購入価格: ¥5,298 (税込)
標準価格: ¥5,887 (税込)
『小さな握力で大きな制動力を発揮でき、操作感は意外にマイルド。油圧化によるデメリットもほとんどない』
■ BR-RS785とは
「SHIMANO BR-RS785」は、ロード用の油圧式ディスクブレーキキャリパーだ。GIANT DEFY1 DISCを105グレードで油圧化するために購入した。BR-RS785はULTEGRAグレードであるが、105グレードの油圧用デュアルコントロールレバー ST-RS505とも互換性を持つ。
DEFY1 DISCはポストマウントタイプだが、105グレードにはフラットマウントしかないため、キャリパーはBR-RS785かBR-R785のどちらかを選ぶことになる。両者の主な違いはホースジョイントタイプだ。BR-RS785を選んだのは、リアのブレーキホースを内側にすっきりと取り回すことを考えてのことだが、外装式のフレームなら正直どちらでもかまわないと思う。
対応ローターサイズは140mmと160mmで、160mmローターを用いるにはアダプターを介して取り付ける。MTB用の上位グレードと同様に、レジンパッドとピストンにアイステクノロジーが採用されており、レジンパッドには放熱フィンが付き、ピストンの材質にはセラミックが使われている。表面仕上げはアルテグラのシリーズカラー。ロゴは小さめだ。
SHIMANO BR-RS785(左)、105グレードのST-RS505と組み合わせて使用(右)
■ 購入のきっかけ
私は最終的にはロード用油圧式ディスクブレーキにすることを考えていたが、導入は当初の予定よりもかなり早まった。きっかけはDEFY1 DISCに搭載される、TRP SPYRE-Cのレバーの引きがやや重たいと感じたからだ。それでも、性能面には概ね満足していたが、引きが軽いといわれる油圧式に対する憧れは日に日に増すばかり。我慢できずに導入したというわけだ。
BR-RS785を使用した感想は以下のとおり。使用期間は約3ヶ月半。操作感やメンテナンス性に関する内容は、主に機械式のSPYRE-Cとの比較になる。取り付けは自分で行ったので、作業中の注意点やちょっとしたコツも書いてみた。
TRP SPYRE-Cは制動力・コントロール性・メンテナンス性に優れる。ただ、レバーの引きの重さがちょっと残念
■ ブリーディングの作業
ブリーディングを行うためには、「TL-BT03 ディスクブレーキ ブリーディングキット」を用意する必要がある。本格的なメンテナンススタンドがなくても、リアホイールを挟むタイプのディスプレイスタンドがあれば作業できる。作業は大がかりだが、決して難しくはない。
ミネラルオイルを注入・排出するためのチューブは、BR-RS785のブリードボスに取り付ける。だが、内部のニップルが短いのでチューブのかかりが浅く、チューブは柔軟性がないのでニップルへの食いつきが悪い。そのため、作業中にチューブがポロリと外れやすい。特に注射器でミネラルオイルを注入する際にチューブが外れると、気泡が混入してやり直しになるので注意が必要だ。
ブレーキホースからエアが抜けやすいように、スタンドを高い位置で固定している(左)
ブリードボスからチューブが抜けやすいので注意(右)
■ キャリパーの取り付けとセンター出し
BR-RS785はパッドクリアランスが小さいので、パッドとローターが接触して音鳴りしないように、確実にキャリパーのセンター出しを行うことが重要だ。キャリパーのセンター出しは、ブレーキレバーを握ったまま固定ボルトを締め付ければできる。
だが、固定ボルトを本締めすると、キャリパーが外側に動いてセンターがずれることがある。これを防ぐには、ブレーキレバーを結束バンド等で固定し、キャリパーを手で押さえて締め付ければいい。ディスクローターセンタリングツールは、油圧式のパッドクリアランスの小ささでは挿入できない場合がある。
センターが出ていなければ、ローターがパッドに押されて歪むのですぐにわかる。ただ、見かけ上はセンターが出ていても、実際にはわずかに傾いていて、ブレーキレバーを握るとクニュッとしたブレーキタッチになることがある。きっちりとセンターが出ていれば、ローターが左右に歪まないだけでなく、カチッとしたブレーキタッチが出る。BR-RS785を快適に使うためには、このことがかなり重要になる。
取り付け直後のBR-RS785。フロント(左)、リア(右)
