購入価格 ¥1500+税 (双葉社)
帯に書かれた文章から、この本の主題は本の題名にある『本当に幸福な自転車乗り』とは何なのか、を元ロード全日本選手権覇者でもある森幸春氏が語った中から見出すこと、であろうことが窺われます。
結論から申し上げれば、2014年春に逝かれた森幸春氏と著者のエンゾ早川氏との対談の中から、森氏の語りを考えながら読むことで、自分なりの「本当に幸せな自転車乗り」像が浮かび上がってくるかもしれない、と思いました。
私の推測ですが、森さんは、どういう形であれ、自転車が心底好きな人とか、向上心を持つ人を、乗っている自転車が何であろうと応援する人である、と感じます。森幸春さんの自転車に対する心構え、自転車を愛する人たちに対する気配り、それらを持ちながら生きることを選択する氏の(おそらくは)達観とでもいうべきものを感じ取ることが出来たような気がする、という意味で、私にとっては価値のある本でした。
自分は単に自転車が好きなのだ、ということを森さんが述べている部分。ここは心に残りました。
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さて、ヘルメット着用を巡る話。
ヘルメットを使わないエンゾ氏が対向車線を走る男子二人組に、
「おい、ノーヘル!」
と怒鳴られた、とのくだりがあります。エンゾ氏との対談のやりとりの末に森氏はある人の体験談を引き合いに、
>以下引用
「ヘルメットかぶれ」って言うのに「いいじゃないか、うるさいよ」って言ったら、向こうはすごくむくれちゃったんだ って。むくれるってことは「オレの言うことをきかないのか」ってことでしょ。そういう気持ちが言葉の調子に出てたからこそ、彼は「うるさい」って言ったんだと思うの。純粋な善意のつもりかもしれないけど、そういう一方的な言い方はね。
<引用終
森氏はヘルメット着用の重要性を理解しつつ、敢えてかぶらないという選択肢も、それはそれとして尊重する、というスタンスです。一方でエンゾ氏。森氏と同じ考えのようにも見受けられますが、この人は、ヘルメットをかぶらなくて済む理由を一生懸命探しているように、私には感じられました。なぜだろうかと思いながら最後まで読み進めましたが、結局、ロードレースにエントリーせずに済む方法として、ヘルメットを意図的に放棄しているのではないか、と勘繰ってしまいました。無論、これは完全に私の邪推ですが。
300ページを超える著作ですが、実は内容が薄く、こんな風に想像をめぐらせて読まなければ、ちょっと飽きてしまいます。
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後輩の高橋松吉氏、市川雅敏氏や三浦恭資氏らと切磋琢磨した現役時代の森氏の印象は、彼らに共通することですが、体は大きくないが屈強なロードマン。30年ほど前に東京で開催された国際レースでその走りを目撃しました。2008年春、映画「シャカリキ」にロードレースのスタータ役として出演され、宇都宮森林公園でのエキストラ参加のロケで拝見した時は、裏で主人公役の若者らのマッサーまで務めてしまう気配りの人で、控えめで物静かな紳士。そしてネットニュースで拝見した病気をされた晩年の姿は、悟りに到達しようとする修行僧のような風貌。そんな森幸春さんの考えとは、どういうものだったのだろうか?という興味があったので、この本を購入しましたが、CBNの別の方の書評にうまく書かれていたように、ちょっと癖があり、初心者の方にはなかなか勧めにくい本ではあります。エンゾ氏の話は、狭い世界を行ったり来たり・・・という印象が強く、もしかしたら森さんのパーソナリティを十分に引き出すことに成功していないのではないか?というか、森さんが話したいことはもっと他にあったのではないだろうか?という気がしてきます。
森さんのような伝説のロードマンを新しい地平に引きずり出すような仕掛けとは一体、何だろうか、との思いを巡らせながらこの本を読み、森幸春さんの早逝が残念に思われました。
価格評価→★★☆☆☆
評 価→★★☆☆☆
年 式→2015