購入価格: ¥38,508 (税込) ※クランクセットとブレーキレバー、カセットスプロケットを除いた価格
標準価格: ¥45,339 (税込)
『仕上げやデザインに残念な部分はあるものの、動作の滑らかさや正確さはさすがXT』
■ 気がつけばメインコンポーネントはDEORE XT
私はGIANT SEEK R3というクロスバイクに乗っている。私はこのクロスバイクが大好きで、いつもピカピカにしておきたいし、できるだけ軽快な走りをしたいと考えている。元々、リア8速だったが、その後DEORE M590シリーズ (クロスバイク/トレッキング用)で9速化、DEORE T610シリーズで遂に10速化を果たした。
今回投稿するのはトレッキングバイクコンポーネントDEORE XT T780シリーズだ。DEORE LX T670シリーズの商品説明には、「MTBのダイナミックさと、ロードコンポーネントの軽やかさとの調和から生まれた上質のクロスオーバー」とあるが、これはトレッキングバイクコンポーネント全てに当てはまる説明だ。DEORE XT T780シリーズはクロスバイク向けのコンポーネントであり、トレッキングバイクコンポーネントの中では最上位グレードにあたる。
このコンポーネントは一度に揃えたものではなく、少しずつ交換していったものだ。元々使っていたペダルに加え、手組みホイールのハブ、VブレーキがDEORE XT T780シリーズになり、衝動買いしたリアディレイラーの素晴らしさから、シフトレバー、フロントディレイラー、チェーンまでXTになった。気がつけばメインコンポーネントはXTに。クランクセットとブレーキレバーはDEOREのままであるが、DEORE XT T780シリーズ全体での評価を投稿したい。使用期間はパーツによって異なるが、主に半年〜1年未満、ペダルは約2年だ。
写真(左): DEORE XT T780シリーズ ※クランクセットとブレーキレバーを除く
写真(右): メインコンポーネントにDEORE XR T780シリーズを導入したGIANT SEEK R3
■ 私のクロスバイクの仕様
具体的な構成は以下の図の通り。全てシマノのテクニカルインフォメーションの互換性を満たす組み合わせだ。10速用のトレッキングバイクコンポーネントやMTBコンポーネントの一部、ロード用カセットスプロケットの一部に互換性がある。尚、SEEKはVブレーキ仕様なので、ブレーキはBR-T780、ハブもVブレーキ仕様のHB-T780とFH-T780だ。ロード用のスプロケやエンド幅135mmのVブレーキ対応のハブが存在するあたりが、まさにクロスバイク向けの仕様だ。
図: ブレーキシステム (Vブレーキ仕様。ブレーキレバーはDEORE BL-T611)
図: フロント駆動系 (クランクセットはDEORE FC-T611)
図: リア駆動系 (カセットスプロケットはロード用CS-4600)
図: ペダルとハブ
■ MTB然としたクランク、ブラックとシルバーが混在する色使いが残念
【その後リリースされたグレードの元になったデザイン】
DEORE XT T780シリーズは、その後リリースされたトレッキングバイクコンポーネントのデザインのベースにもなっている。特に前後ディレイラーやシフトレバーには、各グレードに共通したデザインが見られる。リアディレイラーはロード用に近い形状で、シフトレバーには目盛りと数字の入ったオプティカル・ギア・ディスプレイが採用されている。特にオプティカル・ギア・ディスプレイはクロスバイクらしくて良い。全体的にシャープでメカニカルなデザイン。都会的かつ近未来的だ。
写真: DEORE XTのデザインは下位グレードにも受け継がれている
【MTBの特色と強く残したクランク】
このコンポは下位グレードと異なり、クランクがキャップレスデザインではなく、MTB用コンポの特色を強く残したものになっている。私はMTB然としたクランクよりも、クロスバイクらしい見た目を重視したキャップレスデザインの方が好みだ。これが私がDEOREのクランクを使っている理由だ。下位グレードの方が好みというのも変な話だが、後発品だけあってデザインは洗練されている。
