購入価格: ¥70,192 (税込) ※完成車に付属するパーツは含めずに計算
標準価格: ¥98,408 (税込)
『まさにグレードを超えた性能。レバーを軽く引いただけで高い制動力が発揮できる上、小さなレバーのストロークで変速操作が可能』
■ 105グレードの油圧式ディスクブレーキ
私が所有するGIANT DEFY1 DISCは、メインコンポーネントに105 5800シリーズを採用し、ディスクブレーキは機械式のTRP SPYRE-Cを搭載する。ただ、SPYRE-Cは制動力とメンテナンス性に優れているが、レバーの引きの重さが少々気になった。このブレーキでも十分に満足できるが、レバーの引きの軽さを味わうために、当初の予定よりも早く、2015年の1月下旬に油圧ディスクブレーキを導入した。
油圧化に必要なパーツは、105 5800シリーズを生かすために105グレードを選択。ロード用油圧式ディスクブレーキは、DURA-ACE R9100シリーズ以外はグループ外コンポーネント扱いだが、2016年のシマノの製品ラインアップには「油圧式ディスクブレーキ メカニカル仕様 (2×11スピード 105グレード)」として扱われている。レビューの対象は以下のとおりだ。
【油圧化に必要なパーツ】
・デュアルコントロールレバー: ST-RS505
・ディスクブレーキキャリパー: BR-RS785 ※フラットマウントタイプならBR-RS505
・ディスクローター: SM-RT81 160mm
・マウントアダプター: ESMMAF180PP2
【105 5800シリーズから引き続き使用】※クランクセットとチェーン以外は完成車に付属
・クランクセット: FC-5800 50-34T 170mm
・フロントディレイラー: FD-5800-F
・リアディレイラー: RD-5800-GS
・ボトムブラケット: SM-BB71-41B ※現行品はSM-BB72-41B
・カセットスプロケット: CS-5800 11-32T ※現在はCS-9000 12-28Tを使用
・チェーン: CN-HG600-11 ※現行品はCN-HG601-11
【今回のレビューの対象外】
・ケーブルインラインアジャスター: SM-CA70
・ハブ: HB-RS505、FH-RS505
・ホイール: WH-RX31、WH-RX010-CL
・ペダル: PD-5800
■ デザイン
105 5800シリーズのデザインは、どんな自転車にも無難に合う反面、やや単調で個性に欠ける。これが105グレードの油圧式ディスクブレーキになると、強烈な個性を放つ。特異な形状のデュアルコントロールレバー ST-RS505の存在感は抜群で、一目で油圧式であると主張しているのがいい。キャリパーの放熱フィンはオートバイのエンジンを彷彿とさせ、ローターと共にメカめかしい足回りを演出。好みの分かれるデザインだが、私はとても気に入っている。
デュアルコントロールレバーだけでなく、足回りのキャリパーやローターも存在感がある
■ デュアルコントロールレバーの操作性
●握り心地
ST-RS505は変速機構を前方、リザーバータンクを後方にレイアウトしており、オイルラインによって握る部分が太くならないように工夫されている。上下に厚みがなく、手の小さな私でもブラケットの下に指を入れてしっかりと握れる。横幅は細すぎず、手のひらにかかる荷重を分散しやすい。また、握り幅が最小でもレバーと指が干渉せず、ブラケットの下には指が3本入る。個人的にはST-5800よりも握りやすい。
●ブレーキ操作
このコンポーネントの最大のメリットは、レバーの引きの軽さと滑らかなタッチにある。レバーの空引きが劇的に軽いわけではないが、レバーを握り込んでも引きが重くならないのが良い。リターンスプリングやケーブルの抵抗もない滑らかなタッチは、105グレードとは思えない極上のもの。レバーの引きに左右差がないのも特徴だ。
