率算定基準が定められており、保険会社の手続きや裁判は、この基準を元に進行し、ある時間を経れば、多くの場合、被害者がある程度納得する形で終結するもの、のようです。
一方、自転車の場合は平成27年道路交通法改正で基準が整備されたものの、自転車対自転車の場合に関しては、基準整備が見送られているそうです。このような場合は、被害者にとってかなり骨の折れることになる・・・など、自転車事故特有の事情をベースとして、加害者と被害者の実際の事例、過失割合、自転車事故の損害賠償と自動車の損害賠償の違い、賠償と慰謝料、自転車保険、さらには被害者の苦悩、弁護士の役割など、自転車事故事例を通して多角的に、この本では論じています。
もう少し詳しく中身を・・・
第四章で、自転車事故には自動車損害賠償保障法が適用されず、従って自賠責保険のような強制保険もなく、『後遺障害認定制度』がないという現状があり、そのような状況下でどのように賠償金額が決まっていくのかを、自動車の場合との違いも含めて解説しています。第六章では具体的な実例から自転車事故での損害賠償の交渉がどのように行われるかを説明します。 第七章では高次脳機能障害、あるいは遷延性意識障害(植物状態)などの問題を、介護費用金額を含めて具体的に説明しています。
などと要約しているうちにだんだん気が重くなってきました・・・
強制保険がないため、加害者、被害者のいずれもが悲惨な目に遭う可能性があります。いずれにしても、どのようなタイプの自転車であれ、自転車に乗るなら任意保険への加入は必須でしょう。
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自転車対自転車の事故の場合、過失割合の算定基準が整備されていないという事情を考えると、例えば仲間同士でロード走行していて、前走者のブレーキングで後輪にハスって後続者が落車して、打ち所が悪く、最終的に大きな後遺症が残ってしまい、症状固定までに長い時間を要するといような場合を想像してしまいます。このような場合、加害比率がよくわからず、後遺障害認定機関がないのをいいことに保険会社は自社基準の低めの額を提示し、さらに、裁判も時間がかかり、場合によっては感情的な禍根を残すかもしれず・・・といった事態を想像して、ちょっと暗澹たる気持ちになってしまいます。
また、一般道をロードで走っているときに、知らない誰かが勝手に後ろについて、何かのはずみでこちらの後輪に勝手にハスって落車して大怪我を負って、その人に重篤な後遺症が残ったとしたら・・・常識で考えれば勝手に後ろにくっついて走って勝手にコケるヤツが馬鹿者なのですが、その馬鹿者が裁判で、
「車間を十分とっていましたが、前車が突然、信じられない位の急ブレーキをかけたので前車の後輪に接触してしまいました」
と証言しても、これを否定する目撃証言がなければ、双方の言い分が食い違うのみで、結局五分五分の和解にするしかない・・・それが自転車対自転車の事故である。この本を読んで私は、そう解釈しました。こうなると相当に厄介です。
いずれにしても事故を起こさないことが重要ですから、レースをやっておられる方の場合であれば、集団走行のルールとスキルをしっかり学んでおかなければならないでしょう。集団でしっかり走れなければそもそも安全なレースなど成立しないと思いますが、レース・イベントなどが活況を呈する昨今、そのあたりの意識と技術の底上げが追いついていないという声を耳にします。レースに出るならば、我流・孤独で頑張らず、是非、ただ速いだけではない信頼するに足りる先達の指導の下、安全意識の高い良き仲間たちと練習を積んで、段階的にスキルを上げていくことが本人のためになると思う次第です。前走者との車輪接触時の対応方法などは、実技として必修じゃないでしょうか。(私はレースとは無縁ですが)
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こういう本は一度は読んでおいたほうが良いでしょう。また、学校の自転車部や自転車サークル、自転車ショップに常備するのもよろしいかと思います。そして万が一、事故に遭った場合は、質の良さと熱意が感じられる弁護士に早めに相談することを忘れずに。
「絶対に事故を起こさない、事故に遭わない」
という強い意志と周到な準備が必要である、ということをこの本で再認識しました。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
年 式→2016年8月第一刷
ごめんじゃすまない! 自転車の事故
143ページ 出版社: 芸文社
むさしの森 法律事務所 岡田正樹 著