写真: キャップレスデザインの方がクロスバイクらしい印象だ
【一部のバーツはブラックとシルバーが混在】
このコンポのもうひとつ残念な点は色使いだ。パーツによってはブラックとシルバーが混在して見た目がすっきりしない。特に残念なのがブレーキレバーとシフトレバー。ブラックとシルバーの2色展開だが、どちらもレバーとブラケットの色が互い違いで統一感がない。シフトレバーはメインレバーのシルバーが正面から見えなにくいのが幸いだが、ブレーキレバーはかなり目立つので使う気になれなかった。結局、私がこのコンポで導入したのはブラックのパーツだけだ。
写真: メインレバーはブラックにして欲しかった
■ 全体的に高い質感。ただしシフトレバーを除く
DEORE T610シリーズ同様、パーツごとに質感が異なる。目立ちやすいリアディレイラーは光沢の塗装仕上げ、汚れやすいVブレーキやハブは梨地になっている。フロントディレイラーのガイドプレートがクローム仕上げになっているのはFD-T780のみで、見た目の満足感は高い。
仕上げの質感はDEOREと同等だが、これはDEOREが頑張っていると見るべき。細部のデザインは異なるものの、リアディレイラーの塗装の質感もVブレーキのアルマイトの美しさもほとんど同じだ。だから、DEORE T610シリーズに組み込んでも全く違和感がない。ただ、シフトレバーは上位グレードらしい上品さを出して欲しかったところ。DEOREなら高い質感だが、DEORE XTとしては物足りない。
写真(左): 全体的に表面仕上げが美しく、質感が高い
写真(右): シフトレバーは上位グレードらしさに欠ける
■ ブレーキアームは高剛性だがシューがダメ。ブレーキレバーは3フィンガーのみ
私がBL-T780-Bを使わないのは、デザイン面だけが理由ではない。私は3フィンガーのブレーキレバーよりも2フィンガーの方が好みで、2フィンガーはDEORE T610シリーズにしか用意されていないからだ。VブレーキBR-T780との組み合わせは良好。効きは良いがピーキーな特性は抑えられ、とてもコントロールしやすい。
ただし、BR-T780はブレーキシューがダメだ。マルチコンディション用のブレーキシューM70CT4はリムへの攻撃性が高く、ロード用のアルミリムDT SWISS RR585をガンガン削り、ガシューという音とともにシューに金属粉が多く付着する。使うならドライ用のS70Cがおすすめ。リムへの攻撃性は非常に低く、音鳴りもしなくて快適だ。
ブレーキアームの剛性感はさすがDEORE XTといったところで、DEORE BR-T610よりもたわみが少なくカツンと効かせられる。特に高速時に安心できるようになった。ただ、ケーブルの固定方法はBR-M590と同様に固定ボルトが上向きに付いている一世代古いタイプ。BR-T610のように固定ボルトが前向きに付いているタイプの方が作業しやすい。
写真(左): リムへの攻撃性が高いM70TC4。ロード用のアルミリムとは相性が悪いと思う
写真(右): 固定ボルトは上向きのものだ
■ わずかではあるがフロントの変速フィーリングが向上
クランクがDEORE FC-T611のままなので、フロントの変速性能自体に以前と大きな違いはない。強いていえば、SIL-TECチェーンのCN-HG95が軽さと滑らかさにわずかに貢献しているといった感じだ。全体としては非常に軽い動きで、アウターギアへのシフトアップもハンドルバーを握った状態でも親指一本で可能だ。
ただ、指に伝わるシフトレバーのフィーリングは大分違う。これはシフトレバーのマルチベアリング、アルミ製メインレバーがかなり効いている。レバー自体に滑らかさが増して、スルリと軽くなった感じだ。リアほど頻繁に使わないが、インスタントリリースによる素早いシフトダウンも走行の楽しさに貢献する。
