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厳しい競技の世界に身を置く方は日々、体重管理に気を使っているのではないかと思います。
「シーズン前に一気に減量するが、食べる量を減らすという方法は採らない」
とか、
「運動量を少し増やして、摂取カロリーを少し落として一日100グラムのペースで減量するのが無理のない方法だ」
とかとか。。。
自分の走りの特徴を際立たせるための体重と筋力の均衡とか、ヒルクライムで自己記録を縮めて上位に食い込むためのベスト体重の設定といった難しい課題に、色々な情報や独自の哲学を織り交ぜて取り組んでいるのが競技者という類の方々なのではないでしょうか。
ただ単純に自転車通勤をするだけの私など、体重を計って、「増えてるなー」とか「あれれ減ってきたなー」みたいに思うことはあっても、マジメに体重管理するなんてことは、ありません。
そんな私ですが、じつはかれこれ18年ほど毎朝、起床時に体重を計測しています。体重というのは水分摂取量や発汗量、食べる量に応じて日々、数100グラム程度は簡単に変動してしまうもので、計りはじめた当初は、
「ずいぶん変動するもんだなぁ」
と思ったものですが、何年もやっていると、おなかの微妙な起伏を見ただけで、結構な精度でその時の体重を言い当てることが出来たりするようになります。(←ほとんどアホ)
そんなこんなで溜め込んだ18年間のデータですので、どうせなら・・・というわけで、このなかから、1997年1月1日から2014年1月1日までの17年間、6210個のデータを使って遊んでみました。自転車競技者にとって必要不可欠な体重管理につながる何かが、もしかしたら見えてくるかも知れません。
(見えてこなかったらスミマセン・・・)
■■■ 体重はかくも激しく変動する ■■■
まずは、外国に行く時も体重計を持ち歩いて得た17年間の計測結果を俯瞰します。なお、年に数日は計測しない日がありますが、その日の体重は、多分こんなもんだろう!という脳内体重計の推定値を用いています。大勢に影響はないでしょう。なお、体重計が不審物と間違われたのか、空港で預けた荷物が到着地の空港で出てこなかったことがあります。きっと成田で精査されていて、次の便に乗せられたのでしょう(か?)。こういうのは手荷物で持ち込まないとダメですね。
おっと、体重計測結果ですが、グラフにするとこんな風です。
fig.1 日々の体重変化
fig.1は日々の体重を表しています。横軸は17年間、6210日の幅になっています。全体の平均値は69.51kgです。なお、体重計はタニタ100グラム計を使っていますが、例えば68.1kgと68.2kgのどっちつかずの表示になるような場合には68.15kgを採用しています。上のグラフではずいぶんと体重が細かく変動しているように見えます。これをはっきりさせるために、当日と前日の差分をグラフにしてみます。
fig.2 当日と前日の体重の差分
こんな調子です。おおよそプラスマイナス2kgの振れ幅があります。しかし、一日単位で腹に2kgも肉がついたり落ちたりするわけはなく、この変動の大半は、水分摂取や食事量、発汗量の日々のばらつきによるものです。
ヒストグラムにするともう少し分かりやすくなります。
fig.3 当日と前日の体重の差分のヒストグラム
当日と前日の体重差は、ゼロ近辺の頻度がほぼ最大です。そりゃまあ、そうですよね。そしてプラスマイナス0.5kgの体重差の範囲内に50%程度の確率で入ってきます。結局、
「げっ、昨日から1キロも増えてる!」
などということも時にはある、ということです。ダイエットなどされている方は、日々の体重変化に一喜一憂せず、1週間単位といった期間の変動に注目するべき、ということがわかります。
■■■ 中期変動を的確に捉える ■■■
大体、特に心当たりがなくても体重というのは日々結構な勢いで変動しますので、ダイエットに挑戦されている方は、そんな日々の増減に一喜一憂しないためにも、体重変化の大きな傾向を把握する必要があります。たとえばこんな風。
fig.4 オリジナルデータ、一週間データによる平均化、3週間データによる平均化
図の青線がオリジナル、黄緑線が、一週間のデータを使って日々の激しい増減の影響を緩和させたもの、赤線は3週間のデータを使ってさらに滑らかにしたものです。ちょっとわかりにくいので、拡大してみると ・ ・ ・
fig.5 部分拡大(fig.4の)
250日の幅で表示しています。
3週間分のデータを使って作成した赤線は、体重変動のど真ん中を捉えて推移していることがわかります。日々変動する青線ではなく、ど真ん中を貫く赤線で体重管理するのが適当じゃないでしょうか。
じゃ、このグラフをどうやって書くか?