また、上位グレードと同様に握り幅調整とフリーストローク調整を備えており、機械式と違ってレバーの引きの軽さやキャリパーのパッドクリアランスに影響せず、レバーのフィーリングだけを個別にセッティングできる。
●変速操作
左右のメインレバー・リリースレバー共に、レバーの遊びがST-5800よりも小さい。このことによって、小さなレバーのストロークで素早い変速操作が可能になった。また、トリム操作でもストリークが小さい。メインレバーに触れながらリリースレバーを押すと、変速せずにレバーが空振りするのは仕様だが、ST-RS505はメインレバーを小さく押し込んだくらいでは空振りしないので使いやすい。ST-RS505のスムーズな変速操作は、このコンポーネントの隠し機能というかサプライズだ。
特異な形状のおかげで握りやすくなっている(左)、ST-5800よりも小さなストロークで変速操作が可能(右)
■ 油圧式ディスクブレーキ
●制動力
ロード用に調整されているとはいえ制動力は高く、油圧式に慣れるとキャリパーブレーキでは少々物足りなさを感じてしまう。この点は機械式のTRP SPYRE-Cも同じだが、油圧式の方が小さな握力で高い制動力を発揮できる。軽くレバーを引いただけでも短い距離で止まれるのが心強い。低速なら指1本でも減速可能。ほぼブラケットからのブレーキ操作だけで済み、キャリパーブレーキのように下り坂で下ハンに持ち替える必要はない。私は晴天時に自転車に乗ることが多いが、それでも油圧式の制動力の高さに大きなメリットを感じている。
●コントロール性
ロード用油圧式ディスクブレーキの素晴らしい点は、高い制動力に達するまでのコントロール性の高さだ。レバーの繊細な動きにパッドが追従し、制動力がリニアに立ち上がる。そのおかげでキャリパーブレーキにも似たマイルドな効き具合を持ち合わせており、安全にブレーキ操作ができる。ただ、リアが160mmローターではやや減速しやすいので、コントロール性を重視して140mmローターにしても良さそうだ。
●静粛性
キャリパーブレーキと同等にほぼ無音。下り坂でブレーキをかけ続けると若干音鳴りしやすくなるが、ほとんどの状況で快適に走れる。ただ、ローターが少し振れただけでもパッドと接触して音鳴りしやすいため、ローターをぶつけたりしないように気をつけて扱う必要がある。
ホイールの固定がクイックリリース式でも、フレームやフロントフォークが十分に補強されていれば、ハブやフォークのねじれによるパッドとローターの接触による音鳴りは生じない。だが、キャリパーの取り付け角度次第では、ホイールが少しでも斜めに傾いた状態で取り付けると、パッドとローターが接触しやすくなる。また、常識的にも弱いクイックリリースレバーの締め付けでは、ダンシングでパッドがローターに接触してカツンと音が鳴る点にも注意したい。
●耐摩耗性
ブレーキダストの付着量から判断すると、以前使っていたパッドとローターよりも摩耗量が少ない。シマノのカタログでは「アイステクノロジーパッドとアイステクノロジーローターの組み合わせでレジンパッドの耐久性が高くなる」とあるが、これは体感的にもまあまあ理解できる。さらに、私は平地を主に走り雨天走行を積極的に行わないこともあり、パッドもローターも交換時期はまだ先になりそうだ。
●メンテナンス性
普段のメンテナンスは、洗車のついでにキャリパーやローターを洗浄したり、ローターの振れをチェックするくらい。それ以外はほぼノーメンテだ。油圧式はパッドが摩耗してもパッドクリアランスが一定に保たれ、ケーブルの伸びも当然存在しないので、機械式のように空引き量やタッチの再調整に煩わされることはない。リムやシューの研磨が必要なリムブレーキに比べてもローメンテだと感じる。
●ブリーディングと作業のコツ
じょうごを用いたシマノのブリーディングの方法はシンプルで、初心者の私でもかんたんに作業できた。準備と作業にはそれなりに時間がかかるが、時間をかけて徹底的にエア抜きできることが、自分で作業する最大のメリットだ。おかげで、現在でも全くエア噛みしておらず、カチッとしたレバーのタッチを維持している。
