購入価格 ¥102700 フレーム価格(ジオメトリ・フルオーダー)
逆スローピングで短いリアセンター
低めにセッティングしたセミドロップのマスターシュハンドル
鋭く走って鋭く制動し、鋭敏に旋回する運動性能抜群の20インチホイール小径車・・・
それが今野製作所の創業者であり先代の故・今野仁さんがケルビムの小径車 " CR " に与えたコンセプトです。
一方で、200kmオーバーのサイクリングをカイセイ022のスチールロード並みに快適に走り切ることを狙った 『マドガード付き小径車』 を作りたいと考えていた私は、長考を重ねて決定したフレーム・ジオメトリを携え、今野製作所を訪ねます。2001年秋のことです。アルテグラ・グレードのキャリパー・ブレーキで真っ当なデザインのラージサイズがこの頃、リリースされ、マドガードがきれいに取り付けることが出来そうだ、という状況にも背中を押されました。
狙ったのは結局、グランツーリスモ的な小径車ですが、ホリゾンタルトップ、ホイールベース、リアセンター、フロントセンター、キャスタアングル、シートアングル、果てはトレイル量に至るまで、普段乗っているスチール・ロードのそれをほぼ引用することで、スチール・ロードに準拠した長距離走破性を小径車に与えようと考えました。しかし、そんな小径車がケルビム" CR " たりうるという発想は、今野さんはお持ちではないだろうし、CRベースでの製作は断られるのでは、と思っていました。
そこでまず、量産市販小径スポーツ車のみならず、ハンドメイド工房の小径車も含めて、フォークオフセットが軒並み、かなり過大ではないか?という話を仁さんに持ちかけ、
「全くその通りだよね。なぜならば・・・」
ということで話が盛り上がったところで、自分が考える小径車のコンセプトを説明し、CRではなく、ラグレス・ロードフレームのラインアップ(当時は" RF " )を選択し、それをベースにした小径車用フレームをジオメトリ・フルオーダーで作ってほしい旨、申し上げたところ、私の小径車コンセプトに興味を持ってくれた仁さんは、
「CRで作りましょう」
CRベースのフレーム製作を快諾してくれました。
■■■ ジオメトリの決定 ■■■
今も当時も、毎日のように乗っているのは長年乗り続けてきた2台のスチールロード、FTB QUARKとCHERUBIM R3。剛性はかなり異なりますが、似たようなジオメトリの2台。自分の身体は最早、この2台に馴染み切ってしまい、快適極まりないこれらのジオメトリから逃れられない身体になってしまっています。したがって、小径車のフレーム・ジオメトリの検討は、このロードのジオメトリをデフォルトとして考えるところからスタートします。
しかしそうはいいながらも、様々な可能性を考えましたが、散々長考した挙句、ロード車のジオメトリから大きく変更する理由などどこにも存在せず、結局、ホリゾンタルトップ換算値、ホイールベース、リアセンター、フロントセンター、キャスタアングル、シートアングル、トレイル量などをロードとほぼ同等にする、ということに落ち着きました。
グランツーリスモ的な小径車を狙う場合には、「ロードと同等にする」という考え方は特異でも何でもなく、これこそが「基本に忠実」であり、「保守的」とも言えるものです。ヘンテコな自転車が出来上がってしまうリスクを排除するためにも、この考え方は極めて有効です。
ところで、ジオメトリを考察する場合、その都度、概算しても良いのですが、全体のバランスを抜け漏れなく監視するには、それ相応のツールを使うのが得策です。というわけで、マイクロソフトのEXCELの利用が一般化してきた1990年代中盤頃から、主にEXCELでジオメトリ計算を行っていました。最近版は” ZITENSYAEXPLORER”としてCBNで公開させていただいています。まあ所詮、自分が使いやすく作ってあるだけの代物なので、誰にも簡単に使えるというものではないようですが・・・。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/static1/index.php?content_id=32その結果が次の画像です。青が普段乗っているデフォルトのロード(ケルビムR3・・・1988年製作)、ピンク色が製作した小径車のジオメトリです。要所の数値をほぼ一致させています。どうでもいい話ですが、ギヤの円はピッチ円で、アウター×トップの歯数に対応しています。また、小径車では、見栄えの観点からも、ホリゾンタル・トップに拘る理由などなく、むしろ、全体のバランスを考えれば、私のサイズであれば7~8度程度の前上がりスローピングが適当との結論に至っています。