ご多分に漏れずこういう数字の管理はエクセルみたいな表計算ソフトが便利です。21日間のデータを使っている赤線について説明します。次の図。
fig.6 重みづけを実施してデータを作成する
この図で、
A列→日付
B列→体重計の値
C列→21日分のデータを使って得た体重
D列→7日分のデータを使って得た体重
です。2013年1月1日に着目すると、C列の体重≪67.003kg≫を、B列の21個のデータを使って導いています。2013年1月1日をはさんで21個のデータを使うところがちょっとした特徴ですが、したがって、2013年1月1日のC列での値というのが判明するのは10日後の2013年1月11日ということになります。
実はこの21個のデータ、単に足し合わせて21で割っているというわけでもありません。まあ、それでも全然よいのですが、私は次のような関数で重みづけを行っています。
fig.7 重みづけ関数
つまり、2013年1月1日の体重の重みづけを最大として、離れるほど重みづけを小さくしています。これはある分野ではよく知られた重みづけの方法で、こうすることでちょっとだけいいことがあるのですが、この関数が何者なのかとか、何がいいのか、といった説明は省略します。重みづけの具体的数値を次に示しておきますので、実際にやってみようという方は、参考にしてみてください。
下図で、左側が21日平均で使う重みづけ、右側は7日平均で使う重みづけです。
fig.8 重みづけ関数の数値
21日平均用の重みづけ係数は、全部足し合わせると11になるので、これらの係数を掛けた体重を全部足して、それを11で割れば、21日平均の体重が得られる、というわけです。同様に7日平均は係数和が4なので、これらの係数を掛けた体重を全部足して4で割れば、7日平均の体重が得られることになります。
■■■ FFTによる解析 ■■■
いままでは時間軸上で体重変動を眺めてきましたが、周波数軸上で眺めてみます。時間軸上のデータを一つの欠損もなく周波数軸上に移行させる方法として、フーリェ変換という数学の道具があります。面倒な説明は省略して、フーリェ変換を行った結果を以下に示します。この表示形式はパワースペクトル密度(PSD)と呼ばれるものですが、理論的背景は割愛!
fig.9 体重データのパワースペクトル密度(PSD)
横軸は時間の逆数で1/dayすなわち周波数(frequency)となっています。オーケストラのピッチ合わせの音が、通常の室温では概ね440Hzあたりになったりするのですが、このHz (ヘルツ)が周波数の単位です。普通、周波数といえばコレです。1秒間に440回だけ振動するのが440Hzというわけ。では、この図の横軸1/dayで、例えば0.5のところは何かというと、2日分の1 = 0.5、すなわち2日で一回だけ振動する成分の大きさを示しています。
ここで注目したいのが、グラフの右側に位置する0.1すなわち10日分の1よりも高い周波数の領域です。3つの極めて明確なピークが見られますが、周波数は一番左側のピークが7日分の1、すなわち周期でいうと、7日。次のピークが7日分の2、その次が7日分の3です。
fig.10 部分拡大(fig.9の)
特に7日分の1すなわち一週間周期のピークが大きいのですが、これは生活リズムを反映しているものでしょう。つまり、毎週5日間は働き、土日は休日で食生活も多少変化する、という一週間を一区切りとする日々の営みが図らずも体重変化の中にはっきりとあらわれている、ということです。この変化は一週間で1周期ですが、正弦波的ではないため、一週間の整数倍の高調波成分が発生します。これが7日分の2と7日分の3という周期が同時に現れる理由です。
一日一回しか計測していないので、横軸は周期が7日分の3.5までしか計算されません(その理由は省略します)が、もし、12時間ごとに計測して1日2の回計測を行えば、このグラフの中に7日分の7、すなわち1日周期の変動も見えてくるはずです。