写真(左): マルチベアリングとアルミ製メインレバーのフィーリングは良い
写真(右): 変速性能はチェーンリングの影響が大きいようだ。フロントディレイラーだけでは分かりにくい
■ リアの変速は大幅にパワーアップ
【多様なシフト操作】
DEORE XT T780の最大の魅力は、リア駆動系にあるといっても良い。特にシフトレバーのSL-T780の多様なシフト操作は、トレッキングバイクコンポーネントではこのグレードでしか味わえないものだ。下位グレードのツーウェイリリースに加え、操作と同時にワイヤーが解除されるインスタントリリース、2段一気にシフト可能なマルチリリースは、クロスバイクの楽しさを大きく引き上げる。特にインスタントリリースは電光石火の早業。スピードと気分の高まりに、シフトの素早さが同調する感覚だ。
写真: 多様なシフト操作が最大の魅力
【軽く滑らかで上質な動き】
リアディレイラーはチェーンの動きの軽さと滑らかさも素晴らしい。これはシールドベアリング入りガイドプーリーと可動部のガタの少なさが貢献している。この辺はさすがとXTといったところで、このコンポで最も上質さを感じた部分だ。また、トレッキング用に最適化されたスプリング力の軽いリアディレイラーのおかげで、シフト操作はとても軽快。シフトレバーのマルチベアリングとアルミ製メインレバーと相まってますます快適だ。
写真: 滑らかな動きに貢献するシールドベアリング入りガイドプーリー
【ロード用スプロケが使用可能】
トレッキングバイクコンポーネントの大きな特徴は、ロード用のカセットスプロケットが使えることだ。ローギアが32T以上ならMTB用のスプロケを、28〜30Tはロード用のスプロケを用いる。シマノのラインアップチャートによると、このグレードに相当するのはCS-6700だが、私は前回から引き続きCS-4600 12-28Tを使っている。トップギアの11Tはほとんど使わないが、25Tなら割と頻繁に使う。このコンポが選べる構成では最もクロスしていて、平地ではとても使いやすい。
写真: CS-4600を組み合わせて使用
■ 随所にXTらしさを感じるハブ。Vブレーキのクロスバイクに対応
手組みホイールのフロントハブにはHB-T780、フリーハブにはFH-T780を用いた。これらはVブレーキに対応し、フリーハブはエンド幅が135mmのフレームに取り付け可能だ。クロスバイクの完組ホイールの選択肢がほとんどない中で、シマノが手組み用のハブを用意してくれているのは嬉しい。
このハブで組んだホイールを空転させると、全く引っかかりがなくスルスルと回転する。このコンポでは最も精度の高さを感じる部分だ。クイックエンゲージメントによる実質36ノッチのフリーハブは私のお気に入りで、踏み込みに対して素早くトラクションがかかり、空転時も軽快に回り続ける。シールは二重で耐久性も抜群。アーレンキーを用いるロックナットは調整しやすく、クイックリリースレバーの固定力は確実だ。このグレードにしかない機能や特徴がいくつもあり、地味なパーツながら満足感が高い。
写真: 玉当たり調整可能なハブ
■ 街乗りに最適、かつ、物足りなさを感じないPD-T780
ペダルはPD-T780を使用。これは私が初めて使ったDEORE XTのパーツだ。片面SPD、片面フラットでスニーカーにも対応し、夜間の走行にも役立つリフレクター付きだ。踏み面が広くて安定感が高く、スピンドルは十分な剛性感。ベアリングのヌルヌルした回転にははXTらしい上質さがある。
このペダルはロード用のSPDペダルPD-A600よりも最弱のスプリングテンションが軽く、ステップインもステップアウトも軽い力で行える。シマノのラインアップチャートによると、CLICK’RペダルではPD-T420、PT-T700が対応するが、PD-T780のスプリングテンションなら初心者でも特に問題ないと思う。付属するのはマルチクリートだが、シングルクリートを使えば物足りなさを感じなくなる。
写真: 小傷はあるが2年以上もなめらかな回転を保っている
