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元ホビー・ロードマン吉本司氏の【トライ&ジャッジ】249ページ【イーストン・EC90SLXカーボン】によれば、【鋭い加速性能と軽快なハンドリングは軽量ホイールならではの走行感。(中略)軽量ホイールは慣性が小さいので高速巡航が不得意な製品も多いが、(後略)】とある。
さて、速度Vで走行しているときのバイクとライダーの合計質量Mの運動エネルギーは
E = 1/2*M*V*V
である。
次に、仮にリムを新調して前後で50gずつ、合計Δm=100gの軽量化によりホイール慣性モーメントが小さくなったとしよう。タイヤの路面接触側は周速度がバイクの走行速度Vと同じとなる。リムの半径をタイヤ接地面までの半径として近似すれば、軽量化した質量Δmによる慣性モーメントの減少にともない、運動エネルギーは
E-ΔE = 1/2*(M-2ΔM)*V*V
である。2ΔMの2とは、全体質量がΔMだけ減ったことによる並進運動エネルギーの減少と、慣性モーメントが減少したことによる回転運動エネルギーの減少の2つを計上することを示す。後者の導出経過は省くが、近所の理系高校生に尋ねれば教えてくれるだろう。
仮に、マシンとライダー合計でMが72kgであるとすると、運動エネルギーの減少割合は72kgに対して200gすなわち、およそ0.28%である。つまり、同じ巡航速度まで持っていくのに必要な投入エネルギーが0.28%だけ減少することを意味する。(ここでマシン剛性などはもちろん、暗黙的に同じ条件であることは述べるまでのなかろう)リムの半径はタイヤ接地面までの半径よりも小さので、慣性モーメントの減少効果はこれよりも小さくなるが、それはひとまず置いておこう。
【軽量ホイールは慣性が小さいので高速巡航が不得意な製品も多い】とあるが、巡航速度Vからペダリングを停止すると、空気抵抗と路面とタイヤ間の抵抗とマシン自体の(非常に微々たる)抵抗で運動エネルギーが散逸し、減速する。このたった0.28%の運動エネルギーの差で減速の違いが体感できるだろうか?
逆に、仮にマシンとライダーの慣性質量だけが加速負荷であると簡略化して考えれば、同じ巡航速度に到達する時間は、平方根で効いて来るので、およそ0.14%の時間差でしかなくなる。10秒が9.986秒になるだけである。もちろん、ボトルの水を200gだけ捨ててもおなじである。非常に微差であるが、1000mタイムトライアルでは重要な差ではある。
しかし、雑誌でわざわざレポートするほどに、本当に走って有意な差として感じることが出来るだろうか?
回転しているからという理由で、慣性モーメントには何か不思議な力があるとでも言うのだろうか?さらに言えば、この筆者は本当にわかっているのだろうか?本当に慣性モーメントの差を加速や減速の差として体感した上で、述べているのだろうか?
だとしたら大したテイスティング能力の持ち主である。基本を押さえた上で、実証的な実験を行えば、加速・減速の体感の正体ももう少し詳しくわかるし、新たな知見も得られると思うのだが、いかがだろうか?
軽いホイールは高速巡航性能が劣る、などという表現もよく見られるが、そんなときはボトルの水を少しだけ増やしてみては如何だろうか?
都市伝説のようなインプレではない、真っ当なインプレを読者は待っている。
価格評価→★★☆☆☆
評 価→★☆☆☆☆