購入価格 ¥1785
2012年12月に発売された宇都宮ブリッツェン監督で、ヨーロッパや国内で活躍された元プロロードレーサー栗村修氏によるトレーニング本です。
評判が良いと聞いたので買ってきましたがしばらく積んだままになってしました。
栗村監督ごめんなさい。ようやく読み終わりました。
結論から言います。
これまで読んできたどんなトレーニング本よりも良いです。
今すぐ買いに行ってください。特に若い方で競技をする方はできるだけ早く読むべきだと重います。
私自身、この本に大学生の時に出合えてれば・・・なんて思ってしまう程です。
これさえあれば良いとは言いませんが、これを読まない限り、他のトレーニング本を買うことはほぼ無駄だと思います。
たしかにトレーニングそのものについても書かれてますが、これはそれ以外にトレーニングする前に知っておくべきことがかなり書かれてます。
また他の本ではあまりページ数を割かれることのないメンタル的な部分までカバーしてます。
そういうところまで基礎基本をしっかりと書かれてるのでかなりの良書だと思います。
内容を細かく見ていきます。
1章ではまずメンタルの部分に切り込んでいきます。
非常に面白いのが、こういった本は「こういう考え方をすべきだ!」と書かれたりすることが多いのですが全くそのようなことはありません。
否定せず、全てを受け入れて、性格を3つに分類してそれぞれの長所短所を把握した上で自分の弱さを受け入れて
どのようにすれば練習が捗るか、モチベーションを維持し、質の高いトレーニングができるか考えられてます。
特に栗村監督がやっていた女子高生がバス待ちをしてる坂をトレーニングコースに設定しより美しく、速く、格好よく走らなければいけない
という使命を感じてモチベーションを維持していたなど、本人が行った例が示されててなるほどと納得させられます。
2章ではいよいよトレーニングやフィジカルそのものについて書かれます。
しかし何のトレーニングが効果的などとは書かれません。
むしろ如何にトレーニングの質を悪くしないか、質の良いトレーニングをするにはどうすれば良いか、ということについてまとめられてます。
近年普及してきたパワーメーターなどを例に挙げ、非常に効果的ではあるものの、それに縛られてしまうと効果的な
トレーニングができなくなり、数値の上では非常に強力な走りができるようになったとしても実際には速くはなれていない事がある
などと恐ろしい現実を突きつけてくれます。
また、トレーニングを行いフィジカル的に強くなったとしても勝てないことが十分にありえるという現実についても書かれてます。
もちろんそれを放置はせず、どうすればいいかも後に書かれます。
むしろここではフィジカル的に強くても勝てないのではなく、フィジカル的に弱くても勝つ方法があるという素晴らしい未来を示してくれてます。
3章ではいきなりポジションやフォームについて書かれています。
しかし読んでみるとなるほど納得。ポジションがしっかりしていなければ力が十分に発揮できずせっかくの
トレーニングが無駄になってしまうのですからこれを無視しては1冊のトレーニング本にしたときの完成度が違います。
ここではとにかく基本に則りつつ、良いフォームが取れるようにするにはどうすれば良いか書かれてます。
また良いフォームとはどのようなものかもきっちり説明されています。
4章ではテクニックについて書かれています。
これは非常に多岐にわたりかかれていてペダリングやダンシングのテクニック、コースのライン取りや
ブレーキングのテクニック、集団での位置取りやドラフティング、先頭交代のテクニック、呼吸法のテクニック、
アタックやスプリント、ヒルクライムでのテクニックなど書かれています。
もうこれは目から鱗でここまで丁寧に、そして幅広く分かりやすく網羅してくれてるものを見たことがありません。
ここだけでも1冊の本にして売れるんじゃないか、この内容があれば1年間自転車雑誌で特集を掲載し続けれるんじゃないかというほどです。
また栗村氏のテクニックについての考えにも触れることができます。
栗村氏はレースでのテクニックを「愛の行為」と表現してます。
どういう事かは買って読んでください。
ものすごく納得してしまいます(笑)
本当にこれだけでもかなり価値があります。
5章では少し科学的なトレーニングへのアプローチがあります。
パワーメーターやハートレートモニターを活用したトレーニングについて書かれています。
ただし、そこまで深く切り込んでるわけではなく、あくまで基本的な部分に止めてるので深く知りたい方は