なお、スチール・チューブですが、カイセイ019を選択しています。カイセイの定番チューブは022、019、017あたりですが、小径用フレームであることを考慮し、022より軽量、すなわち多少柔らかめのフレームが出来上がる019を選択しました。
ところで、丹下が拠点を国外に移したことに伴い、事実上、唯一の国産フレームチューブメーカとなっているカイセイですが、かつては国産チューブ製造元として石渡製作所と丹下鉄工所が存在し、2強時代を形成していました。例えば老舗工房ラバネロの高村さんは当時、丹下の方が硬度がやや高めで好ましい、との立場をとっていましたが、石渡製品を好んで使う工房もたくさんありました。石渡製作所が倒産したときに、当時の執行役員が設備を引き継いで再興されたのがカイセイで、019、022といった型番もそのまま引き継がれており、古いファンにはわかりやすくて助かります。量産車メーカーやNJS工房が主な顧客でしょう。無論、私のような素人がサイクリングに使う自転車にも、ごく普通に使われます。
■■■ マドガードの製作 ■■■
フルサイズのマドガードがきれいに装着された小径車というのは、実に端正です。真っ当なデザインのラージサイズ(ロングアーム)のロードブレーキと細身で美しいマドガード。この2つは、自分が一生涯乗り続ける小径車のためには必須のアイテムです。なお、キャリパー・ブレーキのサイズですが、かつてはいわゆるスモールとラージの2サイズを同一グレードでラインアップする場合が多く見受けられました。
そういえばロード用ハブのフランジ径もかつては普通にスモールとラージがありましたが、ラージハブは絶滅状態。ラージの方がいろいろと有利なのですが、ちょっと不思議な話です。かと思えば完組ホイールの世界ではラージ・フランジが堂々と投入されたりする例もあります。今の時代、ハブ単品というのは、メーカーにしてみれば、数が捌けず全く儲からない商品なのかも知れません。(脱線)
専用マドガードの製作はカンタンに断られてしまったので、自分で製作していますが、その顛末はこちらに詳しくレビューしています。結果的には、当の本人が驚く完成度で出来上がってしまいましたが、自分で何とかしなければならないとなったときには、ちょっと、途方に暮れました。それもいい思い出です。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=5097&forum=97こういう定型外の面倒な仕事を工房に依頼すると、そもそも、如何ほどの金額で受けてくれるのでしょうか?こういう仕事は儲けを度外視しないとできません。経験談をお持ちの方の話を伺ってみたいような気がします。なお、マドガード、フレームともに2011年に再塗装を施しており、マドガードの塗装は自前です。クリアの上塗りはしていません。フレームの色は、上村塗装の手によるもので、マドガードの色サンプルと寸分違わぬ色を調整していただいています。
・・・いすゞエルフ往年の定番色が与えられたフレームとマドガード
■■■ 28Hリムの入手 ■■■
小径車で32Hや36Hというのは、スポーク密度が高くうるさい感じになるので、28Hの選択というのは自分的には必達項目でした。これが出来ないのなら小径車は作らない、という位の位置づけです。また、小径ホイールで36Hなど、何も考えずに組んでしまうと、えらく剛性の高いホイールになってしまい、乗り心地が酷いことになる、というのも理由です。小径タイヤには良いものが少ないので、かかる事態は避けたいところです。以下は面倒なレビューですが、ご参考まで。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=12650&forum=48&post_id=21983#forumpost2198328Hの小径リム。現在の入手性はどうでしょうか。私はアラヤの廃番20Aを使っていますが、もはや、選びようがない、というジャンルになっているのかも知れません。手持ち在庫はあと4本ですので、自転車を降りるまでは何とかなりそうです。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=8325&forum=30&post_id=14234#forumpost14234なお、2000年前後の時点で、名車バイク・フライデーをはじめ、実はかなりの数が存在したETRTO 451サイズの20インチスポーツ小径車のなかで、28Hホイールを装備したのは唯一、ブリヂストンのトランジット・スポーツだけだったように記憶しています。