■ 大幅な軽量化にはクランクセットが効果的
私はクロスバイクの軽量化には興味ないが、参考のためDEORE XT T680シリーズとDEORE T610シリーズのカタログ重量を比較してみた。ただし、ペダルとハブは除いている。カセットスプロケットはシマノのラインアップチャートにある組み合わせの中で近い歯数を選んでいる。
全てDEORE XTに交換すると約394gと大幅な軽量化になるが、クランクとブレーキレバーがDEORE T610シリーズでスプロケがCS-4600のままだと108gと若干の軽量化。この程度ではほとんどというか全く軽量化の影響を感じられない。やはり大幅な軽量化を叶えるのはクランクセットとスプロケだった。
図: DEORE XT T780シリーズとDEORE T610シリーズの比較
■ トレッキングバイクコンポーネントならリア10速をおすすめ
DEORE T610シリーズは軽い操作感とグレードの割に美しい仕上げが印象的なコンポーネントだったが、DEORE XT T780シリーズはさらに動きのスムーズさや正確さが加わった感じ。可動部のガタの少なさ、加工精度の高さ、上位グレードのみに搭載されたテクノロジーなどが上質な動きに繋がっている。多彩なリア変速のシフト操作も見逃せない点だ。
DEORE XT T780シリーズを使って改めて感じたのは、DEORE T610シリーズが非常にコストパフォーマンスの高いコンポーネントだということだ。Aceraをメインコンポーネントにしたクロスバイクに導入すれば、単なる10速化にとどまらない大幅なアップグレードを果たすことができるはずだ。
2014年モデルのトレッキングバイクコンポーネントにはALIVIOが加わった。2ピースクランクやカートリッジ式ブレーキシューのVブレーキなど魅力的なコンポーネントだが、上位グレードとの互換性を考えると10速のDEORE以上をおすすめしたい。
多くの人がクロスバイクのカスタムにはDEOREで満足するはず。もう少しラグジュアリー感が欲しいならDEORE LX、私のようにクロスバイクを最高の1台にしたいなら最終的にDEORE XTという感じになると思う。グレードを統一したほうが性能を発揮できるが、部分的に交換しても性能向上は体感できるものパーツは多い。例えば、MTB完成車のようなリアディレイラーのみDEORE XTというのもありだと思う。
写真: DEORE T610シリーズはコストパフォーマンスが高い
■ クロスバイク乗りに捧ぐ長文レビュー
DEORE M590シリーズ (クロスバイク/トレッキング用)、DEORE T610シリーズを経て、ようやく憧れのDEORE XT T780シリーズに辿り着いた。コンポーネントの換装が自分の経験や思い出になり、今の自転車の楽しさに繋がっているのだから、遠回りしたとは思わない。ちょっと長い距離を走りに行っただけだ。
クロスバイク向けのコンポーネントをセットでレビューするのもこれで3回目。私のようにトレッキングバイクコンポーネントに凝っている人はそんなにいないと思う。中途半端な車種やコンポなので需要はかなり低いはずだが、クロスバイクをもっと楽しみたい人にいつかこのレビューを読んでもらえたら嬉しく思う。長文だが必要な情報を拾ってもらえたら幸いだ。
私としては色々な意味で達成感のあるコンポーネントになった。クロスバイクのカスタムはこれでとりあえず終了。DEORE T610シリーズでも同じようなことを言ったが、もうカスタムのしようがない。だからといって楽しさが減るわけではなく、快適な走行はこれからも続くだろうし、クロスバイクと共にたくさんの思い出もできる。これからもクロスバイクを思いっきり楽しみたい。
図: DEORE XT T780シリーズの良い点と悪い点
価格評価→★★★☆☆ (クランクセットが最も高価)
評 価→★★★★☆ (性能は素晴らしい。デザイン面と質感に残念な部分がある)
<オプション>
年 式→2012年
カタログ重量→2473.6g (フルセットの場合)