他の書籍を副読本に持ってくるといいと思います。
6章は身体のメンテナンスについて書かれています。
ストレッチやフォームを保つための筋トレについて書かれています。
筋トレについてはあまりここで深くは書かれてませんがストレッチについては一般的な床でやるものだけでなく、
自転車を使ってやる方法が書いてあるので、「さあ練習だ!」と意気込んで外に出てストレッチをし忘れたことに気がつき、
面倒なのでストレッチをやらずに走り出してしまうことを防いでくれると思います。
7章では食事について書かれています。
深くは書かれてませんが、必要十分な情報があります。
普段の食事から、レース中の食事までしっかりと書かれています。また、近年ではカーボローディングもあまり行わない場合が
あるなど面白い情報もあります。
8章では速くなるヒントと称して様々なことが書かれています。
ショップやクラブチームの選び方や、フレームやホイールなどのパーツの選び方、
そしてプロのレースから学ぶことを薦めていたり、トレーニング理論の選び方などまで書かれています。
今までの章の内容を読んだ上で、さらに一皮剥けるためにヒントが散りばめられてます。
先に読んでもふーん・・・って感じですが最後に読むことで色々と考えさせられます。
最後のトレーニング理論の選び方ではそもそも本書自体も役に立たない場合があることをしっかり書かれていて、
本当に良いトレーニングを見つけ行うためにはどうすべきか書かれています。
ここらへんがタイトルの白抜きになってる「かなり本気の」という部分だと思います。
本気でやるからこそ、これで全てではなく、しっかり自分で考える事を忘れないようにと釘を刺されます。
最後におまけとしてトレーニングプランノートがついています。
コピーして、本書に従ってトレーニングプランを組むことで計画的に効果的にトレーニングが行えるようになっています。
最初にも書きましたが、とにかく今すぐ買いに行くべきと言えるほどの良書だと思います。
当たり前で、基本的なことがしっかり書かれてるこれが如何に重要なことかは言うまでも無いでしょうが、
大概のトレーニング本はそこを無視して専門的な知識やトレーニングに走りがちです。
それは一見では価値が高そうで、研究熱心なホビーレーサーは飛びつくでしょう。
効果も一定はあるかと思いますが、本気になったとき、本気にならないと勝てないレベルに突入した時に役に立つかは疑問です。
基礎基本が抜けてる可能性がありますから。
その基礎基本をしっかり学ぶためにこれを教科書にするのは間違ありません。
私が競技部の監督だったりしたら間違いなく新入生には全員買わせて感想文の提出を義務付けるでしょう(笑)
読んでみれば既に何年も自転車に乗ってる方でも、意外と分かってなかったなんて事になる可能性は十分にあります。
今後、これはベストセラーになる本だと思います。ただ、あとがきにもありましたが本書が未完成であることをしっかりと
認めてますから、これに続く本や改訂版が出版され続けることを望みます。
価格評価→★★★★★(安すぎるがそれは自転車競技界を発展させるためだと考える。
なので金銭に余裕のある方は自分で使う用、保存用、布教用の3冊購入することをオススメします)
評 価→★★★★★(数少ない自身を持って薦められるトレーニング本。
メンタルの部分は他のスポーツにも十分転用できる程、質の高い内容)
蛇足
これは完全に私の私見で当てにならないかも知れませんが、
本書ではフィジカルの強さを鍛える以上にテクニックやメンタルについて書かれています。
それを栗村氏の哲学といえば聞こえはいいかもしれませんが、私には哲学というよりコンプレックスだと感じました。
若き頃、独り海外へ渡りレーサーとして活躍した栗村氏だからこそ分かる、欧米選手との圧倒的なフィジカルの差から
その差を埋めて勝つためにはどうすればいいのか?
体格はもう変えれない、フィジカルでは敵わないでも勝ちたい!
その思いを結晶化させて生まれたのが本書だと思います。
私自身、体格は良くなく、低身長で軽いうえに、大きな怪我を負い、フィジカル的に普通の人と比べれば世辞でも優れてるとは言えないでしょう。
しかしそんなものは言い訳にしかならず、言い訳したところでレースの結果は絶対に変わらない。
じゃあ勝つためにはどうすればいいのか?
それのヒントが本書に詰まってます。
若くなくとも、怪我で競技を諦めた方でも本書を読んでみるべきでしょう。
きっと何か道があるはずだと気がつくはずです。
まだ諦めるには早い。
そんな気持ちにさせてくれる本です。