【NHK BS】にっぽん縦断こころ旅
俳優・火野正平が撮影スタッフとともに全国各地を自転車で走るという番組です。
上のGlennGould氏のレビューにあるように、「視聴者から寄せられた手紙」にしたためられた、視聴者にとっての「思い出の場所・忘れられない場所」を目指して走り、目的地で見晴らしの良い感じの場所を選んで火野氏がそこに腰を落ち着け、あらためてその手紙を読み上げる、というシンプルな構成(途中でごはんを食べたり、雨宿りしたり、疲れたりする様子が淡々と記録されています)。
「手紙」には時に重たい物語が隠されていることもあるものの、番組構成的にその「手紙」は火野正平を移動させるための装置として機能しているに過ぎず、番組全体が「全聾の天才作曲家の苦悩」みたいな雰囲気になることはないので、安心して見ていられます。
ただこの番組がはじまった当初、私は微妙な違和感を持ったのを覚えています。というのも、町の人に対する火野正平氏の話し方、ジェスチャーなどの身のこなしが、なんというかぶっきらぼうというか、少し乱暴というか、無愛想な感じに見えたからです(時には失礼な感じに見えることさえあった)。
しかし何度も見ているうちに、火野正平氏のそうした仕草がなんとも魅力的に思えてきました。最初の頃は、あ〜身近にこういう人がいたらやりづらいな、なんか気軽に打ち解けるのが難しそうな人だな…と思っていたのですが、たぶんこの人はすごくシャイで正直な人なのだろうと思うようになりました。
ほとんどの人は日常生活で火野正平氏のように振舞うことはできないだろうし、する必要もないと思いますが、テレビという窮屈なメディアの中でのこの自然体ぶり・自由人ぶりが眩しい。疲れた時は疲れた様子をしている。笑いたくない時は笑わない。ヘンなことを言う奴には、返事をしない。最高ですw 会社なんかではこうは行かないことがほとんどでしょう。
番組中、BGMもなく、淡々と道を走る映像と走行音が流れる時間が多い。これは最近の自転車動画でも流行中(?)らしい「RAW動画」的なタッチで、なかなか良いです。過去の再放送等を録画してローラー中などに見たりしていますが、ひょっとするとこの番組は長く続けば続くほど貴重な「日本を自転車で走ったRAW動画の集大成」になるのではないかと思ったりする。
自転車の目線で、自転車のスピードで動いていく日本の風景のアーカイブという、資料的価値が非常に高い番組になる予感がします。
そして誰が選んだのか、火野正平氏が駆るトマジーニやRin Projectのカスク、キャラダイスのサドルバッグ等、自転車や小物、ウェアなどが、決して下品にならず絶妙な趣味の良さを感じさせるものになっているところがまた素晴らしい(「玄人好み」っぽいセレクションは、それはそれでいやらしくなる懸念もあると思いますが、火野氏の自転車とウェアは個人的に趣味が良いなと思いました)。
もし火野正平氏が最先端のカーボンロード、例えばCARRERA Fibraに乗って、先鋭的なデザインのヘルメット・Catlike Whisper Plusをかぶっていたら番組のテイストは全く違ったものになっていただろうと思われます(笑)
今年の秋も放送されるとのことですが、今後もNHKのドキュメンタリーにありがちな暑苦しいド短調のストリングス音楽などは絶対につけず、このドライでRAWな雰囲気のまま番組が継続していってくれることを期待します。
私はこの番組で火野正平という俳優のファンになりました。
評 価→★★★★★
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