作業にはブリーディングキットが必要だが、ブレーキホースはカッターナイフでも切れる。また、時間をかけてエア抜きするなら、ミネラルオイルも多めに用意した方がいい。リアハブに取り付けるタイプのディスプレイスタンドがあれば作業可能だが、自転車を高い位置に持ち上げてリアの長いブレーキホースを伸ばした方がエアが抜けやすい。また、念のため、ミネラルオイルが吸湿しないよう部屋を除湿しておいた。
作業のコツはじょうごから目を離さないこと。じょうごが空になるとエアが混入して作業のやり直しになる。途中でレバーを握ったままブリードニップルを瞬間的には開閉する作業を2、3回繰り返すが、エアが抜けてレバーが硬くなるまで繰り返した方がいい。また、じょうごから気泡を排出する作業に時間をかけるとエアが残りにくい。最後はじょうごに浅く栓をしてオイルが多くあふれさせればエアが入らない。
BR-RS785とSM-RT81の組み合わせで高いブレーキ性能を発揮(左)、スムーズな作業を可能にするファンネルブリーディング(右)
■ 駆動系
●フロントの変速
リアディレイラー並みの劇的に軽いシフトアップを実現している。ロングプルアーム、OPTISLICKシフトインナーケーブル、サポートボルト+バックアッププレート、高剛性のチェーンリング、HG-X11チェーンなど、上位グレードを踏襲した様々な技術が変速の軽さに貢献している。ただ、軽く操作できるかどうかは、変速調整にも大きく左右される。
●リアの変速
シフトインナーケーブルがポリマーコーティングからOPTISLICKに変わっても、相変わらず変速は軽くて滑らか。ローギアが28TならショートケージのRD-5800-SSも使えるが、ロングケージのRD-5800-GSでも変速のフィーリングにもっさりとした感じは特にしない。
●静粛性
チェーンがたすきがけの状態になっていなければ、特に音鳴りを感じることもなく快適な走行が可能。チェーンのSIL-TEC加工も貢献しているようだ。チェーンがたすきがけの状態では、スキッドプレートも音鳴りを軽減してくれている。当初はチェーンの位置によってプーリーのキュルキュルとした音鳴りが気になったが、グリスアップ後は解消された。
●変速調整
リアの変速調整は比較的容易で、11速が10速よりも調整がシビアになったという印象はない。ただ、チェーンの位置によっては、となりのギアに接触して音鳴りすることがある。説明書にある「各段で音鳴りがないことを確認」というのがポイントで、最後はケーブルアジャスターを回して音鳴りがしないように各段を調整する。
フロントの変速調整はリアよりも難しい。特にインナーからアウターへの変速でメインレバーの軽い操作を実現するには、ケーブルアジャストボルトでケーブルを張りすぎないように気をつける必要がある。ここはトップ側調整ボルトも併用して調整するといい。
●クランクセット
FC-5800は十分に高い剛性を備えており、ロスのないペダリングにつながる。ホローテック2の中空鍛造クランクアームは、踏み込みのパワーを受け止め、ペダリングの軽さにも貢献。アウターギアはホローグライドではないものの、裏側が肉抜き(リブで補強)されており、厚歯のチェーンリングほどではないが、ダイレクト感のある踏み込みができる。
●ボトムブラケット
1年以上使ったSM-BB71-41Bは、右アダプターの回転がわずかに軽くなったものの、グリスの抵抗感を残した滑らかな回転を保っている。何度も洗車したが内部には浸水しておらず、以前のモデルのSM-BB51よりも高いシール性と耐久性を実感できた。
このBBはプレスフィットタイプ(BB86、PowerCore)という、フレームに圧入する規格だ。フレームのBB周辺が太くなり、ねじ切りタイプのフレーム・BBに比べると剛性が高く、ペダリングでのロスの少なさをはっきりと感じる。圧入するタイプのBBでは異音などのトラブルも多いようだが、私は現在も全く問題なく使えている。