やはり、一週間という周期は生活リズムの面からも、とても基本的な周期なんですねぇ。一方で一週間周期よりも長い周期の変動では明確なピークは見当たりません。強いて言えば0.00274つまり365日分の1のところにピークがあります。1年を周期とする季節変動成分です。このピークは、ボケーと眺めると、偶然のピークのように見えますが、365日分の1のところにわざわざ位置していますから、まず間違いなく、1年周期のピークでしょう。こういうピークは、4、5年程度の長さのデータでは現れなかったかもしれません。
■■■ パワースペクトル密度(PSD)の右下がり特性の意味 ■■■
もう30年ほど前の話ですが、半導体の雑音の周波数特性などで現れる1/f(エフぶんのいち)揺らぎ、というものが一般に知られるようになりました。半導体や電子回路などの雑音、時計の中に入っている水晶振動子やGPS衛星などに搭載される原子発振器の安定度評価などの世界では、1/f揺らぎも含めてさまざまな計測や研究がなされていますが、さらには、せせらぎの音や心拍の揺らぎは1/fの揺らぎ特性を持っているとか、1/f揺らぎ扇風機とかとか。
ところで体重のPSDに目をやれば、
「お゙お゙ーーっっ!」
これってほとんど1/fの傾きじゃないか!?
次のグラフで赤い線は、青い測定値を9次関数で近似したものです。黄緑の線は1/fの直線を示します。何ということでしょう。赤い線は1/fの線に巻きつくように漂っているではありませんか。
fig.11 体重変動の1/f特性
こ、これは未踏領域。
多分いまだかつてない発見ダ!(マジな話)
そうだ、nature誌に投稿しなければ(コラコラ)
■■■ 体重変動を乱数で発生すると ■■■
体重の変動を乱数で発生させてみます。
標準偏差が0.35の正規分布乱数を発生させて体重変動を模擬し、この体重の当日と前日の差分を描いたのが次のグラフです。その次がヒストグラム。いずれも、実際の体重で描いたfig.2やfig.3のグラフとそっくり!です。
fig.11 乱数で発生させた体重の当日と前日の差分
fig.12 乱数で発生させた体重の当日と前日の差分ヒストグラム
これの体重データをフーリェ変換すると。。。
fig.13 乱数発生した体重の0/f特性
実際のデータとそっくりなのに、こんな風に、1/fどころか、0/fの特性を示します。緑線は線形近似した線ですが、まさしく0/fとなります。乱数ですから、どんな周波数でも同じように揺れている、ということです。何というか、精気がない、生きていない感じ。こうしてみると、現実の体重変動の生々しさがわかるような気がします。
体重変動の1/f特性
これはきっと、人間が生きている証、なのでしょう
評 価→★★★★★(ずいぶん脱線してしまいましたがこの際、気にしないことにします)
年式1996~2014
※研究関係の方で、生データを入手したいというかたにはデータを差し上げます。
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※1/f揺らぎの説明に関しては、コレが平易でわかりやすいと思います。
http://www.bfl.co.jp/news/source/2006/12p048-kouken.pdf※fftの計算はエクセルでマクロプログラミングしてもよいですが、フリーソフトのscilabが便利です。こんな便利な計算ツールが自由に使えるなんて、不思議な世の中になったものです。
※どうでもいい話ですが ・・・1996年、ツール最終日の観戦に合わせてイタリアからフランスをかみさんと旅した時の話です。フランクフルト経由でミラノに降り立つと、成田で預けた荷物が紛失!中に入れておいた体重計が荷物検査でひっかかって、一便遅れで搭乗したのでしょうか。あーやれやれ、と思いながらホテルで夜中にパンツを洗濯していたら、旅行会社の人がスーツケースを見事に回収して持ってきてくれました。