さて、2002年当時はアルテグラで28Hハブがちゃんとラインアップされていましたが今はありません。デュラのWレバー廃止もそうですが、こういうところで合理化してしまうのはユーザにとってなかなかつらい話です。売れないハブ単品の中で、さらに全く売れない28Hハブを生産すること自体、在庫投資粗利益率や売上高営業利益率を上げたいメーカーにとっては邪魔なものなのでしょうが、自転車文化の深化のためにも、あったほうが嬉しいですねぇ。(また脱線)
■■■ ギヤレシオ ■■■
10速でフロントがTAの54/38、スプロケがアルテグラの11,12,13,14,15,16,17,18,21,23です。自分にとっての54×17Tの重要度を考えると、17Tが省略されてしまうシマノの11~25の選択は難しいところです。20インチホイールなので38×23で大抵の激坂は大丈夫、なので結局、11~25は選択しませんが。
レシオ設定は重要、です。
■■■ 驚愕のフロント変速フィーリング ■■■
フロントディレイラーは30年近く前に購入した74デュラ。これにケルビムの意匠であるPowerPost(勝手に命名)により後傾セットして、驚異的にスムーズな変速を見せます。あまりにもスムーズ過ぎて仰け反ってしまいそうなほど、ただならぬ操作感、です。平地、登坂、下りを問わず、小径車であることをすっかり忘れてしまうほど、走りに集中できる自転車なのですが、この変速フィーリングの良さも大いに貢献しています。
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=8615&forum=34 ・・・ PowerPostと74デュラで驚愕のフロント変速フィーリング
なお、変速レバーは現在、78デュラのWレバーで、SIS側で使用しています。
・・・今さらのWレバー(あれっ、カンパのマークを想起させるデザインですねぇ)
https://twitter.com/campagnolosrl■■■ 自分だけの清々しい一台 ■■■
自ら長考して決定したフレーム・ジオメトリのすべての数値に理由があるのですが、その数値には、真実が宿る、のだと思います。なぜダウンチューブがヘッドチューブとあんな位置で交差するのか?無論、理油があります。
本当にいい自転車が出来上がりました。
ところで、いい自転車を手に入れるために金に糸目をつけぬ、という方法論は、私には身についていないし、身につかない性分でもあります。そういうことには興味がないといったほうが良いかもしれません。何かを実現するときに、金さえかければイイもの、満足できるものが入手できる、という発想は結局、私には到底無理で、むしろ、私のような人間が金をかければかけるほどカッコ悪くて悪趣味で、恥ずかしくて、イタいものに近づいてしまうのが関の山です。安い自転車を普段着で乗り回して心底楽しんでいる高校生などを見ると、いいなあ、と思う類のニンゲンなので、やむを得ません。
ちなみにこの小径フレーム"CR"、ジオメトリ・フルオーダーですが、その場合は基本価格の30%増で、当時102700円で製作してもらっています。その後のパフォーマンスを考えれば、全く、信じられないほどの廉価、です。なお、"CR" のベース価格は当時、79000円でした。
「これは世界最高の小径車である」
無論、自分にとってそうである、という話でしかないのですが、断言してしまってもよいのだ、と思っています。この15年間、この自転車で走った思い出がずいぶんたくさんあります。最近は出走頻度が減ったとはいえ、いつか自転車から降りるまで、これからもこのCRでサイクリングに赴くでしょう。
・・・ かくして世界に2つとない自転車の出来上がり
・・・先代・仁さん名義の署名風デカール・・・
・・・80度のスレッド・ステムがあと2mmしか下げられない・・・それは狙い通り
価格評価→★★★★★(+★)
評 価→★★★★★(+★) 自転車サイコー!!
年 式→2002