カーボン製のハンドル、シートピラーなどが一気に普及しだした数年前からだろうか。自転車のパーツ組み付けにトルクレンチを使用して、締結トルクを管理するのが推奨されるようになった。
確かに一定以上の圧が掛かると破断してしまうカーボンパーツに対し、そのリスクヘッジの手段としてメーカーが推奨するのは分からなくもない。しかし逆にそれが行き過ぎて、「全てのボルト締結にはトルクレンチを使用すべきだ」「トルクレンチを使わずに組み付けを行うようなショップは信用ならない」などといった偏った風潮は気になる。
多少機械工学の心得がある人ならば、いくらトルクを一定に管理しても、必ずしもボルト締結力は一定にならないことは御存知だろう。むしろ熟練した職人の手の感触で締め具合を管理した方が安定した結果が得られることも多い。もしボルトの精度が悪くて摩擦が大きかったり、あるいはねじ止め剤を塗布していた場合など、指定トルクで締めていても十分な締結力が得られない可能性がある。ダウンヒル中にブレーキングしたらハンドルがステアリングコラムでズルッと回ってしまった、などという恐ろしい事態に遭遇しかねないのである。
個人的には現在の何でもカーボン化してしまうトレンドに違和感を感じている。特にこれまでスポーツ自転車に縁のなかった人達が大量に流れ込んでいる状態では、多少の軽量化や見た目のカッコ良さと引き換えに何より大切な安全性や安心感が損なわれているのではないかと疑問を禁じえない。
評 価→ --