■ BR-RS785の操作感
BR-RS785はロードバイク向けに調整されており、高い制動力とコントロール性を両立したクセのない操作感を実現している。これならキャリパーブレーキから移行しても違和感がない。操作感の詳細は以下のとおりだが、レバーのST-RS505やローターのSM-RT81も性能に大きく関係している。なお、ローターサイズは160mmであり、雨天走行での評価はしていない。
●制動力
意外にマイルドな制動力というのが第一印象で、ゆっくり走行する分にはキャリパーブレーキと大差はないが、急制動や下り坂では油圧式の圧勝。高いスピードから一気に短い距離で減速・停止が可能であり、下り坂ではブラケットからでもブレーキが効く。
機械式のTRP SPYRE-Cも制動力自体は高いが、BR-RS785の方が小さな握力で大きな制動力が発揮できる点が大きく異なる。メーカー推奨は140mmローターだが、160mmローターでも効きすぎだとは思わなかった。むしろ、制動力や握力に余裕を持ってブレーキ操作ができる。
BR-5800で大きな制動力を出すには、下ハンへの持ち代えが必要だった
●コントロール性
レバー操作の途中で大きな制動力が立ち上がるようなピーキーなブレーキではなく、ブレーキレバーを握った分だけリニアに制動力が大きくなるのでコントロールしやすい。また、よほど強くレバーを握らないかぎりは、ジャックナイフやロックすることもないだろう。
指先のかすかな動きに追従するので、繊細なスピードコントロールも可能。SPYRE-Cやリムブレーキを上回るコントロール性の高さを感じた。ただし、これはブラケットポジションの話。160mmローターの場合は、下ハンでブレーキをかけると、レバーのテコ比の関係でややスピードが落ちやすい。下ハンで微妙なスピードコントロールを行うには、さらに繊細なレバーの操作が必要になると感じた。
下ハンを使う頻度が高い場合は、コントロール性を重視して140mmローターを選んだ方がいいかもしれない。ブラケットポジションでの制動力とコントロール性を中心に考えるなら、160mmローターでも全くかまわないと思う。
制動力重視なら160mmといったところ
●静粛性
SPYRE-CにシマノのレジンパッドとアイステクノロジーローターSM-RT81を組み合わせると、音鳴りが非常に小さくなる。BR-RS785ならさらに静かになり、ほぼ無音といえる状態がSPYRE-Cよりも断然多くなる。また、長い坂でブレーキをかけ続けてもあまり音が大きくならない。静粛性の高さにはキャリパーの放熱効果も効いているようで、シマノのパーツ同士はやはり相性がいいと感じた。
放熱フィン付きレジンパッド (アイステクノロジーパッド)
●レバーの引き、ブレーキタッチ
機械式のSPYRE-Cで感じていたような、リターンスプリングのバネ力やケーブルのフリクションは、油圧式のBR-RS785には当然存在しない。滑らかなレバーの動きはケーブル引きのブレーキでは味わえないものだし、レバーの引きの軽さは快適な操作に貢献する。ピストンの剛性や精度も高く、カチッとパッドが面でローターをとらえる感覚が伝わってくる。
油圧式のブレーキタッチは極上で、機械式とは大きく異なる
■ パッドの摩耗
SPYRE-Cと比べると、BR-RS785の方がキャリパー周りに付着するブレーキダストの量が少ない。パッドを外してピストン周りを確認しても同様だ。シマノのカタログのアイステクノロジーの解説から、放熱効果がパッドの摩耗量にも影響することがわかるが、これは実感としても理解できる。
ピストン周辺は意外に汚れていなかった
■ メンテナンス
SPYRE-Cは、パッドの摩耗やケーブルの伸びに伴い、レバーの引きしろやタッチを微調整する必要があった。油圧式のBR-RS785は、パッドクリアランスの間隔を一定に保つ「セルフセンタリング機構」を備えており、パッドが摩耗しても引きしろやタッチは変わらない。SPYRE-Cもメンテナンス性に優れていると感じるが、油圧式はさらにメンテの頻度が低い。ただし、パッドクリアランスを大きくすることはできない。
日頃のメンテは、キャリパーやローターのクリーニングくらいだ。中性洗剤やイソプロピルアルコールで洗浄したり、ウエスで乾拭きしたりしているが、前述のとおりパッドの摩耗量が少ないので頻繁に行うわけではない。