フロントの軽い変速が105グレードの優れている点(左)、リアの変速は軽く調整も容易(右)
■ 重量
最大のデメリットは重さだ。デュアルコントロールレバーのST-RS505の重量は665.3gで、ST-5800よりも179.3gも重い。キャリパーのBR-RS785は前後で568gと、BR-5800よりも191gの増加。ここにローターのSM-RT81(160mm)が前後で257gが加わり、160mmローターなら前後で70gのマウントアダプターも必要。つまり、単純計算で105 5800シリーズよりも697.3gも重いことになる。
個人的には油圧式ディスクブレーキには、重量増を上回るメリットを感じているが、ST-RS505の重量はダンシングへの影響が大きく、ハンドルバーの振りがハイテンポになるとタイミングを取りづらい。ハンドルバーの幅が狭くなると特に顕著だ。ただ、シッティングがメインで、なおかつ、一定のペースで淡々と巡行するならデメリットはあまり感じない。デメリットになるかどうかは、走行の内容や激しさ次第だ。
デュアルコントロールレバーの重さはハンドルバーの操作性にも影響
■ 互換性
2×11速の上位グレードと互換性があるので、上位グレードのパーツでアップグレードすることも可能。リア駆動系は完全に上位グレードと互換性があるが、フロント駆動系はDURA-ACE R9100シリーズのデュアルコントロールレバーとフロントディレイラーのみ互換性がない。ちなみに、私はスプロケをCS-9000 12-28Tに交換している。
油圧式ディスクブレーキは、ロード用ならどのグレードでも互換性がある。ただし、ポストマウントタイプのフレームには、フラットマウントタイプのBR-RS505は装着できない。逆にフラットマウントタイプのフレームなら、アダプターを介して、ポストマウントタイプのBR-RS785を取り付けられる。
DURA-ACEの下位互換なので、CS-9000 12-28Tの導入も可能(右)、ポストマウントタイプにBR-RS505は取り付け不可(右)
■ 価格
105 5800シリーズと機械式ディスクブレーキが採用されている完成車なら、ST-RS505とBR-RS785(BR-RS505)さえ手に入れれば油圧化が可能になる。ただ、これらのパーツは55,968円と105グレードにしては高価だ。ローターをSM-RT81に交換するとさらに費用がかかり、シマノは6ボルトタイプの140mmローターをラインアップしていないので、場合によってはホイールを交換する必要も出てくる。
105グレードのわりに高価なのがデュアルコントロールレバーのST-RS505。ただ、高価な分だけ性能も高い
■ 総評
SHIMANO 油圧式ディスクブレーキ メカニカル仕様 (2×11スピード 105グレード)は、ブレーキ性能も変速性能も105 5800シリーズを上回っており、まさにグレードを超えた性能であると断言できる。滑らかなタッチは油圧式でしか味わえないものだし、より小さなストロークで変速操作ができる点も素晴らしい。
機械式ディスクブレーキに比べると全体的に重いのが難点だが、私は油圧式で得られる数々のメリットの方が大きいと感じている。キャリパーブレーキとのブレーキ性能の差は歴然としており、油圧式を味わうと少々物足りなさを感じてしまうほど。絶対的な制動力の高さに加えて、高い制動力に達するまでのコントロール性もしっかりと備えており、安全にブレーキの操作ができる。
個人的には個性的なデザインも気に入っており、トータルでの満足感は非常に高い。105 5800シリーズと機械式ディスクブレーキが採用された完成車なら、このコンポーネントを導入することで、価格に見合った大幅なアップグレードを感じられるはずだ。
価格評価→★★★☆☆ (価格に見合った性能で満足感が高い)
評 価→★★★★★ (ブレーキ性能だけでなく、変速性能も素晴らしい。個人的にはデザインも好み)
<オプション>
年 式→2016年
カタログ重量→3212.3g(105 5800シリーズは2515g)