何らかの原因でローターが曲がった場合には、ローターレンチという工具で修正する。キャリパーのセンターをきっちりと出せるようになってからは、強くブレーキをかけ続けてもローターが曲がることがなくなった。メンテの頻度を減らす意味でもセンター出しは重要だ。
いまのところ、気泡の混入も感じられず、当分の間はブリーディングする必要はなさそうだ。劣化したミネラルオイルの交換もまだ先の話だが、ブリーディングを経験していればかんたんにできそうな作業だ。ちなみに、私は出先でキャリパーに気泡が入らないように、ロードバイクを倒立させたり横にさせたりしないようにしている。実際には大丈夫だと思うが、トラブルが生じないように念のためだ。
普段行うのはキャリパーやローターのクリーニングぐらいだ
■ クイックリリースとの関係
DEFY1 DISCのホイールの固定方法はクイックリリースだ。BR-RS785はパッドクリアランスが小さいので、ホイールが斜めになった状態で固定したり、クイックリリースレバーの締め付けが弱かったりすると、ローターとパッドが接触することがある。特にキャリパーが斜めになって取り付けられていると、何度ホイールを装着してもうまくいかないことが多い。
自転車を垂直に立てたまま、クイックリリースレバーを持ち上げれば、ホイールをまっすぐに固定しやすい。この状態でキャリパーのセンター出しを行えば、ほぼ一発でスムーズにホイールが装着できるようになる。パッドクリアランスが小さい分、ホイールの着脱がシビアになると思ったが、実際にはホイールの着脱にストレスをあまり感じていない。ちなみにホイールを外す方は、リムブレーキよりもかんたんだ。
また、強くブレーキレバーを握っても、クイックリリースレバーが緩んだことは一度もない。DEFY1 DISCのフロントフォークは、エンドの切り欠きが斜め前方を向いており、ディスクブレーキの制動力を受け止めるように作られている。少なくともDEFY1 DISCは、ディスクブレーキを機械式から油圧式に変えたからといって、制動力に対して剛性不足を感じることはない。
リアホイールは壁際等でハンドルが曲がらないようにすると装着しやすい(左)
DEFY1 DISCのフロントフォークはエンドが斜め前方に向いている(右)
■ ピストンからのオイル漏れ ※初期不良
実はリアのキャリパーをブリーディングした直後に、ピストンの隙間からミネラルオイルが漏れた。すぐにホイールとパッドを外したが、パッドはオイルが染み込んでダメになった。ブリーディング後にピストンの隙間からオイル漏れが生じた場合、初期不良品としてシマノの保証の対象になる。結局、BR-RS785は箱ごとすべて交換することになった。
ブリーディング直後にオイル漏れが発生。作業後は各部のオイル漏れのチェックが重要だ
■ 総評
BR-RS785はブレーキとしての完成度が高く、大きな制動力と繊細なコントロールの両立を実現している。ロード用に調整されているので、ブレーキ操作による挙動は意外にもマイルド。キャリパーブレーキのような感覚で扱うことができ、油圧は効きすぎて危ないのではないかといった心配は無用だ。もちろん、強く握ればしっかりと効くので、確実に減速・停止するためのブレーキとしても心強い。
アイステクノロジーローターと組み合わせれば、ほとんど音鳴りもせず快適。パッドクリアランスの小ささによるトラブルも特に生じていない。導入の大きなハードルになるのがブリーディングだが、やってみると意外にかんたんだ。機械式よりもデリケートに扱う必要があると思っていたが、実際には油圧の方がトラブルやメンテに煩わされることが少なく、デメリットよりもメリットの方がはるかに多い。
DEFY1 DISCに油圧式ディスクブレーキを導入したのは大当たりだった。機械式のTRP SPYRE-Cの弱点であるレバーの引きの重さから解放され、滑らかなレバー操作やローメンテナンス等、油圧ならではのさまざまなメリットを享受することができた。機械式ディスクブレーキが搭載されている完成車なら、ブレーキの究極のアップグレード。価格以上の満足感が得られるはずだ。
油圧式なら楽にブレーキ操作ができるし、いつでも安全に止まれる
価格評価→★★★★☆ (キャリパーならリーズナブル。同時購入の油圧用デュアルコントロールレバーが高価)
評 価→★★★★★ (軽い操作感がお気に入り。油圧化に伴うデメリットはあまり感じられない)
<オプション>
年 式→2015年
カタログ重量→284g